サラーブの王宮の排水溝の中を、帝国兵たちに見つからないように身を潜めながら、ひたすら1日中走り続けたマトヴェイとソニア、

そして彼らの守護精霊であるセリコとポルヴォーレの4人は、ようやく排水溝の外へと続く出口へ差し掛かった。


「この網をこじ開ければ、城門外壁近くに差し掛かるはずだ。 ……おそらくな。

 こんな暗い中を走っていたんだ、ハッキリした出口だって確証はねぇが……」


城に網目のように張り巡らされた排水溝は、4人が今立っている場所で、大きな地下水路と合流していた。

おそらくこれは城の周囲に張り巡らされた外堀に続く地下水路だろう。

そう踏んだマトヴェイは、地下水路の上から差し込む光を見つけ、水路が合流している点から見て、ここが城門外壁だろうと予測をつけたのだ。



追手を振り切るように迷路のような排水溝を隠れながら進んだ4人は、既についた汚れに加え、水路の泥の汚れで酷い有り様になっていた。


「くそ……ここを出たら一番に風呂に入りてぇな……臭くてかなわねぇ……」

「まるでドブネズミみたいだね、私たち」

「うっせぇ……ここから何としても逃げ延びる為だ、我慢しやがれ……」


緊迫している状況なのにも関わらず、泥だらけのマトヴェイを指さしてくすくす笑うソニアに、マトヴェイはげんなりした様子で答えた。


「とにかく、あの網を突破するんだ。 あれは鉄で出来た網だろう……ソニア、お前の力を頼ってもいいか?」

「いいよ! 任せて!」


ソニアが元気よく答えると、両手を前に差し出して集中した。

両の掌から勢いよく現れた高温の炎が、排水溝を塞いでいる鉄の網を焦がす。焔の強い熱で、鉄の網がみるみるうちに溶けていった。

少し熱がおさまった所で螺旋階段を登り、マトヴェイは鉄の網を思い切り蹴り上げた。


ばかん!! と大きな音を立てて鉄の網は吹っ飛び、地下水路に地上の光が眩しく差し込んだ。



2人が外へ飛び出すと、その場所はまさにサラーブの宮殿の大きな城門の目の前。

しかし城門前には、大勢の帝国兵が見張りをしていたのだ。


いきなり飛び出て現れた2人に、帝国兵たちは仰天し、大騒ぎする。


「こ……こいつらは、捕虜の精霊使いの2人!! なんでこんな所にいやがる?!」

「脱獄したって聞いたが、こんな所を逃げ回ってたのか……!!」

「なんでもいい!! こいつらを早くとっ捕まえるんだ!!」


両手に剣や槍を構え、あちこちから2人を捕えようと大勢の帝国兵たちが駆け寄ってくる。

マトヴェイは自分たちが出た場所が、まさか城の真正面の城門だとは思わず、血相を変えて叫んだ。


「うぉぉぉいッっ?! よりによって、何でこんな場所に出ちまうかよ?!」


「わぁー! 兵士さんたちがいっぱいだねぇ!」

「んなのんきなこと言ってる暇ねぇ!! 逃げんぞ!!」


兵士たちを背に、2人は勢いよく走りだした。




精霊使いを逃がしてはなるまいと、追いかけてくる帝国兵の数も次第に増えていく。

マトヴェイは、子供の足故に走るスピードの遅いソニアを右手でひょいっと小脇に抱えると、追ってくる帝国兵に向けてにやりと笑う。


「もう護るべき部隊も国も何もねぇからな……見てろよ」


かつて己が縛られていたサラーブの宮殿を今一度見上げ、マトヴェイは左手を前にかざした。


「喰らいやがれ!!」


マトヴェイが強く念じると、隣に居たセリコの耳や尻尾がぶわわっと逆立った。

彼女が甲高く鳴くと、それまで平坦だった、正門へと真っ直ぐ続いていた道に、ビシビシッと大きな音を立てて地割れが走る。

帝国兵たちが避ける間もなく、地鳴りと共に、地割れから大きく道が崩れていく。


「うわぁぁぁぁ!!!」


追ってくる兵士たちを巻き込み、広がっていく地割れが兵士たちを次々と飲み込んでいく。

その振動と地割れは王宮にも広がっていき、城門前の柱が音を立てて崩れていく。

