事の発端は、蒲公英本丸の刀剣男士の1人、堀川国広がついた溜息だった。
「どうやったら、うちの歌仙さんと、気兼ねなく話せるようになるのでしょうか……」
「ほぉぉ??」
彼と一緒に縁側に並んで座って、座布団に座ってほうじ茶を飲んでいた
越中お面本丸の陸奥守吉行は、堀川国広の呟きに興味を持つ。
「なんじゃあ堀川、喧嘩はいかんぜよ?
何があったかは知らんが、よ〜〜く話せばきっと歌仙も分かっちゅう。」
「あはは、違いますよ、陸奥守さん。別に喧嘩したわけじゃなくて。
うちは、本丸を立ち上げたばかりで、まだそんなに刀剣男士がいません。
そんな中、うちの初期刀の歌仙さんは、次々やってくる新しい刀剣たちに対して
どこかこう、遠慮しているような……線を引いているような、一歩引いた感じなんです。
初めの頃から来ている僕らに対しても、どこかそんな所があって……
……でも、僕らでは、どうにも出来なくて。」
そう言うと、堀川国広は寂しそうに肩を落とす。
「ふ〜〜〜む、そいは実に、難儀な悩みじゃのう……」
「そちらにいらっしゃる歌仙さんは、なんというか、こう、実に逞しい感じですよね?」
越中お面審神者の本丸に居る歌仙兼定は、いつも布団叩きを手にしてどこか迫力があり、
悪戯をする短刀や打刀、太刀の連中を、厳しく諫めている姿が印象的だった。
「そうじゃの〜…… 騒がしいうちの連中を、常時叱りつけてる、おかんのような存在じゃき。
あれくらい迫力がないと、うちではやっていけんのかも知れんの。まっはっは」
己の本丸での歌仙兼定の様子を思い出し、豪快に笑う陸奥守吉行。
「越中様の所で顕現したら、あれだけの逞しさを身につけられるのでしょうか……?」
そんな堀川国広の呟きを聞き、陸奥守吉行はぴーんと閃いた。
「ほうじゃ!! おまんとこの歌仙、暫くわしんとこで過ごしてみるというのはどうじゃ?!
うちはおまんとこと比べて、こじゃんと仲間が居る。
色んな刀と話せば、きっと今より随分人馴れしゆうがや。どうじゃ?」
「それは、確かにいい訓練になりそうですね……!
でも、突然お邪魔する事になるなんて、ご迷惑になりませんか?」
「かまんかまん。刀の一振り二振り増えても、うちんくの主はそがい気にしよらん。
寧ろ、きっと大歓迎じゃ。皆もお客が来た事に喜ぶぜよ。賑やかなのが好きな仲間じゃき。」
遠慮がちに問いかける堀川国広に、陸奥守吉行は屈託なく笑いながらそう答えた。
「ありがとうございます、陸奥守さん……! では、お言葉に甘えても良いですか?」
こうして、当の本人の知らぬ所で、蒲公英本丸・歌仙兼定の人付き合いの修行の話がついたのだった。
蒲公英本丸の歌仙兼定が、越中国のお面審神者の元へ修行と称してやってきた、
暫く経った日の昼下がりの事。
また襖を破いて埃だらけになってしまった、短刀や脇差の少年たちの服を洗い、
物干し竿にひとつひとつ干しながら、蒲公英本丸の歌仙兼定は、大きなため息をついた。
「はぁ…… 皆、元気が良すぎるなぁ……」
というのも、洗濯物を干すからと言い、この越中お面本丸の面々から逃げるようにして、
1人でここにやってきていたのだ。
この本丸の面々は皆、人懐っこく、気兼ねなく気軽に話しかけて来てくれる。
いや寧ろ皆アグレッシブ過ぎて、息を継ぐ暇もない程あちこち引っ張りだされ、
あれこれ質問されてみたり、笑いの輪の中に放りこまれてみたりと、目まぐるしい日々を過ごしていた。
今まで、自分から人とある程度置いておいた距離を、彼らは難なく乗り越え、こちらにやってきてくれていた。
それはいずれも決して悪いものなどではなく、好意の表れである事は、重々分かっていた。
しかし、その好意になんと返して良いのか、蒲公英本丸の歌仙兼定は、まだ分からなかったのだ。
