加州清光を始めとする第一部隊の面々を送り出す為に、本丸の屋敷の入り口に皆が集まる。



「主様、時間跳躍の座標を、享保の時代の江戸下町に合わせます」


こんのすけがそう告げると、屋敷の外に向かう出入口が奇妙に歪み、 それまで青々とした竹林が続いていた所に、まるで夜空のような空間が現れる。
その一連の様子に、おぉ〜、とどよめきが上がった。


「それでは、第一部隊の皆様は前へおいでください」


促されるまま、第一部隊の面々は空間の入り口へと進んでいく。



「気を付けて行ってきてくださいね!」

「拙僧も皆の無事を祈っているのである!」

「油断するなよ」


出陣する面子は、本丸に残る他の刀剣男士たちから次々と声を掛けられる。
主である蒲公英の少女は、まだ不安の残る面持ちで、少し離れた場所からその様子を見守っていた。
そんな彼女の様子を、近侍である歌仙兼定もまた、何も言えずに、ただ黙って後ろから見つめていたのだった。

そして最後に加州清光が、主に声を掛けた。


「主、行ってくるね。任務、ちゃんと成功させてくるから」

「はい……どうぞ、お気をつけて……」


蒲公英の少女が発する声は、不安に震えている。
そんな彼女の頭にぽんと手を乗せて、少し困った表情で笑いかけた。


「ダメダメ。そんな可愛くない表情しちゃ。主は笑ってた方が可愛いよ。

 それに、主の傍には、歌仙や、他にも頼れる刀がついてる。大丈夫。
 ……例えもし、俺が戻って来なくても、ちゃんとやっていけるから。
 歌仙、主や皆の事、宜しくね」


加州清光はそう告げた。
まるで今生の別れのような、少し寂しそうな笑みに、歌仙兼定は思わずぎゅっと胸を掴まれたような感覚になる。

そして最後の一言をまるで風のように置き去り、加州清光は時空の穴に消えていく。




すると蒲公英の少女は、目に溜めていた涙を散らして、隣にいた歌仙兼定を振り払い、突然駆け出した。


「主?! 一体何を……」

「主様?!」


歌仙兼定やこんのすけを始め、刀剣男士たちはざわつく。
ところが彼らが止める間もなく、蒲公英の少女は、今しがた消えていった加州清光を追いかけるように、 時空の穴へと突っ込み、そのまま姿を消してしまったのだ。


「主!!」


「な、なんてことだ……!! 主が、彼らと共に消えてしまった……!?」

「た、大変です……!!」



あまりにも突然の事に、本丸中が騒然となる。

特に、歌仙兼定やへし切長谷部は、血相を変え声を荒げ、怒涛の如くこんのすけに詰め寄る。



「こんのすけ!! 主を無事に帰す方法はないのかい?!」

「こんな事態になった時は、どうすればいいのだ?!
 お前は政府の管狐だろう!! 何か方法を知っているのではないのか?!」


「おおお落ち着いてください、お2方!」

「これが落ち着いていられる訳ないだろう!! 主が消えてしまったのだぞ!!」


こんのすけに掴みかかり、その小さな体を揺さ揺さと激しく上下に振りまくる2振りに、堀川国広と山伏国広が慌てて止めに入った。



「とりあえず、冷静になりましょう! こんのすけが話を出来るようにしてあげてください!」

「そうである! 首を掴みかかられては、まともに話なぞ出来ぬからなぁ!」


彼らはこんのすけから2振りを引き離し、慌てふためく五虎退に託す。
こんのすけは五虎退の腕の中で大分ぐったりした様子で、息を切らせながら2振りに説明した。



「はぁ……はぁ…… あぁもう吃驚しました…… 戦国の刀は気性が荒くて参ります……

 えぇと、審神者が刀剣男士と共に時間を遡る事は、時たまある事ですし、何も珍しいパターンではありません。 そういう事が必要な場面もありますからね。
 ただ、あまり推奨される方法ではありません。
 もともと存在する時間軸と異なる時間軸に向かう場合、モノである刀剣男士に比べて 因果律の高い存在は、長時間居る事が出来ませんから。
 まぁ、主様の場合、人間ではないので、さほど影響は強くないかもしれませんが……」


