「さて、本丸を立ち上げたからには、仲間を増やしていかねばなりませんね」
「仲間、ですか?」
こんのすけの言葉に首を傾げる蒲公英の少女。
「時間遡行軍と戦うためには、先程のように、たった一振りでは太刀打ちできません。
仲間を迎え、戦力を増強していくのです。
刀剣男士とは、刀に宿る付喪神。
世の中には、数多なる名刀が存在し、付喪神がそれぞれ宿っています。
その付喪神たちを呼び寄せ、顕現し、彼らを率いて戦うのが、審神者である貴方の役目なのです」
「は、はい……」
役目、と聞いて未だ緊張して身を固くしたままの蒲公英の少女に、菜摘が気さくに声をかけた。
「そう緊張しなくても大丈夫だよ。俺も、この役目を担った時は、最初は戸惑ったけれど。
友達が増える、そんな風に気軽に考えるといい」
「菜摘さまも、審神者なのですか?」
「そう。ただ俺は、時の政府勤めの審神者だから、普通とはちょっと違うんだけれどね。
君と同じように、初めの一振りを選び、そこから仲間たちを増やしていったんだよ。
そこに立っている山姥切国広、彼が俺の初めの一振りさ」
そう呼び掛けた先に立っている刀剣男士、山姥切国広は、一瞬視線を寄越したが
すぐにこちらから目を逸らしてしまった。どうやらあまり人馴れしない性格のようだ。
そんな彼の様子に、菜摘は苦笑した。
「はは、まぁ、彼は少し性格に特徴があるからね……
色んな気質の子がいるけれど、基本的に自分を喚び出した主には皆忠実だから大丈夫。
気負わず、迎えるといいよ」
「そういうことです。では、一緒に実際にやってみましょうか」
こんのすけが、一枚の札を取り出す。
「この札には、刀鍛冶の精霊が宿されています。
何もない所から、刀剣男士を呼び寄せることは、流石に出来ません。
彼らを呼び寄せる、依代の刀が必要になってきます。
それを作るのが、刀鍛冶の精霊の役目。
そして、刀鍛冶の精霊によってつくられた刀を用いて、貴方が刀剣男士を呼び寄せるのです」
「わ、私に、そんな事が出来るのでしょうか……」
説明に怖気づく蒲公英の少女を、こんのすけが励ます。
「大丈夫です。現に、老武士が帯刀していた刀から、貴方の力で歌仙兼定は呼び寄せられたのですから。
では、参りますよ」
こんのすけが札を掲げると、札に書かれた陣が赤く光り輝きだす。
すると、白い着物を着た、刀匠の幻影がぼうっと空中に浮かぶ。
「言い忘れましたが、刀鍛冶に刀を鍛えるのをお願いする時には、勿論材料が必要です。
先程手入れに用いた砂鉄と炭、砥石、そして清らかな水です。
今はとりあえず、わたくしが政府から調達したものがございますので、それを用いますよ。
本来はもっとちゃんとした炉……というか、鍛錬場が必要なのですが、追々整えましょう」
材料を精霊の前に奉納すると、それを用いて刀匠は、刀を鍛え始める。
鉄が赤く光り、刀の形となっていく。やや小ぶりの刀だ。
「審神者になったばかりの方と一緒に初めて鍛える刀は、短刀と決まっているのです。
まぁ、いきなり大きな刀を拵える訳にはいかないのもありますが……
短刀は、懐刀。貴方の御身を護ってくれる、初めの一振りに次いで、傍にいるべき刀です」
赤く光る小刀は、次第に形をはっきり現していく。
銀色に冴えたその輝きは、小さいながらもどこか頼もしさを感じさせる。
その様を、歌仙兼定は興味深そうに眺めていた。
「へぇ……僕ら刀剣男士は、こうして生まれてくるんだね……」
「さぁ、そうしましたら、ここで審神者の出番です。
刀の前に両手を差し出して、思いを込めてください。
貴方の力になってくれるように、と」
こんのすけに言われるがまま、蒲公英の少女は手を差し出す。
そして目を閉じ、懸命に祈りを捧げる。
「どうか、私の力になってください……!」
「さぁ、誰がやってくるかな……?」
菜摘やこんのすけ、そして隣に佇む、歌仙兼定や山姥切国広が見守る中、刀が淡い光を放つ。
そしてその光は、鍛え上げられたばかりの刀から離れると、やがて人の形をとっていった。
光が収束していくと、桜吹雪が舞い上がる。
花びらが舞い落ちていく中、白い髪の、そばかすの小さな少年が、5匹の虎を伴って現れたのだった。
「ふぇ…… あの、その、ここは一体……?」
目をぱちくりさせながら、白い髪の少年はおずおずと周囲を見回した。
「上杉謙信公がかつて所持していた、粟田口吉光の短刀、五虎退です!」
「へぇ、越後の虎と呼ばれた、あの謙信公の刀を最初に呼び寄せるとは」
こんのすけと菜摘は、顕現した五虎退の姿を見るなり、そう感心した。
「よくお出で下さいました。目の前にいらっしゃるのが、貴方の新しい主様ですよ」
「はっ 初めまして、五虎退さま……!