豪奢な王宮が崩れていく様子を見ながら、マトヴェイはサラーブ王国や帝国軍から受けた今までの仕打ちを思い出し、してやったりという表情をした。


「へっ、ざまぁみやがれ……!」





ボロボロになった兵士たちの傍ら、黒い軍用ブーツで割れた大地を踏みしめながら、重々しい足取りで1人の将校がやってくる。

混迷を極めるサラーブを統治するため、カーディレット本国の指示で派遣された、魔法部隊を統括する人物だ。


「し、シスカーン将軍!!」


「貴様ら、一体何をしている…… 精霊使いは、サラーブだけでなく、世界統一を成し遂げる為に、帝国にとっては必要不可欠な存在なのだ。

 1人たりとて、逃がしてはならん。直ちに捕獲せよ」

「はっ!!」


「そもそも、何故捕虜が逃げ出した? 制約結界を込めた枷を手足につけるように、指示していた筈だが」

「そ、それが…… 焔使いの少女の方は、まだ子供だから大丈夫だろうと、見張りの兵士たちが怠っていたようです……」

「愚か者め」





「何だ、見ねぇ顔だな……追っ手は、あの全身武器野郎じゃねぇのか?」


新たな刺客の登場に、マトヴェイが振り返ると、そこには見知らぬ将校の姿があった。

すると、ソニアが真っ青になる。


「あの人……制約結界を使える人だ…… 私たちの魔力自体を抑えちゃうことが出来ちゃうんだよ。

 あの人の使う結界は、精霊使いにも勿論使えるから、帝国軍が捕獲した精霊使いたちが逃げたり反撃できないよう

 押さえつける役目を持ってるの。」


「げっ、そりゃまずい事になるな…… ここは逃げの一手だ!!」


本国で一度捕まった時に、その魔力を抑えられたことを思い出し、ソニアはマトヴェイに助言する。

それを聞くや否や、捕まったらひとたまりもない事を悟ったマトヴェイは、一層逃げる足を早める。



「こっち来ないで!」


マトヴェイに抱っこされながら、ソニアも追手の帝国兵たちに向けて魔法を放つ。

強力な焔魔法が兵士たちに直撃して、大爆発を起こす。その衝撃で、ラピスラズリで彩られたドームの尖塔がガラガラと崩れていった。

美しく荘厳だったはずの宮殿が、占領時の戦闘に加え彼らの反撃で、今や見るも無残な有り様である。


「あわわ……折角手に入れたサラーブの宮殿がえらいこっちゃ……」

「あいつらを捕まえないと、更に被害が広がるどころか、逃がしたって軍上層部から大目玉喰らうぞ! 早く捕まえろ!!」


焦りながら、必死で精霊使いの2人を追いかける兵士たち。その後ろから、魔法部隊のシスカーン将軍も続く。

彼ら帝国兵たちとの間の距離は、次第に縮まるばかりであった。



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城壁の向こう側からその様子を眺めていたスノウとルーシーは、突然上がった火柱に驚き、立ち尽くしていた。


「サラーブ王宮は今、帝国兵が支配している筈だろう……?」

「まさか、捕まったサラーブの兵士たちが反乱を起こしたとか?」

「帝国兵の監視は厳しいそうだ。陥落したばかりの王宮で、それはないのでは……?」


憶測を巡らせ、頭に疑問符をいくつも浮かべながら、スノウとルーシーは事の成り行きを見守っている。

しかし、このままでは戦乱に巻き込まれる事は必至だ。ルーシーを危ない目に逢わせる訳にはいかない。


「と、とにかく、ここから離れた方が良さそうだ」


そうスノウが言うと、今火柱が上がったばかりの方向から、2人の人物が駆けてくるのが見えた。



1人は、サラーブの兵士の恰好をした黒髪の青年で、もう1人は青年におんぶされた、10歳前後の少女だ。

いずれも帝国兵から一心に逃がれたい様子で、彼らに捕まらないように必死に走っている。



「えっ? えっ? あのお兄さんたち、帝国兵に追われてる……?!」

「彼が着ている制服は帝国軍のものではない。まさか、サラーブ兵の捕虜か?

