「やー!! ぽぽ子ちゃーん!! そしてお付きの皆!! よく遊びに来てくれたねぇ!!
こんな静かなところだけど、是非ゆっくりしていってね!」
この本丸の主、素顔をお面で隠した審神者は両手を広げて、賑やかに来客たちを歓迎する。
お面で表情が見えはしないが、身振り手振り、その声色で、随分嬉しそうな様子なのだと分かり
蒲公英本丸の面々はひとまず、ほっと胸を撫でおろしたのだった。
「し、静かな所……? これが?」
お面の審神者がそう言う中、本丸のあちこちから襖がどどーんと音を立てて倒れる音、
小さな短刀たちに混じり、どうやら打刀や太刀と思われる青年たちが笑う声が、本丸中に響く。
周りの様子をちらと伺い、蒲公英本丸の歌仙兼定は、正座したまま笑みをひきつらせた。
「そちらの本丸の皆様は、随分と賑やかなのですね」
蒲公英の少女の審神者がおずおずと話しかけると、お面の審神者はくすくすと楽しそうに
ここまでの経緯を思い出しながら答えた。
「そうだねぇ、うちは政府からの特例で、一気に八振りの刀を頂戴したんだ。
その時にやってきたのも、これまた飲んべやらアクの強い刀ばかりでさ。
おまけに、最初から居たのが陸奥守吉行だったのもあって、最初から割と賑やかだったねぇ。
それに引き換え、ぽぽ子ちゃんの所は、随分とお行儀のよい面子だね?」
お面の審神者の目の前に揃って座っていたのは、蒲公英本丸の第一部隊。
歌仙兼定、五虎退、愛染国俊、小夜左文字、堀川国広、蜂須賀虎徹。
成程、確かに比較的大人しい面子ばかりである。
わんぱく小僧として名高い愛染国俊も、優美な所作の打刀2振りの監督の元、今日は大人しく振る舞っていた。
……が、慣れない正座で、足がぷるぷるしているのが目に見えて分かる。
ついに耐えきれなくなったのか、痺れた足を投げ出して愛染国俊は叫んだ。
「だーーーっ!! いでででで、もう耐えきれねーー!!!」
「こら! 行儀が悪いぞ…!!」
畳の上に足を投げ出したのを歌仙兼定が窘めようとすると、お面の審神者は笑ってそれを止める。
「あっはっは、構わないよ。小さい子たちに長時間の正座はきついだろうからねぇ。
ただ座って話をするだけじゃつまらないだろうから、中庭で遊んでおいで。
陸奥守、薬研、日本号、相手をしてあげてよ。うちのブランコ、彼らに見せてあげて。」
「やった!ブランコっつーので遊べる!!」
「よっしゃ! さぁ、おまんら、わしと一緒に遊ぶぜよ!!」
「はは、子守なら任せとけ」
「しゃーねぇなぁ。ほら、さっさと行くぞ!」
お面の審神者の傍で控えていた3振りの刀たちが、愛染国俊、小夜左文字、五虎退を連れて中庭へ繰り出す。
「わわ、すみません! 僕らもお手伝いします!」
「うちの子たちだから、俺たちもついていくよ」
その後ろから、慌てて堀川国広と蜂須賀虎徹も、彼らを追いかけて中庭へと出ていった。
「すまないね、あの子たちの相手をして貰ってしまって……」
主の傍にいる為に残った歌仙兼定が申し訳なさそうにそう言うと、後ろを振り返った陸奥守吉行は屈託なく笑う。
「かまん、かまん。おんしはぽぽ子ちゃんの傍に付いちゅうがいかんき。
ちっちゃい子たちと遊ぶのも久しぶりじゃから、あいつらもきっと楽しゅう思っとるぜよ!」
そう言った陸奥守吉行は、足取り軽く中庭へと駆けていった。
残った蒲公英の審神者の少女と歌仙兼定は、彼らが遊んでいる間、審神者としての先輩である
お面の審神者から、本丸運営についてのアドバイスをして貰う事になった。
蒲公英本丸は、まだ運営を始めて幾許も経っていない為、分からないことだらけであった。
おまけに、主である審神者の少女も、元が蒲公英の付喪神であり、人ですらなかった為
人間に顕現してからの生活は、前の主の元での記憶が残っている歌仙兼定に頼りっぱなしであった。
こうして、審神者仲間から情報を得るのは、貴重な機会だ。
「まず、君たちの本丸にはどのくらい人員がいるのかな?」
「初めに顕現されたのが僕で、今ここに来ている面子の他に、山伏国広、宗三左文字、
山姥切国広、鯰尾藤四郎、へし切長谷部に、大和守安定、和泉守兼定たちが、本丸で留守番をしているよ。」
「ふんふん。殆どが、初期に大体集まりやすい、銀のお皿の面子だねぇ。」
