「……で。 カーディレットの連中に思い切り目をつけられてしまった俺たちは、これからどこに行きゃいいんだよ?

 おそらく、サラーブ国内には俺たちの手配書が行き回る筈だ。何しろ精霊使いが3人も集まっているからな。

 下手にうろつけば、簡単に牢獄へ逆送りだぞ」


今後の行く先を、マトヴェイは一行に問いかけた。



「今後の行き先か…… このままサラーブに留まるのは危険だ。どこか別の国へと逃れないといけないな。

 しかし、困った事に、私は諸外国についての情報を殆ど持っていない……

 どこか、良い場所の心当たりはないだろうか?」


生まれてからフロレアールから外に出た事が殆どないスノウは、仲間たちに今後の行く先の候補を募った。



「まず、当然カーディレットに関わりのある国は止めた方がいいわね。

 同盟関係を結んだと噂になっている、ソルシエール王国、そしてノアプテ王国。

 協力関係にあるこれらの国にも、きっとあたしたちの情報を送っている筈よ。


 サラーブの周辺の国々も、度重なる帝国軍の侵攻によって、殆どの国が併合されているわ……

 カッシュマペア、ダラームサール、バーミントン…… この近辺の、古くから歴史のあった名だたる国々が

 あっという間に次々と潰されてしまったのよ。この周辺は危険だわ。」


ラーレはこの地域の大半が既に帝国の手によって陥落した現状を上げ、さらに協力関係にある国に向かわないよう助言する。



「お前たちはどうやってここにやってきたんだ?」


「リトスからの交易船でサラーブへ向かう船を見つけた。

 ただ、その船も密航船で、用心棒の役目を引き受けてようやく乗ることが出来たんだ。

 カーディレットに支配されたサラーブに向かおうとするような船は、今時そうはいなかったからな。」


「合法ルートじゃねぇって事か……よくもそんな所に来ようと思ったもんだよな……

 どうせその後の事はロクに考えてなかったんだろうよ……」



サラーブへやって来た手段をスノウから聞くと、マトヴェイはため息をつく。

綿密に計画を立てるというよりかは、好奇心が勝っているこの一行には、マトヴェイは不安しか感じられなかった。



「でもまぁそれが、旅の醍醐味ってものじゃない。

 何があるか分からない、ドキドキワクワク! あぁ、退屈な日常なんか、何の創作意欲も湧かないね!」


「スリルがあり過ぎるだろ…… ここに立っていられる事自体、奇跡だと思えよクソッタレ……」


サロードが夢見心地で旅の魅力を語ると、マトヴェイは先程までの危機的状況を思い出してウンザリした。




「まぁ、彼女たちは旅の初心者なんだし。多めに見てあげてよ♪

 じゃあこの旅の行く末に困った君たちに、俺が妙案を出そうじゃないか!」



そうサロードが言うと、荷物の中から古ぼけた地図のうちの一枚を取り出して、皆の前に広げて見せる。


それは、このサラーブ近辺の詳細な地図だった。

蝋燭の明かりに照らし出されたその地図は、あちこち擦り切れていたり書き込みが加えられて、随分年季が入っているようだ。

長い事各国を旅してきたサロードが、各地の詳細を実際にその目で見て足で歩き、地図に書き加えてきたのだろう。


皆は地図を広げたサロードの周囲に集まる。



「君たちがやってきたというこの海上ルートだけれど、今は帝国軍の大洋艦隊によってほぼ封鎖されていると言ってもいい。

 サラーブは本来船によって諸外国と貿易を行っていたけれど、この状況じゃ海路は難しいね。」


鉛筆で、サラーブの国から海に向かって諸外国へ伸びている交易路に、サロードはバッテン印をつけていく。



「サラーブの周辺にはラーレちゃんの言った通り、いくつかの国が隣接していた。

 けれど、今回の帝国の侵攻によって、これらの国々も壊滅的な被害を受け、ほぼ崩壊して帝国の占領状態にあると言っていい。

 大陸間の主要な交易路は、帝国軍によって監視されているだろうね。」