 だとしたら、何故小さな女の子を連れているんだ……?」


考える暇もなく、彼らはこちら側……すなわち、王宮の正門から一直線に街に向かって逃げてきている。

このままでは彼らと鉢合わせるだろう。


帝国兵に追われる人物を助けるなんて、帝国に占領されているサラーブにおいては正気の沙汰とは言えないだろう。

ただ、ややガラの悪い青年はともかく、まだいたいけな少女を兵士たちが追いかける理由が分からなかった。

のっぴきならない、しかも帝国軍が正当性を語れないような事情である事は、間違いないだろう。


大陸での侵略戦争を仕掛け続けるカーディレット帝国の振る舞い、サラーブにおける帝国兵たちの横暴ぶりを

今まで直に見てきたスノウたちは、事情はどうであれ、彼らをそのまま放っておくことは出来なかった。



「スノウ、私、あの子とあのお兄さん、放っておけない……!」

「あぁ、同感だ。」



逃げている2人の姿は、もう目の前だ。

崩れかけている城壁の陰から、追手の帝国兵の一団に狙いをつける。

スノウが魔力を込めると、青天の灼熱の空に向かって、地面から巨大な氷柱がいくつも現れた。

突然現れた氷柱は、幾人かの兵士を氷漬けにし、帝国兵たちの行く手を阻む。


「こ、今度は何だ?! 氷の柱?!」


奇襲に足を止め、戸惑いの声を上げる兵士たち。

同時に、マトヴェイとソニアも、突然の事に驚いていた。


「氷の魔法……?!」

「なんだか知らねぇけど、奴らの足が止まった! 今のうちに……」


すると、2人は城壁の陰に隠れていたスノウとルーシーに気が付いた。

加勢が彼女らによるものだと気付いたマトヴェイは酷く驚く。

まさか自分たちを助けてくれるような存在が現れるとは、露ほどにも思っていなかったからだ。


しかし、同時に激しく怒りが込み上げる。何て危険な事を。本来礼を言うべき前に、マトヴェイは思い切り2人を罵倒した。



「これは……もしかして、あんたらの仕業か……?!

