一体時間が、どれくらい過ぎた事だろう。
待つ方にしてみれば、1分1分がまるで、数時間のように長く感じられた。
戦うことも、探す事も出来ず、ただひたすら、一報を待つだけ。
それは非常にもどかしく感じる時間だった。
やがて、こんのすけがぴくっと耳を聳てる。
本丸の入り口が再び歪み、夜空のような色に染まったかと思うと、
第一部隊の姿が現れる。
「戻って来た……!」
「主は……?!」
皆がおそるおそる問いかける。
すると、加州清光はゆっくりと満面の笑みを浮かべて、ピースサインを示す。
「主、無事に連れて帰って来たよ!!」
ぴょこっと飛び退くと、そこには岩融に抱っこされた、蒲公英の少女の姿があった。
主の姿を見かけた途端、まるで爆発したかのような歓声が本丸中に上がる。
「よっしゃぁぁぁ!! よく連れ帰ったな!!」
「おかえりなさい主さん……心配しましたよぉぉぉぉ!!」
「わぁぁぁぁぁん!! 良かった、良かったです〜……!!」
盛大にガッツポーズを示す和泉守兼定に、涙ぐみながら岩融ごと主をハグする鯰尾藤四郎。
五虎退に至っては、涙声を上げて大泣きする有り様。そんな五虎退を、燭台切光忠が優しく撫でていた。
「しかもなんじゃぁ、新しい仲間まで連れてきちゅう?!」
「あはは、主がね、江戸で見つけてきたんだって」
「わぁ主君、凄いです!」
蒲公英の少女が見つけてきた新しい仲間、今剣と岩融に、本丸の仲間は目を見開いて驚く。
「今剣と岩融は、なんでも時間遡行先で襲われそうになった主を助けてくれたんだそうだ。
おまけに、主を見つけ出せたのも、両国橋から肩車をして目立ってくれていたお陰なんだ。礼を言わないとね」
「岩融のかたぐるまさくせん、だいせいこうですね!
ちいさなあるじさまを、ぶたいのみなさんにみつけてもらうには、これがいいとおもったんです。
えへへ。みなさん、ぼくたちとなかよくしてくださいね!」
蜂須賀虎徹が説明すると、今剣はにこにこと愛想のよい笑顔を振りまいた。
そして、加州清光が皆に囲まれて賑やかにしているところに、歌仙兼定が黙って歩み寄って来る。
彼に気付いた加州清光は、これまでの経緯を慌てて説明する。
「あ、ごめん……主が見つかったらすぐ報告するって言ってたのに……
任務も達成して、同時に主も見つかったから、すぐ戻る事にしたんだけど……」
加州清光が全てを言い終わらないうちに、歌仙兼定は、彼の肩を思い切り掴む。
そして驚く彼を他所に、次の瞬間、随分と安堵した様子で、大きく息をついたのだった。
「良かった……君が無事で……」
「へ?!」
目を白黒させている加州清光に一向に構わず、歌仙兼定は先を続ける。
「君は、本丸の為に、この任務で自分が折れても構わないと言ったね……
だけど、僕は主も勿論心配だったが、君にも無事に戻って欲しかったんだって、気付かされたんだよ。
僕は、君の存在を恐れていた。それは、今回の任務で派遣する者を選ぶ時にも言ったね。
自分を超える存在を、僕は恐れていたんだ……
だけども、君は僕の事を、皆の事を、もっとずっと大事に考えていてくれた。己の危険さえ、顧みずに。
そう思ってくれる君の事を、かけがえのない大切な仲間だって、改めて感じたんだ。
謝らせて欲しい。君の事をずっと、警戒し続けていた事を。
そして良ければ、君ともっと色々と話がしたい、君の友人になりたい……そう思ったんだ」
「え、あの……?!」
突然の告白に、加州清光は思考が追いつかず、しどろもどろになるばかりだった。
「すまない、おこがましかったかな……?」
「い、いや! そんな事!!
ただ、びっくりしたなって……うん、話なら、いつでもいいよ……うん……」
返事に困っていると、歌仙兼定は申し訳なさそうな顔をする。
それを見るなり、加州清光はぶんぶんと手を横に振り、なんとも歯切れの悪い返事をゆっくりと返して、顔を赤らめた。
「本当かい……?!」
加州清光の返事を聞くと、歌仙兼定はぱぁっと花が綻ぶような笑みを見せた。
すると、それまで岩融の腕の中で収まっていた蒲公英の少女も、ぴょこんと飛び出して、加州清光の傍に駆け寄った。
「加州さん!