サロードはさらに、隣接する国々に繋がる陸続きの交易路にも、次々とバッテンをつけていった。



「おい、これじゃ殆ど陸路すら難しいじゃねーか。周囲を占領されちまったら、まさに袋のネズミだぞ」



地図上にある他の国へと向かう道が次々と使用不能である状況を突きつけられて、困り果てたマトヴェイは

どうしたらいいんだとばかりにサロードに食ってかかる。



「落ち着いて。これで終わりじゃあないんだよ。俺が案内するのは、彼らも殆ど知らないルートなんだ」


人差し指をぴっと上げて、サロードはにっこりと微笑んだ。




彼は人差し指を地図の上に伸ばすと、その指の先は、サラーブの北側から続いていく山脈を指し示した。



「サラーブは開けた平野にあったから周辺を諸国に囲まれていたけれど、唯一この北側の山脈だけは隣接した国が存在しない。

 とても険しくて人の住めるような環境じゃないからね。

 但し、ここの山脈には、過去に交易路が存在していたんだ。

 サラーブは鉱石資源に恵まれた国。それを目当てに、大勢の人々、あるいは人ならざる存在が、この険しい道を通っていたんだ。」


「今では使われていない旧道か。成程、それならば、帝国の連中に見つかる事なく、この国から逃げる事が出来そうだな。」


思いもよらなかったサロードの提案に、マトヴェイは素直に感心した。



「ただ、俺たちならともかく、お子様2人も抱えて越えられるようなルートなのかよ……?」


ルーシーとソニアを視界の端にちらりと見やり、マトヴェイは疑問の声を上げる。

そんな彼の台詞を聞き、ルーシーは憤慨する。


「失礼ね! これでも脚は丈夫な方なのよ! 今回の旅で、前よりも少し体力ついたつもりだし!

 みんなの足手まといになんかならないわ!」


「私も、一生懸命歩くよー!」


ソニアもにこにこしながらぴょんぴょん手を挙げる。


「それに、マトお兄ちゃんは、か弱い子供2人を置いてさっさと先に行っちゃうような、

 帝国兵みたいな薄情な人じゃないってことぐらい、私分かってるもん。 ね?」


そういうとソニアは、共に逃げ延びてきたマトヴェイに向かって、期待するように言う。

見ず知らずの自分を助けてくれた彼に、全幅の信頼を置いたような、きらきらとした視線を向けて。


「うぅ……うるせぇ……お前らの事なんか知るか……」


「アンタ、子供相手にもう既に負けてるわね……」



ソニアの無邪気な視線を受けて、思わずたじろいで視線を外すマトヴェイ。

大の男が既に子供の掌に転がされている状況に、ラーレは盛大にため息をつく。




「あはは、まぁなかなかキツイ道だけどねえ。 でも、帝国の怖いお兄さんたちとかち合う危険は、ぐっと減らせると思うよ。

 ちなみに、この旧道の先にあるのは、天に届きそうな山々がいくつも聳え立つ、自然豊かなテワラン天帝国。

 噂によると、今丁度このサラーブと同じく、帝国軍による侵攻を受けているって話だよ。

 帝国と対峙しているならば、同じく帝国に追われている俺たちと、話が合うんじゃないかな?」


更にサロードは、道の先にある国が帝国と対峙しているという貴重な情報まで、皆に届けてくれた。


「テワラン天帝国……! 確か、武芸に秀でた人たちがたくさん住んでいるっていう国ね。

 帝国と協力関係にあるソルシエールと、昔から竜を巡ってひと悶着しているらしいわね。

 確かにあそこなら、帝国に追われているって言えば、協力してくれそうね……」


諸外国の噂を少し聞きかじった事のあるラーレも、サロードの提案に納得する。


「ほんの少しでも俺たちの味方になってくれそうな所に、向かってみる価値はあると思うんだ。

 どう? この道を通ってみる?」



スノウは皆と視線を合わせて頷く。



「あぁ。その案に賛成だ。 山脈を抜ける旧道を進もう。」



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