 なんて危険な事をすんだよ!! あの帝国に刃向かうなんてどこの命知らずだ!? あぁ!?」


そんなマトヴェイを、おんぶした状態のソニアがびしっと平手チョップをする。


「助けて貰ったのに、そんな口利かないの!!」

「あだ!! ソニア、てめぇな……

 だがよ、あいつらを敵に回すだなんて正気の沙汰じゃねぇ!! んな命知らずな奴に馬鹿だって教えてやってんだよ、俺は!!」

「まぁ、確かに……無鉄砲というか、命知らずは一理あるかも知れないな……」

「そこで納得しちゃだめよ! それに、帝国を敵に回す、向こう見ずなのは今更でしょ……」


マトヴェイに一喝されて少し考え込んでしまうスノウに、ルーシーも盛大に突っ込んだ。


しかし、そう言っている間にも、後ろから氷の奇襲を避けた兵士たちが次々と追いかけてやってきた。



「なんでもいい、とにかく、ひとまず逃げろーーーッ!!」



そう叫ぶと、マトヴェイは再びソニアをおんぶし、スノウはルーシーを同じく背中に担いで、一斉に王宮を背にして駆け出した。






「しかし、一体なんで帝国軍に追われる事になったんだ?」


ルーシーをおぶさりながら、息も切れ切れに走るマトヴェイに問いかけるスノウ。


「見ての通り、俺はサラーブ軍の捕虜だった、脱走兵だ。こいつは故あって帝国軍に捕まっていて、一緒に逃げている。

 俺はまぁ捕虜だから逃げたら当然追いかけられる立場にあるが、こいつには何の罪もねぇ。

 奴らに再び捕まらねぇよう、今はただ逃げるだけだ。」


背中におぶさっている少女・ソニアはまだ10歳そこそこのいたいけな少女だ。何故、帝国軍に捕まっていたのだろうか。

スノウが疑問に思っていると、今度はマトヴェイがスノウに問いかけてきた。


「それはそうと、何で俺たちを助けた? ここが帝国に支配されていることぐらい分かっているだろう。

 奴らに刃向かえば、命すら危ういという事もな」


「私はこの国の者ではない。旅の途中にたまたま立ち寄っただけだ。

 しかし、彼らの所業は横暴極まりない。それがまかり通るような状況に、黙って見ていられなかっただけだ」


「そいつぁ何とも、ご立派というか、おめでたいことで……」


帝国の恐ろしさを何とも思わないスノウの物言いに、マトヴェイは感心するような、反面呆れたような口を利く。


「でも、おねーさんのお陰で助かったよ! ありがとう!」


背中の上で、ソニアはスノウににっこり笑いかけた。

その時、スノウは彼女の隣に少年がもう1人、いつの間にか居る事に、酷く驚いたのだった。


「き、君……?! いつの間に……?!」

「!? ソニア、こいつ、俺の事見えるみたいだぜ!!」

「え……?! まさか、おねえさんも、精霊使い……?!」


その様子に、ソニアもマトヴェイも、更に顔を見合わせて驚いた。


「やった! やったよ!! 仲間だよ!!」

「待てよ、連中が話していた、大洋艦隊を沈めた氷使いっつーのは……

 おい、あんた、ここに来る前に帝国の艦隊と対峙したりしなかったか?」


おそるおそるマトヴェイが尋ねると、なんの負い目も感じずにはっきりとスノウは答える。


「あぁ、それは恐らく私たちの事だろうな。私たちの乗っていた商船を襲っていたのが、帝国軍の一隻の艦船だ。

 助力もあって、なんとか彼らを撃退する事が出来たが」


「マジかよ……なんつー偶然だ……」


予測が当たり、マトヴェイは頭を抱え込む。戦力が増えるのは喜ばしい事だが、これでは帝国軍に追われる理由が増えてしまう。







同時刻、追手の帝国軍内でも、氷の精霊使いの情報は広まっていた。


「思わぬところから妨害を受けた……が、この氷柱……

 確か、サラーブ湾に展開する大洋艦隊のうち一隻が、氷使いの手によって沈められた、そう報告があったな?」


「はい。仰る通り、ごく最近、そのような報告がありました。

 海賊の奇襲も合わせて受けたと聞きますが、兵士の話によりますと、長い茶髪に緑の目をした、白いマントの女剣士だったそうです。」


「茶髪に緑の瞳の女剣士……はっ、まさか昨日の?!」


兵士の1人が、報告を聞いて動揺する。


「なんだ。何か知っているのか?」


「は、はぁ…… 実は昨日、街に勝手に興行をしていた楽団を取り締まろうとしたら、同じような特徴を持った女に邪魔されたんですよ。

 普通のサラーブの踊り子の恰好していて、一見かわいかったんだけどなぁ……」


情けない出来事を思い出すのをためらい、少し言葉を濁しながら、ラーレのいた楽団を取り締まろうとしていた兵士が

昨日の一件をシスカーン将軍に説明する。


「ふむ、なるほど。あれから殆ど日は経っていない。その氷使いが上陸し、このサラーブに忍び込んでいる可能性は、ゼロではないだろう。

 その者の特徴を、手配書として記し、サラーブ全土に手配せよ。

 目標とするのは、サラーブ軍の捕虜の兵士、逃げ出した少女、その女剣士の3人だ。」


「了解!」


兵士たちを目の前にして、シスカーン将軍は抑揚のない、しかし凄みのある声で、今一度言い渡した。


