フロレアール王国に豊穣をもたらす、プランタン教会の司祭。

植物を芽吹かせる能力に長けている彼らは、修道士たちの中から選ばれ

プランタン教会の教えを国民に布教するための宣伝塔として働いていた。


ある者は、国に緑の恵みを与える仕事に就き

ある者は、国を衰退に導くとされる異端属性を狩る仕事に就き

ある者は、教会の素晴らしさを国民に知らしめる役目に就く。


それぞれの特技を生かした仕事に、各々が就き、己の役目を果たしていたのであった。



司祭の1人であるソーヴィは、先代の司祭である叔母のレザンの代わりに

ファレノプシスから指名を受け、司祭の任に就いたばかりであった。

代々葡萄畑を営む彼らの一族は、昔から実りをもたらす能力に秀でており

その能力を教会が一目置いての指名であった。


しかし、レザンに比べてまだ年の若いソーヴィは、経験も少なく、己の力量を不安がっていたのだった。

キエロやコスモのように華があり、ポインセットのようにパフォーマンスに優れている訳でもなく、

かといってユーストマのように弁論が立つ訳でもない。


己の立ち位置に引け目を感じ、表での宣伝活動にはあまり参加せず、ひたすら国境付近の辺境の畑で

植物の稔りを手助けする活動に勤しんでいた。



この日も、ソーヴィは葡萄畑で、実りを迎えるまでの土づくりをするために、肥料を混ぜた土を耕していたのだった。



「ソーヴィ様、お手が汚れます。このような畑仕事は農家の者に任せて、どうぞお力を使う方に専念してください……」


修道士のひとりが、青天の中汗水垂らしてシャベルで土を耕すソーヴィに声をかける。

タオルで額の汗を拭いながら、ソーヴィは修道士に答えた。


「大丈夫、どうぞ、気にしないでください。僕は、好きで畑を耕していますので。

 昔から叔母に言われていたんです。『恵みを得るならば、自らシャベルをとって行動しろ』と。

 撒かなければ種は芽吹かない、水を与えて耕さなければ、芽は育たない、って。」


そう笑って答えるソーヴィに、修道士は躊躇いながらもその場を離れていく。

少し離れた所から、修道士は他の修道士と声を落として、ソーヴィの様子についてひそひそと話し合う。


「変わった方だよ……今やこのフロレアールは稔りに満ちている。

 自らわざわざ耕しなんてしなくても、勝手に花は咲き実は結ぶのに。」

「噂になってるよ……ソーヴィ様は、レザン様ほどの力はないって。だから、あぁやって少しでも実らせたいんだろ」

「レザン様も少し変わってたけどね。だから、ファレノプシス様と気が合わなくって教会を抜けた、って噂で持ち切りだよ。」


彼らの声が聞こえるのか聞こえないのか、ソーヴィはもくもくとシャベルを使って、土を耕し続けていた。






ひたすら土を耕し続けるソーヴィに、向日葵色の青年が声をかける。


「お疲れさま、ソーヴィ。一休みしない?」


ソーヴィが顔を上げると、同じ司祭の1人であるヒュウガが、冷たい水を片手に朗らかに声をかけてきた。

辺境の地で植物の稔りを手助けする活動に、彼も積極的に参加していたのだった。

司祭であり同じ年でもある彼は、気兼ねなく話せる、貴重な友人の1人だった。


「ありがとう、ヒュウガ……」


葡萄畑の隅にある丸太に腰を掛け、ヒュウガが持ってきてくれた冷たい井戸水の入った水筒をぐいっと飲み干す。

雲一つない蒼天はじりじりと暑く、耕し続けるにはきつい天気だ。冷たい水が有難かった。



「ソーヴィは、ほんとうに一生懸命だねえ」


ヒュウガは隣に腰かけ、気さくに話しかける。

その声は、笑顔は、全く悪意がなく、無邪気そのものだ。

しかし、その問いかけにソーヴィは表情を暗くする。


「……僕はまだ司祭になったばかりだし、そんなに能力があるわけでもないから……」


自信なくそう答えるソーヴィ。





フロレアールに豊穣をもたらすために、レザンは司祭として大きな役割を果たし

勇ましい人柄、行動力もあって、周囲から大きな尊敬を得ていた。


しかしファレノプシスと気があわずレザンは追い出され、言う事のききやすい若い甥っ子を司祭の地位につけた。

修道士の間での噂は、ソーヴィ自身も幾度か耳にしていた。


考えないようにしてはいたが、尊敬していた叔母を引き合いに出されると、

ソーヴィはますます自分の存在の無力さを感じずにはいられなかった。


それに、ただおとなしく言う事を聞くだけの傀儡とも思われるのも、ソーヴィはたまらなく嫌だった。



「僕は僕なりに、なんとか出来る事から始めようって思っているだけなんだ。」


小さくぽつりと呟くソーヴィに、隣に座っていたヒュウガはにこやかに頷く。



「うん。ソーヴィはいつも自分が出来る事から頑張っている。僕は、ソーヴィのそんな所がすごいと思うよ。

 こつこつ真面目にやるって、案外難しいことだからさ。」


ヒュウガの言葉は本当に素直で、その素直さがソーヴィの心を明るくした。


「ありがとう……」


「僕も、ただ向日葵を咲かせるだけしか出来ないからさ。君を見習って、僕も頑張るよ」


そういって、ヒュウガはにこっと笑う。





そんなヒュウガに、ソーヴィは心の中に燻っていた気持ちを尋ねてみる。


「ねぇ、ヒュウガ…… 僕らは司祭として任命されたけど、花を芽吹かせ稔りをもたらす僕らの能力は

 教会にいいように使われているのかな……」


すると、ヒュウガは少し落ち着いた口調で答える。


「ソーヴィ、僕らは、僕らの出来る事をする。今はそれでいいんだ」


「今は……?」


最後の気になる言葉を彼に尋ねようとする前に、ヒュウガは立ち上がる。


「さ、もう少し土を耕そう。僕も手伝うよ。今年も、葡萄をたくさん実らせてもらえるように、いい土にしなくちゃ。」

「うん……」


いつもの朗らかな声でそう促すヒュウガに、ソーヴィもつられて答え、2人は作業に戻っていった。





土をもくもくと耕す合間に、ヒュウガは誰にも聞こえないような声で、そっとソーヴィに呟いた。


「……司祭になった以上、発言には気を付けて。どこで監視が光ってるか、分からないんだ。

 君は、レザンおばさんの、そしてマグノリア様の意志を受け継いでいるんでしょ?」



はっとしてソーヴィが顔を上げると、ヒュウガは何気ない顔で笑う。


「いい土だねぇ。これはきっと豊作になるよ」


周囲に、幾人かの修道士が作業している事を、ヒュウガは知っていたのだ。





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