気後れし、良い返事もろくに返せず、しどろもどろな返答をしたり、ただ笑って黙り込んでしまうだけの日々だった。
先日など、早朝にお面の審神者に寝ぼけてハグされ、そのあまりの衝撃で錯乱し、
彼を斬りつけようとしてしまう有り様。
彼も、彼の佩刀たちも、決して自分を責め立てるような事はしなかったが、
だからこそ尚更申し訳なく感じてしまい、ますます彼らと距離を取ってしまうのだった。
これでは全く、修行になどなりはしない。
人との距離感を掴めない故に、相手に遠慮させ、気遣わせてしまう。傷つけてしまう。
どう心を通わせてよいのか、ますます分からなくなってしまっていた。
「僕は、ここには相応しくない…… 彼らのように、強くなんかなれないよ……」
洗濯物の影に身を埋め、陽の光に背を向けて、蒲公英本丸の歌仙兼定は小さく呟く。
そんな折、庭の草むらの向こう側から、何やらカタカタ音を立ててこちらへやってくるものがあった。
それは、4つの車輪を持った、カラクリ仕掛けの車の玩具だった。
しかも不思議な事に、見た所どこからも馬など動力源に繋がっていないというのに、
それは勝手に自由気ままに動き回っている。
船や銃など新しいもの好きの陸奥守吉行による、一種の遊びか?
そんな憶測を巡らせ、一歩離れた所からその奇妙なカラクリ細工を眺めていると、
そのカラクリ仕掛けの車は、こちらの方へとやって来るではないか。
思わず身を固くしてそれを注意深く見守っていると、そのカラクリ仕掛けの車は、
蒲公英本丸の歌仙兼定の目の前にやってくると、ピタリと動きを止めた。
すると、その車には、何やら小さな文のようなものが括りつけられていたのであった。
周りをきょろきょろと見返しても、誰の気配もない。
蒲公英本丸の歌仙兼定がおそるおそるその文を屈んで取り、静かに開けると、こんなことが書いてあった。
「本日夜、中華庭園の東屋でお待ちしております。一人で来てねv 審神者より」
思わず顔を上げ、ばっと周りを見返すが、お面の審神者の気配はそこには未だ感じられなかった。
ただ、ふわりとした風だけが、洗濯物をやわらかく揺らしていただけだった。
越中国、お面の審神者が治めるこの本丸には、中華庭園が存在する。
日本と海を隔てて隣に位置する大陸の国……古くは唐や宋と呼ばれる数々の王朝を頂き、
焼き物や服飾、文学から詩歌等の芸術に至るまで、日本の文化に大きく影響をもたらした地域だ。
池には満月のような円を描いた石造りの橋が掛かり、真ん中には瓦屋根を頂いた東屋が佇んでいる。
その風景は、日本の物と似ているようであり、しかしやはり何処か趣が違う。
池から伸びる蓮はもうとっくに終わってしまったが、代わりに艶やかな紅色の庚申薔薇が香り高く咲き乱れ、
視覚からも嗅覚からも、一人足を踏み入れた歌仙を異国の情緒で包んだ。
「……此処……で、合っているんだよね…」
この本丸の陸奥守から指定された中華庭園の場所を教えて貰い、一人やって来た歌仙は誰に言うでも無く、そう呟く。
あまり外国や、奇抜だったり先進的な物は得意ではない歌仙だが、異国の様式であるこの庭園には、
馴染んだ日本庭園との違いは感じつつも、それほど未知の空間に迷い込んだような、あの慣れなさは感じない。
それはやはり日本のあらゆる文化の源流だからなのだろうか。
それとも、豊麗で典雅な造りの建築や、花香る池の情景が、まるで仏画に描かれる極楽浄土の様
そのものだからなのだろうか。
異国を感じる一方で、何処か見覚えもあるという不思議な感覚をも覚え始めた時、
今度はその耳に軽やかな音色が届いた。
月夜の澄んだ空気に乗せて、甘い薔薇の香りと共に流れてくるのは、何かの楽器だろうか?