「しかし、全員心せよ。無益な殺生や、理由のない略奪、連行、破壊行動は、十分慎み控えるように。

 我々はこの豊かなサラーブを再統治に来たのだ。国政をないがしろにし、権力に胡坐をかく、愚かなサラーブの王族たちに代わってな。」


「は、ははっ!!」


上級士官不在で、下級兵たちによって好き放題にされていたサラーブも、少しは統制されるようになりそうである。





マトヴェイたちの逃避行は、サラーブの街中に及んでいた。

4人は入り組んだ煉瓦造りの街並みをまるで縫うようにして走り、帝国兵を撒こうと必死だ。

道を歩く一般市民たちは、軍隊に追われる彼らを目にして仰天し、思わず道を開けた。


「うわっ!! 何だなんだ?!」

「帝国兵に追われてるぞ!! 関わるな!!」

「何やらかしたんだろうねぇ……?」

「サラーブ兵が小さい女の子を連れているぞ! もしや、女の子を人質にとって逃げ出したんじゃないか?!」

「一緒に走ってるお姉さん……いや、お兄さん? も仲間かねぇ……? 悪い奴らだ……」


その人相の悪さから、サラーブの街中の住民たちからは、どう捉えても悪人にしか受け取られないマトヴェイ。


「いや、違うんです……決して人質なんかじゃ……」

「諦めろ…… もはや弁明しても無駄だ…… それより奴らに捕まらない事だけ考えろ!」


走りながらも、道行く人に誤解を解こうとするスノウだったが、もはや諦めたマトヴェイに止められる。





一行が街中を複雑に走り逃げ回っている最中、たまたま興行をしていたラーレたち一行にかち合った。



ラーレはその中に、スノウとルーシーが居る事、更に帝国兵たちに追跡されている事態に吃驚仰天した。


「あ!! アンタたち、宿舎に居る筈じゃなかったの?! ってか、何で追われてるのよ?!」

「話は後だラーレ、君も逃げた方がいい! 帝国兵の追手が迫ってるぞ!」

「どういうことよー!? 今日一日じっとしてるって言ったじゃないの!! アンタらは嵐を連れてくる風雲児かい!!」


憤慨して両手で頭を抱え込むラーレの肩に手をおき、いつの間にやら荷物を整えたサロードが爽やかに微笑む。


「諦めなよ、ラーレちゃん。この間の一件で、帝国兵たちの不興を買う事は考えられたよ。

 それより、か弱い乙女たちが野蛮な猛者共に追われて困っている! ここは俺の出番だね♪」



すると、サロードは楽団員たちの方を振り返り、いつもより随分落ち着いた調子で、少し寂しそうに微笑んだ。


「ごめんね。帝国のやり方に、俺たちは賛同できないんだ。 ここで唄を歌い続けていたら、皆を困らせてしまう。

 だって、俺が奏でるのは、愛と自由を願う唄だから。ラーレちゃんの踊りは、自由を願う人々を勇気づける為のものだから。

 ……俺たちはここを出ていくけど、どうか皆も無事でいてね。」


彼の言葉を聞くと、楽団のメンバーたちはにっと笑って、分かっていたとばかりに答える。


「あぁ、んなの知ってるよ! ラーレちゃんのあの啖呵は見事なもんだった!

 俺たち皆、サラーブに自由な日が来るのをいつも願ってるんだ! お前たちがどこで演奏していても、応援しているぜ!」


楽団員たちの言葉に、にっこりとサロードは微笑んだ。


「ほれ! 猫の嬢ちゃんと、用心棒の姉ちゃんの荷物だ!」


いつの間に用意していたのか、スノウとルーシーの荷物も、楽団員のひとりが届けてくれた。


「ありがとう皆。じゃ、行ってくるよ!」


そう言うと、ラーレの手を引き、サロードはスノウたちの一行に合流すべく、駆け出した。






「なんだなんだ……随分面子が増えたな……?」


走りながらマトヴェイは、新たな面々の合流に戸惑う。

そんな中、追われているというのに、至極楽しそうな様子でサロードがマトヴェイに話しかける。


「よろしくね、強面のおにーさん♪

 ……うん、なかなか誘拐犯ってな顔つきしているねぇ。

 これじゃ、か弱い女の子を攫っていく誘拐犯と、街の人たちから間違われても無理はないかな?」


「んだと! 余計なお世話だ!! この見るからに女ったらしのクソ詩人が!!」


いきなりの軽口にいきり立つマトヴェイの隣で、ソニアが悪ふざけする。


「きゃ〜〜♪ 誰か助けて〜〜♪」

「ばっ馬鹿、お前、運んで貰っといて、人聞きの悪ぃこと言うんじゃねー!!」

「ほらほら、早く逃げないとお巡りさんに捕まっちゃうよ♪」

「お前の方こそさっさと捕まりやがれ、この破廉恥エロ詩人!!」


間髪入れずに突っ込みを入れるサロードに、くわっと叫ぶマトヴェイ。

そんな2人を見ながら、スノウとルーシーは改めてマトヴェイの人相の悪さに感心した。


「しかし本当、幼女誘拐犯にしか見えないな……その人相の悪さのせいか?」

「ホントよね……」

「お前ら完璧人をおちょくってるだろ…… いいから早く走りやがれー!!」



追われているというのに、緊張感さえ感じさせない彼らのやりとりに、マトヴェイの怒声が青天の空の下、響き渡った。




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