私は、審神者になったばかりの蒲公英と申します。
至らない所ばかりではございますが、どうぞ宜しくお願いします……」
こんのすけに紹介されて、蒲公英の少女が慌ててお辞儀をすると、
五虎退もまた、5匹の小さな虎たちを抱えながら、慌ててお辞儀をし返した。
「あっ、あるじさまですか……?
は、はじめまして、僕があの、五虎退、です。あの、よ、よろしくお願いします……!」
2人の様子があまりにもそっくりだったのか、傍で見ていた菜摘は思わず笑ってしまった。
「ふふ、なんだか2人とも似ているねぇ。
礼儀正しいところとか、言っちゃなんだけど、ちょっと気弱そうな所とか」
おどおどしている2人を見比べながら、菜摘は歌仙兼定にこっそり耳打ちする。
「主と、初めて迎えた短刀の子……どうか助けてやってね。
刀はどうしても、大きさなのか保持する霊力の差なのか、見た目の年齢に反映されてしまいやすい。
五虎退は来歴こそ君より古いけど、短刀故に、顕現した身はまだ子供だ。
君の主も、見た目はか弱い少女だし。
これからの人の身での生活では、初めの一振りであり、大人の姿の君が頼りなんだよ」
「あぁ……そのようだね。心得たよ」
彼からの一言に、幼い2人を見守る歌仙兼定は、己の役目を今一度自覚し、しっかりと頷いた。
そしてゆっくりと近づき、目線を合わせ、おどおどしている五虎退に、優しく手を差し伸べる。
「僕は歌仙兼定だ。どうぞよろしく。これから一緒に、主を支えていこう」
「は、はい……! どうぞ宜しくお願いします……!」
顕現したばかりで怯えていた五虎退だったが、歌仙兼定のふんわりとした穏やかな微笑みを見て
少し安心したのか、ようやく笑顔を見せてくれたのだった。
「さて。大方説明は終えて、ひと段落ついたかな。
俺たちはそろそろ退散しよう。あんまり助けすぎると、肩入れし過ぎだって怒られるからね。
ここからは、君たちで頑張るんだよ。
一緒についてきたこんのすけが、君たちを担当することになるから。
分からない事は、何でも色々聞くといい。
こんのすけ、よろしくね」
「はい、承知しました。菜摘さまも、どうぞお気をつけて」
「助けて頂いて、色々とご親切にして頂き、ありがとうございました……!」
「まぁ、こうやって審神者を見つけてスカウトするのが、俺の仕事だから。
あぁそうだ。2振りだけじゃ寂しいだろうから、これを渡しておくよ」
立ち去ろうとする菜摘が蒲公英の少女に手渡したのは、先程五虎退を呼び寄せた
特別な陣が描かれた札だ。数えてみると、3枚ある。
「あとは、政府から依頼される仕事をこなすと貰えるよ。
どうか頑張って、強い審神者になってね」
「あ、あの……また、会えますか……?」
別れを惜しむ蒲公英の少女が呼び止めると、菜摘は振り返り、穏やかに目を細めた。
「俺は政府で仕事をしているからね。ちゃんと君の事は見守っているよ。
どうしても困ったら、君のところのこんのすけに言って。
彼を介して、連絡を取るから。それじゃ、またね」
そう言い残すと、菜摘と山姥切国広の姿は、画面に電子ノイズが混じるように霞み、やがて消えていった。
「では、改めまして。
わたくしが、貴方がたのお手伝いを致します、こんのすけでございます。
どうぞ、分からない事はなんなりとお尋ねください!」
「分からない事……」
「分からない事ですか……」
「分からない事だらけですねぇ……」
こんのすけに尋ねられると、3人はその場で棒立ちになり、互いに顔を見合わせてしまう。
何せ、人の身を得るのが、3人とも初めてなのだ。
こんのすけは一瞬途方に暮れた。
が、すぐさま気を取り直して、己の役目を遂行すべく、気合を入れ直した。