その音が流れて来る方に向かって歩いて行くと、その足は自然と東屋の方へと向かった。
(東屋………まさか……)
少し信じられないような気になりながらも、歌仙は東屋へと恐る恐る近づいて行く。
天女の羽衣のような薄い垂れ布の向こうに、月明かりに照らされて確かに人が居る。
膝の上に楽器を置き、ゆったりとした動きでその弦を弾いている。
その垂れ布を潜って行く事に歌仙は直前で少し躊躇するが、何の因果なのか、
その時一陣の風が吹いて、その垂れ布を吹き上げた。
そして、東屋の中で弦楽器を弾いていた人物は、目の前に居る歌仙に気付き、その音色を紡ぐ手を止める。
「よっす、来てくれたんだねー♪」
ふっくらと張り出した頬の、お多福のお面は、歌仙を見るなりそう言った。
柔らかな月の光が照らし出す、丸い形の、琵琶ともまた風情の異なる楽器を抱いた、
お多福のお面審神者のその姿は、いつも目にしていた、どんちゃん騒ぎの渦中にて
更に皆を笑いの渦に巻き込んでいたその人とは、到底同人物には思えなかった。
「何というか、意外だね……」
「意外?」
そう思わず溢してしまってから、歌仙兼定ははっと我に返り、今口にした事を慌てて詫びる。
「いや、その、気を悪くしないで欲しいんだ……
貴方がその、そのような趣のあるいで立ちで、楽器をも嗜んでいたとは、全く思っていなかったから……」
いくら神出鬼没に出現し茶目っ気……というか破天荒で予測のつかない行動を繰り返す彼に対して、
風情とは程遠いなどと口にしては流石に失礼だろう……と、次の言葉をなんとか探そうとする。
が、何と言えばいいのか迷って視線を泳がせるうちに、月夜の庭園に静かに花開く香り高い庚申薔薇や、
お辞儀をするように朽ちた蓮の茎の並ぶ、月の光がきらきら反射する水面を見つめていると、
焦っていた気持ちが不思議と静かになっていくのを感じた。
一呼吸おいてから、歌仙兼定は今の心持ちを正直に話す。
「……なんだろう。不思議だね。ここの一角だけ、時の流れる速さが違うような、
別のどこかに来てしまったような。そんな不思議な場所だね。ここは。」
鈴虫の心地よい羽音や、時折風に揺れる草の葉の音だけが、静かな庭園を安らぎで満たしていた。
「手紙、ありがとう。はじめは何事かと警戒してしまったが、こんな雅な場所に招待してくれるとはね。」
そう言い、初めて少し笑顔を見せたのだった。
「よかった、気に入ってもらえて」
歌仙の顔に笑みが宿ったのを見ると、審神者はぱぁっ…と、灯りが点るような明るい声を出す。
そして、その手に抱いた楽器を慈しむように鳴らした。
「嗜むって程のもんじゃないさ。でも、この庭園もこの楽器も、私の趣味でね。
もちろん、襖ぶっ飛ばす勢いで遊び倒すのも好きだけど。
……私も一応『歌仙兼定』の主だ。
多分、君にはどちらかというと、こういう向きの方が落ち着いて喋りやすいんじゃないかなと思ってね」
言いながら、審神者は月琴を横に置き、歌仙をちょいちょいと手招きした。
「まぁ、お座りよ。せっかく来てくれたんだから」
審神者はそう言って、自身の座っている所より、一感覚程開けた場所に敷いた座布団をぽんぽんと軽く叩く。
そして、歌仙が少し遠慮気味にそこに座るのを見届けると、再び口を開き、こう訊ねた。
「何日かうちに泊まってみて、どうだい?」
少しゆとりのある、程よい距離感をもって、隣を促してくれたお面の審神者。
相変わらず表情はお面の下に隠れて分からないが、随分と落ち着いた、優しい雰囲気である事は伝わってくる。
そんな彼が訊ねてきた問いかけに、歌仙兼定は暫く答えを返すことが出来なかった。