「話の内容から、まぁ要するに、時間跳躍自体は可能だが、なるべく早く主をここへ返した方が良いという事だろう?」

「そういう事です。
 ただ、時間跳躍の座標が、今の混乱でずれてしまったようです。
 同じ時間軸に居る事は間違いないのですが、顕現場所が異なる為、見つけるのが少し困難かもしれません。

 また、同じ時間軸に同時に跳躍してしまった為、こちらに戻す時は時間跳躍のゲートを同じくしないといけないので、 主が第一部隊と一緒でないといけません」

「なるほど……」


こんのすけの説明を聞いた山姥切国広は、近侍である歌仙兼定に提言した。


「こんのすけからの話を、通信機を用いて第一部隊と連絡を取り、 主を向こうで拾って貰えるように協力を求めるんだ」

「分かった」



そう頷くと、本丸の通信室に皆急いで向かったのだった。










一方、享保の時代にやってきた加州清光たち第一部隊は、江戸の町に潜む時間遡行軍の足取りを掴むべく、捜索に明け暮れていた。


「凄い数の人だね……」

「墨田の花火は、川開きから8月末まで毎日行われているんだ。
 河岸には屋台が立ち並んで、人々は花火を見ようと詰め掛け、両国橋はそれこそ歩けないくらいになるんだよ」


通りを行き交う人の肩と肩がぶつかる位の人混みに、小夜左文字は驚いた。
蜂須賀虎徹は当時の事を思い出しながら説明する。


「あっ! 西瓜売ってる! 桃も美味しそう……」

「はは、任務を終えたら、後で食べような」


露天商が売っている、屋台の軒先に並んだ水菓子を見て、乱藤四郎は目を輝かせるが、 任務が先だと薬研藤四郎に諭される。

すれ違う棒手振の行商は、声高に冷えた氷水を売り歩いていた。
夏の初めの江戸の夜は、日が暮れても蒸し暑く、加えて大勢の人込みの熱気の為か、 ちょっと動いただけでも首筋を汗が滴り落ちていく。水菓子や氷水が飛ぶように売れるのも、無理はない。


「でも、これだけ人が多いと、悪い輩も潜み易そうだよねぇ……
 一体どこに遡行軍が潜んでいるのか、見つけるのも簡単じゃなさそうだね」


行き交う人の表情や仕草をひとつひとつさりげなく眺めながら、にっかり青江が呟く。


「人混みで騒ぎを起こすと、同心にあっという間に捕まっちゃうしね。
 やっぱり、潜むなら路地裏とか、人の居ない所なのかな」

「それなんだけど。
 時間遡行軍が狙うのは、おそらく花火師だと思うんだ」

「花火師?」


皆の疑問に、蜂須賀虎徹が答える。


「こんのすけも言っていたけど、この花火大会は、飢饉と疫病で亡くなった死者を弔うためのもの。
 鎮魂の祈りを込めた花火そのものを奪い、人々から希望を奪うつもりなのかも知れないと思ってね」

「なるほど、奴らの考えそうなことだ」


蜂須賀虎徹の推理に、薬研藤四郎は納得して頷く。


「で、その花火師が花火を打ち上げるのが、墨田川の川の上。
 舟を浮かべて、そこから花火を打ち上げるんだ。という事は……?」

「あっ! 遡行軍も、もしかして…?!」

「そう、舟を使って花火師を狙う事が考えられる。
 しかも川の上には、花火を見る為の大きな屋形船がいくつも浮かんでいる。
 いくらか小舟が混じった所で、同心や捕方たちも不審者を見分けるのは困難だろうね」

「潜んでアヤしい事をするには、丁度いい場所だね…… 遡行軍の企みの事だよ?」


時々混ざるにっかり青江の妖しい言動を軽く聞き流しながら、加州清光は皆に告げた。


「じゃあ、舟が発着できそうな河岸を中心に、遡行軍を探してみよう!」

「応!」




そんな中、加州清光が持っていた通信機が鳴った。本丸からの連絡の合図だ。


「あれ……? 通信機が鳴ってる……?」


時間遡行先の任務遂行は、派遣先の部隊長を中心としてほぼ現場に任せていることが多い蒲公英本丸。
そんな本丸から連絡が来るとは、よほどの事だ。一体何が起こったのだろうか。