「…………。そうでした。
主様自身が人でないパターンは、珍しいですからね……
では、一から順を追って、わたくしが説明して参ります!」
こうして、本丸での過ごし方に加え、基本的な人間の過ごし方を、
3人はこんのすけからみっちりと教えて貰うのだった。
あらかたレクチャーが終わると、残りの札の存在を、歌仙兼定は主に呼びかけた。
「そういえば。菜摘殿から貰ったその残りの札も、折角だから使ってしまうかい、主?」
「はい。頑張ってみます」
残りの札を3枚用いて、新しい刀剣男士を呼び寄せる事にした。
鍛えた刀からそれぞれ桜吹雪を伴って現れたのは、3人の刀剣男士だ。
1振り目は、つんつんはねた赤毛に、鼻先に絆創膏を貼った、わんぱく盛りな少年。
現れた瞬間から、元気いっぱいの声で挨拶してきた。
「オレは愛染国俊! へっへー、オレには、愛染明王の加護が付いてるんだぜ!」
そう自慢げに話す彼が着ていたTシャツには、愛染明王を象ったプリントが
一面にどどーんと描かれている。
「これまた元気そうな子が来たねえ」
「愛染明王……け、謙信さま、そして直江兼続さまも、戦の時、信仰していらっしゃいました……」
「ご利益がありそうですね。宜しくお願いします!」
「おう! めいっぱい活躍するから、宜しくな!」
2振り目は、青い髪をひとくくりに結び、袈裟を着こんた少年だ。
その眼差しは、どこか哀愁を帯びている。
「僕は小夜左文字。僕を喚ぶなんて、貴方は……誰かに復讐を望むの……?」
「お、お小夜……お小夜じゃないか……!!」
「歌仙……? どうしてここに……?」
現れた瞬間、歌仙兼定は思わず駆け寄る。
今まで記憶を殆ど覚えていなかったが、その姿を見た瞬間、彼の事を思い出したようだった。
「お知り合い……ですか……?」
「あぁ。もともと持ち主のつながりで同じ家にいたよしみでね。少し、思い出したよ……」
「そっかー。また会えて、良かったな!」
3振り目は、洋風の装束を着こんだ、律儀そうな短い黒髪の、若い青年だ。
まるで波に煌めく海のような、鮮やかな浅葱色の人懐っこい目で、皆に話しかけてきた。
「すみませーん! こっちに兼さん……和泉守兼定はいませんか?」
開口一番、その青年は、とある人物を探している様子を見せた。
その様子にやや面食らいながら、代わりに歌仙兼定が答える。
「えぇと、兼定違いなら……二代目が打った刀なら、ここに居るが……」
「ひぇっ?! あの、通称之定って呼ばれている、あの……?!」
名前を聞くなり動揺してしまう青年に、蒲公英の少女がおずおずと問いかけた。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。えと、失礼ですが、貴方は……?」
「あ、すみません。一緒に居た刀の行方が心配で、ついつい聞いちゃいました。
僕は堀川国広って言います。宜しくお願いします!」
こうして、蒲公英の少女の元に、1日で5振りの刀剣男士たちが集ったのだった。
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ようやくチュートリアル鍛刀から、新しい仲間たちをお迎えするまで書けました!
うちは初鍛刀が五虎退ちゃんで、その後愛染君、小夜ちゃん、堀川君と続きます。
上杉謙信公由来に、細川組。そして兼さん違い(笑)
微妙にゆかりのある?面子が揃って、ご縁を感じる組み合わせ。ほくほく。
鍛刀に関しても、依頼札をこんな感じに落とし込んでみました。
刀鍛冶の精霊…というか、職人たちの記憶の、召喚札みたいなものかな。