サラーブの王都に入った3人と1匹はまず、かつては東洋の宝石とも呼ばれた、その美しい街並みの

今の荒廃具合に驚いたのだった。


外側から街を眺めた際にも、城壁にいくつもの銃弾跡やひび割れが目立っていたが、

城壁の内側は、侵攻された後の焼け跡、表より更に酷く壊れた家の壁など、更に酷い有り様だった。

これも、帝国軍とサラーブとの激しい攻防戦によるものなのだろう。


サラーブの王都は1日を待たずとして焼け落ち、国は滅び去ってしまったという。

その戦いの果てに、街はこれだけ荒廃してしまったのだ。


街の建物だけではない。そこに住まう人々も、スノウが最初訪れたリトスとは打って変わって活気がない。

人々は皆視線を落とし暗い表情をして、道で厳しく目を光らせている帝国兵に目を付けられないように、

静かに口を閉ざし、足早に、まるで逃げるように道を歩いている。

人々はなるべく早く自分たちの住処へと急ぎ、不必要な外出は避け、治安が悪い為に扉には固く閂がかけられる。


街の商店は殆どが入り口を閉ざし、一部開いている店舗は、帝国兵が集いがやがやと賑わう、寂れた酒場のみ。

弱々しく掠れるように吹く風が、砂埃を巻き上げ、街の荒廃っぷりをより一層強調していた。




「まさか、ここまでになってしまっているとはね……もっと賑わっていて、明るい街だったんだけどなぁ……」



久しぶりにサラーブに戻ったサロードは、故郷のあまりの変わりように、その荒廃ぶりに、悲しげな声を上げた。




「サロードがここを出たのは、カーディレット帝国が攻め入る前だったのだろう?」

街を歩いて周囲の様子を見ながらスノウがそう尋ねると、サロードは静かに頷く。


「うん、俺は吟遊詩人として身を立て、各地を渡り歩き始める前は、ある旅の一座で長い事下積み生活をしていたんだよ。

 ようやく独り立ちして、各地を旅して歩いている頃に、風の噂で、サラーブがカーディレット帝国に侵攻を受けている事を聞いてね。

 心配で戻ってきたんだけど……」


「その旅の一座が心配で、ここまで戻ってきたのか?」


「いや、そこで修行をしていたのは大分前の話。子供の頃の話さ。

 その一座が今はどこで何をしているかなんてわからないし、団員も入れ替わりが激しいし、

 今も残っているのかどうかさえも分からないよ。そこで働いていた人たちも、今は各々好きな所へ旅立っているからね。」



サロードは少し寂しそうな笑顔でそう話した。

彼の口ぶりから、かつて居た一座にはそれほどまでに思い入れはない様子だ。

それでも、横暴だと名高い帝国が支配しているこの地へ、危険を冒してまで祖国に戻って来たのは、何故だろう。


「帝国に支配されているサラーブより、外の国の方が安全なのだろう。どうしてわざわざ、ここへ?」


「どうしてだろうね……別に、そこまで思い入れがある訳じゃないんだけれど……

 なんとなく、この目で見ておかなきゃな、って思ったのかな……」


荒廃した街並みをゆっくりと眺めながら、そう無意識に、サロードはぼんやりと答える。

それは、この国が彼にとって、唯一無二の故郷であるからであろうか。

例え、どんな過去があったとしても。


故郷を想う彼の気持ちに触れ、スノウは殊更に己の生まれ故郷であるフロレアールの事を、思い出さずにはいられなかったのだった。




そんな物思いに耽るスノウの顔を見て、ぱっとサロードは気を取り直す。

「やだなぁ、冗談、冗談!