私、改めて分かったんです……加州さんは、加州さんしか居ないって。
私の事も、歌仙さんの事も、みんなのことを大事にしてくれる優しい加州さんは、加州さんしかいないんです!
だから、自分の事、簡単に折れてもいいだなんていっちゃ、ダメです……!!
あのまま、別れたくなかったんです……!!」
「あ、主……?!」
「あー、泣かないで、主〜……」
そう叫ぶと、加州清光の膝に追い縋って、歌仙兼定の裾を掴んで、ぐすぐすと泣きだしてしまったのだ。
そんな主を、慌てて2振りは宥める。
すると、宗三左文字が耐えきれず、またくすくす笑いを始めた。
「ふふふ……あははは、貴方たちほんとうに面白いですね。
近づいてみては離れて、かと思えばまた近づいて。
少し離れてみたからこそ、今回分かった事もあるんでしょうね」
「でもそれってきっと、相手を大事に思っているからだよね。
人って、簡単に距離を縮められない。だからこうして、ゆっくりと心を分かち合っていくんだね」
暖かく見守りながら、燭台切光忠もうんうんと頷いた。
「あるじさま、ずっときにされていたんですよ。
だいすきなふたりが、もっとなかよくするには、どうしたらいいかって」
「驚いた。きみ、清光や歌仙の事、主から聞いてたの?」
今剣の話に、大和守安定が大層驚く。
「はい! あるじさまが、おはなししてくれました。
たまには、とうじしゃじゃないひとがはなしをきくのも、だいじですね。
おかげで、うちとけたみたいでよかったですね!」
まだ泣いている蒲公英の少女を宥める2振りの距離感がとても近い様子を見て、今剣はにっこりと微笑んだ。
「本丸にやってくる刀剣男士たちは、他の本丸でも、一度折れたとしても、確かに同位体として顕現します。
ですが、ここに居る皆さま方は、ここで得た記憶を糧として、この本丸にしか居ない個体として成長なされているのです。
どうか、出会ったその御縁を、かけがえのない時間を、大事になさってくださいね」
皆の様子を見守りながら、こんのすけは優しくそう呟いたのだった。
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よく晴れた空の下、畑仕事に勤しむ2振りの打刀の姿があった。
「もう、折角のネイルが駄目になっちゃうじゃん……俺、畑仕事きらーい!」
「雅じゃない……全くもって雅じゃない……」
ぶつくさ呟きながら畑仕事をしていたのは、加州清光と歌仙兼定だった。
「おん、おまんら、気張っちゅうのぉー! しっかりしとおせー!!」
遠くから手を振り、大声で励ますのは、大きな籠を背負った陸奥守吉行だ。
その背中には、大量のサツマイモが入っている。
「陸奥守、楽しそうだね……」
「あれだけ、畑仕事が心から楽しめれば良いのだけどね……
まぁ、主の命だから頑張ろうか……」
「俺たち、生存値全然伸びないもんね……」
そう呟き、はぁ……と盛大にため息をつく2振りだった。
「そういや、聞いて聞いて! こんのすけに聞いたら、俺また練度上がったんだって!」
「それは素晴らしい。鍛錬の賜物だね」
「これで、本丸のトップは俺かな!」
加州清光が何気なく放ったその得意気な一言に、歌仙兼定はゆらりと構える。
「へぇ……その座、すぐひっくり返して見せるよ」
「お台所奉行ばかりじゃ、鍛錬できないでしょー?」
「面白い。今ここで! 手合わせと行こうか!!」
「上等じゃん。返り討ちにしてやるよ!」
面白がって囃し立ててくる加州清光に、歌仙兼定は手に持った鍬を構えて、畑を土俵に手合わせを始めてしまう。
「やめて……やめてくださぁぁぁい、畑が荒れてしまいます……!!」
土まみれになって鍬を振り下ろす2振りを見て、泣き出してしまう五虎退。
「全く、相変わらずだね……」
「ほんと。和解しても、ライバル心はそのまんまなんだから」
そんな彼らの様子を見て、ため息をつきつつも、小夜左文字と大和守安定はくすりと笑うのだった。