通信機に応答すると、やや不鮮明な画像の先には、近侍である歌仙兼定の姿があった。
その表情は、見送りの時程沈んでおらず、寧ろどこか険しいようにも見えた。



「はーい。こちら第一部隊。何かあった? どうぞ」


「こちら本丸。いいか第一部隊、落ち着いて聞いて欲しい……

 実は、主が行方不明になっている」


歌仙兼定の口から飛び出たのは、衝撃的な事実だった。


「主が行方不明だって?!」

「え?! え、一体どういう事?!」


蒲公英の少女が突然時空の穴に消えてしまった時と同じように、第一部隊もまた、主不明の事実を聞いて酷く驚いた。


「主は……君たちを心配して後を追いかけ、そのまま時空の歪みに消えてしまった。
 おそらく行先は、そちらと同じ享保の時代の江戸の町。だが、主がどこに流れ落ちたのかは、不明なんだ……」

「そんな……あるじさんが、ボクたちを心配して……?」

「そいつは厄介だな。この人混みの中、あの小さな主を見つけるのは骨が折れそうだな……」


後悔してもし切れない程悔しそうな表情で、頭を垂れ、歌仙兼定は第一部隊に懺悔した。


「主の元についていながら、止める事が出来なくて、誠に申し訳無い……
 近侍失格だよ……不甲斐ないって罵倒してくれて構わない。
 だが、お願いだ、どうか僕らの主を、無事に見つけ、連れて帰って欲しい……!!」




一同が、揃って沈黙する中。



「……落ち着いて、歌仙。 主は、この時代に確実に流れ着いているんだよね?」


淡々と、冷静な声で、加州清光は通信機の先の歌仙兼定に呼び掛けた。


「あ、あぁ。
 こんのすけの話だと、今回の作戦の為に時間跳躍の道筋は固定してあるから、 他の時間軸や場所に流れる事はないだろうという話だ」


加州清光のその冷静な口ぶりに、それまで動揺していた歌仙兼定も、少し我を取り戻す。


「オッケー。この時代の江戸の町のどこかに、主が居るってことだよね。
 分かった。まずは主の確保を最優先にしよう。俺たちの存在の源である主自身の身が、遡行軍に狙われるかも知れない。
 そうしたら主だけじゃなく、俺たちも、そっちにいる皆の身にも、危険が及ぶからね」

「確かにその通りだ。
 政府の任務は大事だが、俺たちにとっては、主こそ本丸の命の要だ。絶対に護らなくては」

「逆に、主を狙って、遡行軍が現れるかも知れない。探す手間が、省けるかもね」

「ちょっと、あるじさんが危ない目にあうかも知れないんでしょ! 早く見つけなきゃ!」


第一部隊は、目的を主の捜索に素早く切り替える。


「頼む。君たちが頼りだ……!」

「分かった。主を確保したらすぐ連絡するから、待ってて。
 ……主を連れて帰るまでは、絶対折れたりしないから」


祈るような歌仙兼定の弱々しい声にそう応え、加州清光は通信機のスイッチを切った。



通信を終え、皆に向かって再び顔を上げた加州清光の顔は、本丸を出立した時とは異なり、その瞳に意志の焔が燃えていた。

折れてもいい、そう自虐した時の諦めとは違う。
必ず、主を連れて、生きて本丸に戻るという、決意の焔だ。


「皆。話は分かったね? 一刻も早く、主を見つけるよ!!」










同時刻、両国橋の袂では。


時間を超え、1人で江戸の町へと辿り着いた蒲公英の審神者の少女は、人込みの中、怯えながら歩いていた。


知らない時代、知らない町。
もともと戦国時代の生まれである蒲公英の少女にとって、目にするモノ何もかもが知らないモノばかりだ。

今まで、必ず少女の傍には、近侍として誰かが控えていた。
しかし、今は誰も居ない。自分はその護りをつい振り切って、この時代にやってきたのだ。
1人きりになった事が無かった彼女にとって、見知らぬ時代の町に1人で取り残される事は、孤独なことこの上なかった。