 この地で苦しんでいる祖国の乙女たちを、この歌声で慰める為に、俺は遥々海を越えてやって戻って来たんだよ♪」

そう冗談を溢し、サロードは持っていたリュートをポロンと鳴らした。




その時、彼の弾いた弦の音にまるで応えるように、流れるような美しい音楽が聞こえてきた。

こんな戒厳令が敷かれている筈の街の中で、と、3人と1匹は不思議がる。


「この音楽は…………?」

「何だかとっても楽しそうね!」

「あっちだ。行ってみよう」




スノウたちが音楽が流れている場所へやってくると、寂れた街中でありながら、幾人かの通行人が足を止めて輪を作っていた。

その人だかりの中央に何があるのだろうと、スノウはやや背伸びをして覗き込む。


質素な木造りの、見世物小屋のような荷車の舞台。

舞台の脇には、幾人かの楽士たちがシタールや笛、鈴を鳴らして素朴でありながらもリズミカルで美しい音楽を奏でている。

見学人たちはその楽しそうな音楽に合わせ、拍手をしたり小刻みにリズムをとったりしている。


その舞台の前に、1人の若い女性がやってくる。

ミントグリーンの豊かな髪に、華やかなピンクのリボンをつけ、その身には美しい繻子織の衣装を身に着けている。

煌めく宝石で散りばめられた金色のブレスレットが眩い光を放ち、華奢そうなその手には、なんと大ぶりの曲刀が片手に一つずつ握られている。


彼女が観客たちに向かって一つ小さくお辞儀をすると、舞台の真ん中で小さく屈みこむ。



一瞬音が消え、静寂の時が流れる。




何層にも彩られた荘厳なリードの音色と、まるで金の煌めきのようなシタール、ダルシマーの音に合わせ

踊り子は白銀に煌めく双剣を、天空に振り上げる。


かっと開いた二つの眼は、燃えるような躑躅色。

音楽に合わせ、双剣を巧みに操り、踊り子は見事な舞を披露する。全身からエネルギーを放ち、その指先まで躍動感に満ちていた。

手足がリズムを取るたびに、彼女を彩る宝石たちがシャラシャラと鳴り響き、豊かな髪は風に揺れて鮮やかに輝き、

身を包む繻子織のヴェールは身体の動きに合わせ、白檀の香を漂わせて、まるで天女の羽衣のようにふわりと優雅に浮かぶ。




そのあまりの浮世離れした可憐さ、美しさ。

スノウは時が経つのを忘れ、しばらくの間彼女の舞いに見惚れていた。



「凄い凄い! とっても綺麗ねぇ!」

ルーシーも人だかりの後ろから、サロードに肩車をして貰って踊り子の舞を眺め、拍手を送っていた。

拍手を送るルーシーを肩車しているサロードは、彼女を見るなり目を丸くした。


「あ、あの子は……」

「どうした、サロード? 知り合いなのか?」


スノウがサロードに尋ねようとすると、曲が終わり、観客たちの盛大な、割れんばかりの拍手に包まれた。

踊り子は嬉しそうな笑顔で、観客たちの拍手に一礼する。

アンコールをねだる観客に応えて、楽士たちは曲を奏で出し、再び踊り子は舞い始める。


「あんなに大きな刀を2つ、軽々と扱って。凄いわねぇ。」

「ラーレちゃんは、こんな時でも見事な舞で私たちを元気づけてくれるよ!」


踊り子は、実戦で使っても居そうな2つの曲刀を軽々と扱い、見事な舞で観客たちを魅了していた。

人々は彼女の見事な舞いと、楽士たちの奏でる楽しそうな音楽にすっかり夢中になっていた。




しかし……



「何だ何だ、この騒ぎは!!」


見世物小屋の荷車に出来た人だかりに、何事かとカーディレットの憲兵たちが集まってくる。

物々しい赤と黒の制服に身を包んだ、何人もの帝国兵が近づいてくると、人々は恐れの表情を浮かべ逃げ出す。


帝国兵たちがやってくると、踊り子は舞をやめ、鋭い眼差しを兵士たちに向ける。


「何よアンタたち! サラーブはカーディレットの支配下だけど、こうして興行を行う事自体は別に悪くないでしょ?!

 アンタたちがやってくると、皆が怖がって逃げ出してしまうのよ。いい商売妨害。迷惑だわ!」


その踊り子は、帝国兵を前にしても全く怖気づくことなく、寧ろ噛みつくように彼らに食って掛かる。

占領下であるこのサラーブでは、珍しい気の強さだ。

逃げ残った周りの観客たちは、彼らのやり取りから動向を怯えながら見守っている。


すると、帝国兵の中の最も屈強そうな兵士が銃を構え、彼女の前に出る。


「不必要な集会は反乱に繋がる恐れがあるんだよ。踊り子風情で口答えする気か!」


「どう見たって集会なんかじゃないでしょ! 皆日々怯えて、不安を抱えた中で生きているのよ。

 音楽や踊りで楽しませてあげたっていいじゃない!」


「ほぉ……この帝国による支配が、まるで不安だとでも言っているようだな……?」

別の兵士が、にやにやと底意地の悪そうな顔で、彼女の言質をとろうと問い質し、突っかかる。

踊り子はその兵士をきっと睨み返す。流石にここで反論するような愚かさはない。

さらに畳みかけるように別の兵士が言う。


「お前が手にしているこの曲刀、殺傷能力もありそうだな。ならば、戒厳令違反でお前を捕まえる事も出来るんだぞ……?