「……皆、親切に声をかけて来てくれるよ。気に掛けてくれて、嬉しく思っているんだ。
でも、せっかく彼らが積極的に話しかけてくれても、僕は良い返事をなかなか返すことが出来なくて…
彼らに気を遣わせてしまうのが、心苦しいよ……
人見知りを少しでも治そうと、ここに招いて頂いたというのに、臆病故に
皆とどう接したらいいのか、まだ分からないんだ……」
そう呟くと視線を落とし、雲に隠れる月のように、表情を再び翳らせてしまう。
「そういえば、貴方とも、こうして落ち着いて話せたのは、初めてだね。
ありがとう。その為に、この席を設けてくれたんだね。
避けていた訳ではないのだけれど……こうしてゆっくり話せるのが、少し嬉しい、かな。
先日は、貴方には酷い事をしまったから……」
心配そうにお面の審神者の方をちらりと見て、すぐ視線を落とす。
先日の明け方の騒ぎの事を思い出すと、ますます申し訳なくなってしまうのだった。
そして、静かな月の光が瞬く水面をじっと見つめて、それまで言えなかった事を口にしたのだった。
「……先日だけじゃない。貴方には、僕はどこか苦手意識を持っていた、のかな。
貴方はいつも、主に、そして僕たちにも良くしてくれるというのに。
詫びの気持ちを、いつか伝えたかったんだ……」
歌仙の申し訳なさそうに一人呟くような静かな声が、星月夜の庭園の中、風にさらわれるように消えて行く。
……ところが、それを聞いた越中審神者は、この静かな庭園の趣をひっくり返すような……
平たく言えば、いつもの調子の笑い声を上げたのだった。
「あっははははは! そんなんわかってたよ!
だって初日からめちゃめちゃ警戒されてたし、あんなに分かりやすいくらい顔にも雰囲気にも出てるもんー!
『あ、私こりゃドン退きされてるわー』って。」
審神者はゲラゲラと笑いながらそう言う。
だが、それを聞いて余計にずどーーん、と落ち込んでしまった歌仙の様子を見て、
「ありゃ」等と言いながら、もう一度仕切り直すように口を開いた。
「まぁまぁ、落ち込まないでって。別に君に始まった事じゃないよ。
私と顔合わせた大体の人は最低一度はする反応だから。私にとっちゃ慣例みたいなもんよ、慣例♪
うちの子達だって、大して気にしちゃいないって」
越中審神者は尚も明るく言い放つ。それでも、歌仙の顔から曇りは消えない。
そんな歌仙の様子を暫く見てから、越中審神者は少し息を吐いて、
それから少し静かな声で東屋の窓から外に広がる庭園の景色の方を向いた。
歌仙にもそれを見るように手で促しながら。
「見てご覧、歌仙君。この庭園の蓮と薔薇を。蓮は全部枯れてカッサカサで、
対して薔薇は丁度色良く咲いて、良い香りを漂わせているよね。
庚申薔薇だからね、月感覚で定期的に咲くんだよ。蓮の花はお盆頃の一度、数日間が盛りだ。
……けど、その短い数日にそれはもう見事な花を爽やかな香りと共に咲かせる。
仏の花と呼ばれるくらいの美しい花と香りを。
……更にあっちで枯れてる株は牡丹、向こうの葉を散らしてる木は梅。
牡丹は蓮や薔薇のようには香らないけど、花の大輪さは何にも負けないし、
梅は一花一花は小さいけど、誰より早く咲いて、香りも良くて、ついでに実を梅干しにすると美味しいね。
私、今朝それでご飯二杯行った」
枯れ花と咲き花で溢れる庭園を眺めながら、越中審神者はぺらぺらと喋る。
途中、何だかよくわからない事も言い出すので、歌仙は思わず「はぁ…」となったが、
越中審神者はそれに構わず、更に言葉を重ねた。
「庚申薔薇は確かに他の花より長く咲いて、周りを彩ってくれる。
でも、だからって庚申薔薇が秀でていて、蓮や牡丹が花として劣ってるわけじゃないでしょ?