加州清光たちが心配でつい後を追ってしまったが、後先考えない己の行動を蒲公英の少女は今、とても後悔していた。




そんな中、審神者である故なのか、時々、普通の人間と違う気配に気付く。

はっと振り返り、思わずすれ違った人物の、黒く長いコートの裾を掴む。
そのデザインは、良く見慣れたものだった。


「ん? 何?こんなちっちゃい子が、俺になんの用?」


振り返ったのは、よく見知った刀剣男士・加州清光 その人だった。


だが、自身の本丸の刀剣男士たちとは異なる霊力を感じ取る。
恐らく、今回の作戦で同じ時代に喚ばれた、別の本丸の刀剣男士たちなのだろう。
口ぶりこそ同じだが、自分の本丸に居る彼とは、随分と違って感じたのだった。


「あ! いえ、人違いです……すみません」

「そう? じゃ、俺行くね」


「清光! どうしたのー?」

「ん! 何でもない! 今行く!」


大和守安定に呼ばれ、加州清光は蒲公英の少女に優しくそう言うと、仲間たちの元へと駆けていく。
そして、楽しそうに仲間と談笑していた。


その様子を遠目で眺め、蒲公英の少女はひと際寂しさを強く感じて、じわりと目に涙を浮かべ、膝を抱えて蹲る。





そんな中。



人混みの中、突然悲鳴が上がる。


「辻斬りだ!!」


蒲公英の少女が顔を上げると、両国橋の上を人が避けていく。
その方向を見ると、藁笠を被った異形の兵士が数人、通りがかる人々を次々と捕え、切り裂いていく。
恐らく、時間遡行軍だ。
抵抗する間もなく斬り捨てられた犠牲者や、警護に当たっていた同心や捕方たちが次々と返り討ちに遭い、橋の上に倒れていった。

そしてその邪な目つきは、橋の袂で1人蹲っていた少女にも向けられたのだ。
恐怖の余り、脚が竦み、蒲公英の少女は凍り付いてしまう。

逃げる間もなく、時間遡行軍の異形の兵士は、問答無用で近づいてきた。
野蛮な刃を振りかざし、少女を斬り捨てようとする。



その時だった。




「はしのうえでであうとは、まるでうしわかまるとべんけいのようですね!」

「がはははは! 刀狩りをしていた頃とは違い、今度は俺たちが野蛮な者を天誅する側よ!」


一陣の風と桜吹雪を纏い現れたのは、銀色の髪の、高下駄を履いた少年と、薙刀を抱えた僧兵のような恰好をした、背丈の随分大きな青年だった。


蒲公英の少女が驚く間もなく、銀色の少年は異形の兵士の振り下ろした刀を弾き返し、 薙刀を持つ青年は異形の兵士を一刀両断する。
あっという間に、時間遡行軍の兵士たちは塵となり消えていった。



「あ、貴方たちは……?」


「ぼくは今剣! 義経公がつねにおそばにおいていたかたななんですよ!」

「俺は岩融! 前の主は武蔵坊弁慶だ! 俺たちを喚んだのは、主かな?」


驚く蒲公英の少女に、現れたばかりの2人はそう告げた。


「私が、喚んだ……?」

「はい!あるじさまのよぶこえをかんじて、ぼくらはここにやってきました!
 あるじさまの、つよいおもいが、ぼくらをめざめさせたんです!」











両国橋の上の騒ぎは、少し離れた河岸に居る、加州清光たちの耳にも届いていた。


「まさか、あんな大それた騒ぎを起こすなんてね……!」

「恐らく、あれは陽動。
 騒ぎを起こして、花火大会を警備していた同心や与力たちを集めて、 その隙に手薄になった河岸から舟に乗り込む心算だろう……」


河岸の人気のない船着き場を目指して駆けながら、蜂須賀虎徹がそう推測する。
そして、辿り着いた河岸の先に居たのは。



「ビンゴ!!」



幾人かの時間遡行軍が、船の漕ぎ手を斬り倒し、今まさに墨田川に漕ぎ出そうとしている所だった。

加州清光たちの到着に気付くと、唸り声を上げ、襲い掛かって来た。



「残念! 君の手は覚えているよ……!」


敵の一撃をひらりと避け、にっかり青江は反撃の一撃を流す。
無駄のない動きで繰り出された一撃は、柳に吹く風のように優しく靡いたかと思うと、 遡行軍の打刀の兵士を一振りで真っ二つにした。