 嫌ならば、どうしたらいいか、分かっているだろうな?

 ところで、お前、年はいくつだ……? 見た所18、19ぐらいに見えるが?」


帝国兵士の1人が彼女が手にしていた曲刀を乱暴に奪う。

複数の兵士たちで囲うようにして、その踊り子に威圧する兵士たち。その1人は彼女の年齢を尋ね、彼女の細い腰に手をかけている。

その野蛮な手を振り払い、踊り子は尚も兵士を睨み、強く言い返す。


「それは踊りの時に使う為の舞踊刀よ!

 そんな事言ったら、曲芸師のナイフだって、料理人の包丁だって、何だって危険になるわ!

 なんだかんだと言いがかりをつけて捕まえて、自分たちの思い通りにしようとするその姿勢、なんとかしなさいよ!

 それに、私は20歳! タマラ王女より全然年上よ! こんな蓮っ葉な王女居る訳ないでしょ!?」



街頭興行に言いがかりをつけるどころか、彼女に王女だと言いがかりをつけて、大勢で連れ出そうとする帝国兵士たちに

街の人々はおろおろと何もできずにただ見守っているしか出来なかった。



何と卑劣な事だろう。

大勢の男たちが、華奢な女性相手に、武力を傘に束になって言いくるめようとは。



サロードは、黙って見つめて動向を見守っていたスノウが行動するより先に、彼女に声をかけた。

振り返ったスノウの、その怒りを秘めた眼差しに、彼はふるふると頭を振り、小さくため息をついて笑う。

彼女が何をしようとしていたかは明白だ。


真っ直ぐな彼女の性格だ。何を言っても聞かないだろう。そんな彼女に、サロードは穏やかに助言する。


「待って。 その恰好で飛び出したら、君も反乱罪で捕らわれてしまう。僕にいいアイデアがあるよ」






「どうだ? こんな辺鄙な所じゃなくって、俺たちの酒場ででも踊ってくれれば、金だって出すし、待遇も良くしてやろう。

 折角の見事な踊りだ。金にもならん、こんなしがない街頭で踊り続けるより、いくらかマシだろう」


帝国兵士の1人が尊大な態度で、尚も抵抗する踊り子に、更にぬけぬけとこんなことまで言う。

それを聞くなり、踊り子は怒りを顕わにして叫ぶ。


「冗談じゃないわ! 私はね、この国を好き放題して踏みにじるような、戦争を引き起こすような奴らの為なんかには

 金をいくら積まれても、一切踊らないって決めてんのよ!! 踊り子が欲しいだけなら、他を当たる事ね!!」


尚も反発する踊り子に、ついに帝国兵は切れて彼女の手首をつかむ。


「生意気な女め!! いいだろう、反逆罪で貴様を拘束してやろう!!」

「ちょっと!! 離しなさいよ!!」


乱暴に腕を掴んできた帝国兵に、踊り子が抵抗していた、その時だった。





楽士たちとは違う、軽やかなリュートの音がポロロンと鳴り響く。


音の鳴り響いた方向に兵士たちが振り向くと、そこには藍色の衣に身を包んだ踊り子が佇んでいた。

ポロポロとリュートの調べを、吟遊詩人が奏で出すと、踊り子はおもむろに静かに舞い始める。


先程の舞とは異なり、まるで武術の型のようなキレのある動きだ。

俊敏であり魔訶不可思議なその動きに、帝国兵も、捕らわれた踊り子も、その様子を唖然として見守っていた。


すると、踊り子はその背から1本の、真っ直ぐな刀身の剣を取り出す。