私、人も……刀剣男士も同じだと思うんだよね」
越中審神者はそう言いながら、ふくよかに笑ったお多福の面を歌仙に向ける。
「蓮には蓮の良さがあるんだから、彼らが庚申薔薇になる必要はないし、牡丹を梅にする必要もない。
それに、花はそれ事に適切な育て方も皆違う。
一律同じやり方で対応したら、大丈夫なのと枯れちゃうのに当然わかれるのよ。
寒さと乾燥に強い花なのに、水いっぱいあげたらまずいじゃん?そんで、それ花のせいじゃないっしょ。
……だからね、明るくて誰とでも打ち解ける性質は確かに素敵だけど、無理してそうなろうとしなくていいんだよ。
むしろ、一振り一振りの性質を解して、どうやったらその良い所、力を引き出せるのか尽力するのも、
審神者の役目なんじゃないかと思うんだ」
漆黒の夜空に煌めく月明りの元、月琴を奏でるその姿が一瞬、非常に雅だと感じたが、それはほんのひと時。
口を開けば、いつものあのお面の審神者の調子で、歌仙兼定は随分肩透かしを食らう。
随分と意を決して、お面の審神者に対する苦手意識を打ち明けたのだが、
そんな事は彼にとってはとうの昔に百も承知で、逆に随分笑い飛ばされてしまった。
お面の審神者がこの中華庭園の花々の、ひとつひとつの異なる魅力をそれぞれ説明する様。
ひとつひとつの花に親しみを込めて説明する様は、まるで、この本丸にいる1振り1振りの
刀剣男士たちの個性を慈しむような、そんな優しさに満ちていた。
そしてその優しさは、自分にも向けられている事に、歌仙兼定は気付いたのだ。
「それは、無理に振る舞わなくてもいいということかい?」
その問いかけに、にっこりと微笑む、いや正確には微笑みを湛えたお多福のお面は、黙したままゆっくり頷く。
そういえばいつぞや、ここの本丸の陸奥守吉行と話した時聞かされた、ある言葉を思い出す。
自分にしか出来ない事がある
蓮には蓮の、梅には梅の、牡丹には牡丹の、薔薇には薔薇の……
そして、自分には自分しかない、良さがあるという。
あるがままでいい。そう気付かされた時、お面の審神者と、陸奥守吉行の持つ、
あのおおらかな空気が、重なって見えたような気がした。
「僕は、焦っていたのかな…… 自分に無いものに憧れて、こうあるべきという考えに囚われてしまって。
少し、羨ましかったんだ。皆と楽しそうに話す姿が。
努力すれば、あぁなれるかなと思って、ここへ来てみたけれど、やはり僕は僕だ。
そうそう変われるものではないね。」
ようやく自分らしさというものを自覚し、背伸びをしようとしていた自分自身を、
歌仙兼定は少しおかしそうに笑うのだった。
「努力する、一念発起するのは良い事だよ。
ただ、無理に変えようとすると、やっぱり何処かに負担が生じるもんだから。
だから、今日は私の秘密の花園にご招待したのだ♪
大勢の人と賑やかな場所ではなかなか話せない人でも、静かな場所で、
ゆっくり時間を掛けてなら少しずつ話せる事もある。
今、私とこんな話せてるでしょ? うちの陸奥とだって、二人でなら話せてた。
だから、これがきっと君の他者との親交の深め方なんだよ。
君自身に交流を持ちたいと思う気持ちが少しでもあれば、後はやり方をちょっと工夫すれば出来るさ。
物怖じしない子達と同じ様なやり方じゃなくていいんだよ。
それに、うちだって皆が皆バリバリフレンドリー!!ってわけじゃないさ、
そういう子達は格別目立つだけで、それほど前に出て遊ぼ遊ぼするタイプじゃない子も居るよ。
骨喰や青江なんかがそう。気付かなかったんじゃない?