「無駄のない戦い方が好きでねぇ」


振り返ったその表情は、実に好戦的な目つきをしていた。



そんなにっかり青江の死角から隙を伺って、勢いよく敵の短刀が飛び掛かる。
が、その一撃は同じ短刀の小夜左文字が防ぐ。


「復讐する怨念が貴方には足りない……そんなんじゃ、敵は討てないよ」


仄暗い声でそう呟き、敵の短刀を切り裂いた。


「はは、小夜は相変わらず物騒だな。だが、敵を倒すにはそれ位で丁度いいのかも知れんな」

「ボクだって、負けないんだから!」


小夜左文字に続き、薬研藤四郎と乱藤四郎が、息の合ったコンビネーションで敵の脇差を数体連続して斬り倒す。



そして、最後に残ったのは、遡行軍の巨大な大太刀。

その野蛮な腕力は、近くにある小舟や桟橋を、次々と壊していく。
短刀たちが勇んで突っ込んでいくが、刃は大太刀の懐まで届かず、脛に少し傷をつけただけで振り払われてしまう。


「くそっ! 思ったより硬いな……」


大太刀の反撃の拳を、あわやという所で、蜂須賀虎徹が薬研藤四郎と乱藤四郎を掴んでかわす。
その風圧だけで、体のバランスが崩れてしまいそうだ。


その間にも次々と遡行軍が現れ、桟橋に向かっていく。
どうやら、この大太刀が立ちはだかっている以上、遡行軍が尽きる事はなさそうだ。


「青江、小夜、乱、薬研! ここは俺たちが請け負う!
 君たちは、他の遡行軍が桟橋から舟へ渡らないように食い止めていてくれ!」

「了解!」


蜂須賀虎徹がそう呼び掛けると、4振りは桟橋へと駆けていく。


河岸に残った大太刀は咆哮を上げ、蜂須賀虎徹と加州清光に向かって突進してくる。
繰り出されたその一撃をなんとか受け止め、ギリギリのところで拮抗したが、衝撃のあまり腕がびりびりする。
そのあまりの力に、少しずつ、また少しずつと、押しやられていく。
ここで少しでも力を抜いたら、その凶暴な太刀に、恐らく真っ二つにされるだろう。

が、ここで負けるわけにはいかない。
身体の奥から迸る闘気を刃に宿らせて、拮抗している太刀を押し返し、残された力を全て振り絞り、高く弾き飛ばす。


「江戸の夜空を彩る祈りの華、摘み取らせはしない!!」

「大事な主を探してるんだ……アンタなんかに、時間を費やしている暇なんかないんだよ!!」



そう叫ぶと、2振りは綺麗な十文字を描いて、大太刀に大きく斬り込んだ。


激しい叫び声を上げ、大太刀はその場に崩れ落ち、黒い塵となって消えていく。
すると、それが潮時とばかりに、遡行軍の他の刀たちは、次々とその場から逃げ去っていく。

やがて、河岸には静寂が戻り、両国橋の上には再び大きな菊のような見事な花火が打ち上がっていた。



「護れた……のかな」

「どうやらそうみたいだね……」


強力な大太刀を退けた安堵と、疲労で、蜂須賀虎徹と加州清光は、その場にへたりと座り込む。



「全く、遡行軍を退けたのはいいけど、早く主を見つけなきゃ……」


そうぼやく加州清光に、乱藤四郎と薬研藤四郎が慌てて戻って来る。



「加州さん、加州さん!! あれ、あれ見て!!」


乱藤四郎の指さす方向をじっと見据えてみると。
両国橋の上に、大きな花火を背に、肩車をした影が見えるのだ。
そして、よくよく目を凝らしてみると。



それは、小さな少女と少年を肩車した青年の姿。

蒲公英の少女と今剣を肩車した、岩融の姿だったのだ。






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