舞踊にはあまり使われないような形の剣だが、踊り子が手にしたその剣を振り回す動きは、見事なものだった。

空を切るその流麗な動き、真剣な眼差し、その踊り子が作り出す不思議な空間に、人々の視線は釘付けとなる。


澄んだ青空の下、踊り子は輝く剣を手に、躍動する。



やがて、リュートの調べに乗っかるようにして、旅の楽団の楽士たちは、己の楽器を鳴らし始める。

まばらだった人々の拍手もいつしか一斉に鳴り響き、観客たちは歓声を上げ、突如現れた謎の踊り子に喝采を送る。


そして、踊りが佳境に差し掛かった時、その踊り子は射抜くような眼差しで、帝国兵と捕えていた踊り子めがけて

煌めく白銀の剣を突きつけた。

刃の切っ先は帝国兵の喉元一寸手前で寸止めされる。


「興行の邪魔になる。その子から手を引いて貰おうか」


威圧を含んだ低い声で帝国兵に凄む。鷹のようなその鋭い眼差しに、帝国兵は冷や汗を流し、踊り子を捕まえていた手を放す。

すると放された踊り子は己の曲刀を取り返し、周りにいた他の帝国兵に切っ先を差し向ける。

近づこうとした兵士たちは、その迫力に息をのみ、距離を取る。


「御覧の通り、舞踊刀だから威力なんて大したことないわ。それでもいいなら、どうぞお出でなさいな……?」


先程は踊りの後に絡まれた為に手にできなかったが、舞踊刀を取り戻した踊り子は不敵な笑みを浮かべ、帝国兵たちに呼び掛けた。

灼熱の太陽の光をきらりと反射して光る切っ先は、彼女が言うよりもよく切れそうな迫力を醸し出している。


「ちっ…… 覚えてろ! 出直してきてやる!」


手勢が増えた事を面倒がり、帝国兵たちは捨て台詞を吐きながらその場を後にした。






すると、辺り一帯は歓声に包まれる。


「やぁ、見事なもんだ! あの帝国兵たちを追っ払っちまうなんてよ!」

「胸のすく思いだったね! あいつらのあの冷や汗浮かべたあの顔! いい気味だよ!」


人々が送る称賛の歓声の中で、突如現れた助っ人に最初踊っていた踊り子が目をぱちくりさせて驚いていると、

よく見知った顔を見つけ、彼女は大声を上げた。


「あっ!? あんただったの!?」

「や、ラーレちゃん。久しぶり♪」


驚く踊り子に、軽く手を上げて答えるサロード。どうやらこの2人は顔見知りのようだ。

2人が挨拶を済ませていると、もう1人の踊り子が苦い顔をしてサロードに話しかけた。


「なぁ……ちょっとこの格好は……」


艶やかな藍色の衣装を身に着けた踊り子……もとい、スノウが苦々し気に呟く。

大きくヘソの出る露出の多いこの衣装は、彼女には大層不服のようだった。

もともと身に着けていた白い外套で急いで身を隠すスノウに、ルーシーはきらきらした眼差しで彼女を見上げた。


「え〜!? 隠しちゃうの勿体ないよ〜! すっごく似合ってたのに!! 舞いも上手だったのに〜!!」

「そうだよ、とっても綺麗だったのに〜♪」


計画だったとは言え、こんな格好をする彼女を至極楽しそうな様子で眺めるサロードを、スノウはじとっと睨み返す。


「でも、上手くいったでしょ?」

「まぁな……おかげで捕まらずに済んだが……」

「そうだ、暫くサラーブの街並みを歩く時も、この格好のままの方が怪しまれないよ?