「銀のお皿?」
聞き慣れない単語に、蒲公英の少女と歌仙兼定が首を傾げると、お面の審神者は
意気揚々と一冊の書物を広げ、何もない空虚の空間を、白く細い指で指し示す。
すると、ヴーン… と電子音を響かせ、書物から光線が発せられ、それまで何も無かった空間に
光で描かれた画像が浮かび上がる。
唐突に表れたその様子に、2人は思わずおののいてしまう。
「驚いた? これ、君たちの所にもあると思うよ。
刀帳、って言ってね。顕現された刀剣男士たちの詳細な情報、逸話が載っている図鑑のようなものさ。
で、ここ見てくれるかい?」
そう言って指し示された先には、刀種を表す文字が表示されており、その文字を装飾していたのが
金色や銀色など、様々な形の枠であった。
「これがね。その刀剣の種類……太刀だとか、打刀とか、短刀なのかを表す文字で、
これを象っている装飾によって、より希少度が反映されるんだ。
刀剣の希少度の分類は5つに分かれているんだよ。
まずは、通称、灰皿。基本的には短刀は灰色の皿で、資材をあまり使わずに鍛刀や手入れが出来るよ。
短刀はみんなこの色だから、一口に灰皿と言ってもめったにお目にかかれない子、
鍛刀では入手不可能な子もいるよ!
その一つ上が通称、銀の皿。 脇差と通常の打刀はここだね。
ただし、希少度のより高い2番目の打刀も銀表示だから、なかなか出ない打刀がここに潜んでいたりするよ。
打刀の中でも希少度の3番目の子は、金色の表示になってるから分かりやすいね。
で、そんな希少打刀が分類されるのが金の皿!
かつて太刀から打刀に刀種変更された3振りともう1振りが居て、太刀に近い能力値なんだ。
さらに、黒に金色の縁取りがあるのが希少度4つ目。うちでは金縁漆皿と呼んでいるよ。
この辺に来ると、鍛刀でも戦場でも手に入れるのが難しくなるね。
あ、知ってた? 戦場で敵を倒すと、稀に刀剣男士が見つかる事もあるよ。
そして希少度5番目、一番手に入りにくく、その分強さも美しさも折り紙つきなのがここ。純金皿!
三日月宗近さんなど滅多に出ない面々がこの枠。鍛刀で4時間が出たら宴の用意をしましょう!
……と、まぁこんな感じかな。皿の説明は。」
お面の審神者が行った説明を、ほぉぉ…と、随分熱心に聴く蒲公英本丸の2人。
歌仙兼定に至っては、和歌を詠む為にいつも持っていた和紙が足らず、懐紙にまで筆を走らせる始末だ。
「銀皿や灰皿表示でもなかなか希少な子がいるから、本当にこの通りの希少価値ではないけどね。
皿は強さや、装備出来る刀装の数なんかにも反映されるよ。
高い方がもちろん強かったり、刀装いっぱいつけられるからお得なんだけどー……
大して希少度の高くない皿こそ、磨けば光る……?」
お面の審神者がそこまで言うと、後ろからやってきた和泉守兼定にこつーんと小突かれる。
「主ぃー、まるで俺たちを回転寿司の皿のように言ってんじゃねぇよ。有難みがねぇだろ」
「えぇー? でもこの例えが一番分かりやすいでしょー?
説明はね、受け手にとっての分かりやすさが一番なんだよー。
和泉守は金の皿なんだからいいじゃなーい。よっ、大将!」
「当たり前だぜ! 俺ぁ、強くてかっこいい、最近流行の金の皿だからな!」
彼のおだてに、ふんすと鼻を鳴らして自慢げにする和泉守兼定。
そんなやり取りの向こう側で、蒲公英本丸の2人は、表示された刀帳を指で追っていた。
「あ、いらっしゃいましたよ、歌仙さん」
「何だか照れるね…… 何々、僕は銀の皿か……」
刀帳に表示された歌仙兼定の項目には、打刀を示す文字が、銀色で表示されていた。
即ち、銀の皿だ。
その近くに居た和泉守兼定は、眩い金色で表示された、金の皿を冠していた。
それを見つけた瞬間、歌仙兼定の表情が、ふっと曇ってしまう。
「? どうされたのですか?」
蒲公英の審神者の少女にそう問いかけられて、歌仙兼定は慌てて取り繕う。
「な、なんでもないよ……」
表情の変化に気取られまいと、笑顔で主に答えるものの、歌仙兼定の口調は
いつもより随分とトーンダウンしたものだった。
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