短刀や新撰組他、陽キャ勢がパワフル過ぎて」
「あ……」
審神者が言うと、歌仙は思い当たったように小さく声を上げた。
それを聞いて、審神者は更にくすくすと笑う。
「うち、政府伝で他の所から引き取ったり、色んな事情の子もぽちぽち居るからね。
最初やっぱり苦労したり、本人達も気にしたりしてたけど、今は皆それなりに折り合いを付けたんだと思う。
そういう子達は、さっき私が言ったように、自分の気が向いた時だけ輪に参加したり、
外側から踊る阿呆を見る阿呆してたりするし、周りも『あいつはそういう奴だから』って、
納得してお互い接してる。
多分、歌仙君の場合は君が悩んでるのもあって、君の本丸の仲間達が心配してうちに放り込んだんだろうけどね」
越中国審神者はそう言うと、再び月琴を膝に載せ、弦を軽く爪弾く。
「一気に押し寄せる事に関しては、明日『ゆっくり、一人ずつ話しなさい』って言っておくよ。
……落ち着きない子達は治るかわかんないけど、まぁ勘弁してあげて。
そういう子は多分、君の逆で無理におとなしくさせると萎れそうだから。
んで、余裕があったら比較的落ち着いてる子とも話してみるといい。
会話を繋げようとしなくてもいい。一言二言の挨拶や他愛もない事でいいさ。
黙って並んでひなたぼっこしてるだけの付き合いの連中も居るしね」
「そうか、僕自身、気付かなかったよ……。だからこうして、静かな場を設けてくれたんだね。」
多人数と一度に接する事が得意でないという事に、こうして指摘されるまで
歌仙兼定はその事を自覚しなかったのだった。
それは、蒲公英本丸において、己が初期刀として顕現し、どんな相手とも接しなければならないという事情と、
務めを果たそうとする責任感故、無意識に苦手意識に蓋をして、無理に取り組もうとしていた故の事だった。
そんな歌仙兼定に、越中本丸のお面の審神者は、こうして話しやすいように場を設けてくれた。
流石、様々な刀剣男士たちを顕現させ、率いてきた主としての器だ。
彼ら1振り1振りのことを、よく理解している。
気張っていた心を、お面の審神者は少しでも緩めようとしてくれたのだと思うと、彼への感謝の思いが湧き上がる。
そしていつの間にか、彼に対する苦手だったという意識が大分薄らいでいる事に、
蒲公英本丸の歌仙兼定は気が付いたのだった。
こうして、人は互いに仲良くなっていくものなのだろうか。
そう思うと、少しこそばゆいような、くすぐったい感覚を覚える。
無理に近づこうとしなくても、相手を思いやる心があれば、不思議と距離は縮まる。
歌仙兼定は、そう感じたのだ。
そして、越中本丸での賑やかな面々に囲まれ、その応対に必死になり全く気が付かなかったが、
彼ら以外にも、他にも様々な性格の刀剣男士たちが確かに居る事に気が付いた。
「そういえば……僕はまだ彼らと話してすらいなかったね。」
蒲公英本丸はまだ立ち上げたばかりで、顕現している面々もごく限られた者だけだ。
人としての身を初めて得て、互いにどのように接していいのか分からない状況だ。
そんな中、本丸としての経験のある、この越中本丸に修行として赴いた本当の意味を、この時初めて理解した。
異なる気質の者たちが、互いにどうやって接しているのか。
性格が異なれば、近づき方も、仲良くなろうとするやり方も、それぞれ異なってくる。
賑やかに色々話しかけてくるのも、少し離れて静かに見守るのも、その者なりの好意の表し方なのだろう。
あるいは、敢えて近寄らないようにするという選択をする者もいる。
そこに、良し悪しも存在しない。全ては、それぞれの自由なのだ。
「話しかけて来てくれるのは、好意の表れ……そう考えると、有り難いものだね。
逆に、僕みたいに、話したくとも話せずにそっと見守っている者もいるかも知れない。
敢えて遠ざけている者も。なるほど……人とは、面白いものだね。
……ありがとう。きっと、大丈夫……。
明日からは、ふふ、飛びつかれても、少し落ち着いて話せる気がするよ。
逆に、僕からも、気が向いたら、何人かに話しかけてみようかな。
こんな風に貴方と話せたように、新しい何かを見つける事が出来るかもしれないからね」
お面の審神者が奏でる心地よい月琴の音色を楽しみながら、来た時よりも随分と安らかな気持ちで、
歌仙兼定はそう言ったのだった。
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