 その方がいいんじゃない? うん、名案♪」

「冗談はよしてくれ……」


にこにこしながら踊り子姿のスノウを見守るサロード。

スノウといえば、この後もこの格好を続けるのかと、とんでもないとばかりの不満げな表情をしていた。



「何? あんたはここでも性懲りもなく女の子困らせてるって訳?」


コントのようなやり取りをしていると、踊り子の若い女性が彼らに話しかけてきた。


「え〜? やだなぁ、人聞きの悪い事言わないでよぉ。

 俺はこの窮地を脱する為に、可愛い子たちにぴったりな名案を授けただけだよ♪ もっと褒めて貰ってもいいのにぃ〜」


踊り子の手厳しい突っ込みに笑いながらサロードは冗談めいた。その表情はとても楽しそうだった。

こんなやり取りはきっと初めてではないのだろう。踊り子は大きくため息をつく。


それはさておき、踊り子は改めて彼らを前にしてにっこりと自己紹介した。


「えっと、機転を利かせて助けてくれてありがとね。

 あたしはラーレ。こうして街中で踊りを見せて渡り歩いている、旅の踊り子よ。

 ここにいるサロードとは、以前あっちこっちの旅の楽団で一緒に仕事した、いわば腐れ縁って奴よ」


「初めまして、ラーレ。私は旅の剣士のスノウだ。

 先程の踊りはとても見事だったね。君の踊りを前にしては、先程踊ったのも恥ずかしいものだ」


帝国兵を欺く為とはいえ、先程の振る舞いに少し照れて笑いながら、スノウはラーレの舞踊を称賛した。


「そんな事無いわよ! 踊り……にしちゃ斬新だったけど、剣の扱いはうまいものね。皆視線釘付けだったわよ。

 どう? 踊り子として修行してみない?」

「はは、私の身には余る役目かな……」


ラーレはスノウの剣の舞に感心し、ウインクしながら提案してみるが、それを笑ってスノウは辞退する。


「私はルーシー! こっちはミケランジェロよ! さっきのお姉さん、とってもカッコ良かったよ!」

「にゃあ!」


ルーシーもミケランジェロを抱えながら、ラーレの勇ましさを称賛した。ミケランジェロも同意見のようだ。


「ありがと、小さなレディーに可愛い猫さん。

 ……にしても、サロード、あんたこんな可愛い子ら連れて歩いているだなんて、また何か企んでるんじゃないでしょうね?」


ラーレはサロードにじとりと疑いの目を向けた。するとサロードは笑って答えた。


「あはは、相変わらず手厳しいなぁ、ラーレちゃんは。ま、そんな所が好きなんだけどね♪

 彼女らは、世界のあちこちを旅して歩き、見聞を広めようとしている偉い子たちだよ。

 俺はそんな彼女たちに手を差し伸べ、旅の支えとしてほんの少し力を貸しているだけさ。」


「そりゃまた、あんたらしい理由ねぇ。可愛い子ちゃんたちを助けるとかなんとか言って、ナンパでもしてたんじゃないの……?

 このお兄さんの言う事を素直に聞いちゃダメよ、あんたたち?」

「あはは……」

「大丈夫よお姉さん、見てて分かるわ」


ラーレはそう言い、スノウとルーシーに忠告した。それにスノウは苦笑し、ルーシーはちゃっかり頷いていた。





「それにしても、あんた、サラーブの外に出ていってたんじゃないのかい?

 よくこんな物騒なサラーブに出戻ってきたものね。治安の悪さは見ての通りなのに。」


街頭で帝国兵に絡まれてしまう程の治安の悪さを挙げ、ラーレはサロードに出戻ってきた理由を尋ねる。


「そりゃ、ラーレちゃんをこんな危ない国に1人っきりにしておける訳ないじゃな〜い。

 白馬の王子様が助けにやってきたんだよ♪」


「何が白馬の王子様よ…… 白馬の王子様どころか、馬車で護送される前科者の間違いじゃないの……」


手厳しくサロードの冗談を足蹴にするラーレ。そんな彼女を、スノウが宥める。


「まぁまぁ……でも、彼が居たおかげで、私たちは助かったんだ。

 旅の船の手配から、危ない目に逢いそうになった時も、彼が機転を利かせて事なきを得た事も多かったよ。

 今は帝国が監視しているこのサラーブに入り込めたのも、彼のお陰なんだ。」


「さっすがスノウちゃん、俺の活躍をちゃんと見ててくれているねぇ♪」


スノウの助け舟……と呼べるかわからないフォローを、サロードは嬉しがった。




「ラーレちゃんも、よく逃げ出さずにこの街の中で興行を続けているねぇ」


「逃げたいのは逃げたいんだけれど、王都にある城壁の至る所をカーディレット軍の兵士が監視しているの。

 王都から外に出ようとするものは脱走の疑いをかけられ、厳しく処罰されるのよ。

 手に入れた領地から奴隷を逃がしたくないのよね、きっと。

 それに、今はまだ陥落した王宮から逃げ延びた、第一王女のタマラ様、そして異母兄のフェルハト様も見つかっていないからね。」


「入るのも難しく、出るのも大変って訳かぁ。苦労してるね」


すると、ラーレの話を聞いていた3人の腹が、ぐ〜…と間の抜けた音を鳴らす。

そういえば、1日中歩き通しで、食事すら取っていなかった事を3人は思い出す。


「あはは! そういや、もう夕暮れ時だね。じき気温も下がってくるし。

 あんたたちその様子じゃ、今日泊まる所決まってないんでしょ?

 助けて貰ったお礼も兼ねて、今日はあたしたちの宿においでなさいな」


ラーレは笑って、3人と1匹を自分たちの宿舎に招いた。


「本当かい? 助かるよ!」

「そこの猫ちゃんも一緒にどうぞ」

「わーい! よかった、泊まる所が見つかって!」



とりあえず、気温差の激しいサラーブの夜を切り抜ける居場所を、3人と1匹は確保するのに成功したのだった。




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久しぶりにこっちを書き進めてみました!

ラーレちゃんの登場シーンは気合を入れて書こうって決めておりました(笑)
こう、綺麗な衣装やアクセサリーがしゃらしゃらしゃら〜ん♪って、神々しい感じにさせたかったんだ!

で、彼女を助ける作戦……は、なんだかこんな感じに。
ここでもサロード兄さんの機転の良さが、思う存分発揮されます(笑)

何を隠そう、ラーレちゃんとサロード兄さんの掛け合いが一番楽しかったんだが……こんな感じでいいかすら?