コリンドーネ共和国の山々にはいくつもの鉱脈があり、地脈の流れなどが関係して

この国で採れる鉱物には様々な不思議な力が宿り、それらの特殊な鉱物がこの国の技術の発展に大きく関わっていた。


その中でも、最近技術者たちから注目されているのが、エネルギーを溜め込む性質を持つ『エナジウム』という鉱物だった。




「おーいリックス、大きな結晶が採れたよ!」


岩だらけのごつごつした坑道の中から、ジュンコの明るい声が響いてきた。

声につられて、発掘用のつなぎを着用していたリックスも、つるはしを片手に坑道の奥へと進む。


技術者の端くれでもあるリックスは、より良い材料を求めて、地質学者のジュンコと共に

あまり他の鉱夫たちが入らないような、足場の悪い坑道を調べていたのだった。



「見せて見せて……うわぁ、大きなエナジウム……!!」


ジュンコの元にリックスが駆け寄ると、彼女の手には牡丹の花ほどもある、大きなエナジウムの結晶が抱えられていた。

一定の周期で、まるで鼓動を打つように明滅を繰り返す、透き通ったエナジウムの結晶は、まさに大地の神秘だった。


「ここんところ全く誰も手を付けていない坑道だったおかげかね。

 こんな大きな結晶に巡り合えるなんて、運が良かったねぇアタシたち。」


手ぬぐいで汗をぬぐいながら、ジュンコは満面の笑みを浮かべる。


「早速アンタの魔法エネルギーを吸い込ませてみなよ」

「う、うん……!!」


ジュンコに促されると、リックスは掌をエナジウムにかざす。

精神を統一して、燃え盛る火をイメージすると、掌から鮮やかな紅い焔が現れる。

すると、エナジウムにその焔が吸い込まれていく。焔を全部吸収すると、そのエナジウムは紅く輝きだした。


「うっわ、この子、よく吸収するねえ!!」


ほのかに熱くなってきたエナジウムを抱えていられないのか、ジュンコはエナジウムを地面に置く。


「外に運んでから、魔法を吸収させてみればよかったわね……」


そう言ってリックスは苦笑した。


「でも、こいつがあれば、アンタの飛行機械だって、もっとクオリティがいいものになるんじゃないの?」


「きっとそうね。もしもの時にワタシが一度に使える魔法だって限りがあるし。

 エナジウムにある程度魔力を込めておけば、燃料もそれほど積まなくても済むわ。

 何より、これを使えば、エネルギーを作り出す上で、油による排気ガスがぐっと少なくて済むもの。

 エナジウムによるエネルギーをもっとコントロール出来るようになれば、環境にも優しいし、便利になるわ」


「こいつを活用する事を発見した、アンタの親父さんたちの世代に感謝だね」



リックスの父親である技術者のオーウェンは、数十年前に偶然この鉱物を活用して、とある機械を作った。


それが、エナジウムを組み込んだ、自律型の自動機械人形だった。


異なる2つのエナジウムを組み合わせ、片方には雷のエネルギーを、片方には精神エネルギー…

すなわち記憶と感情を焼き付けるように加工し、自分の意志で学び動く機械の人形を作り上げたのだった。



記憶を感情を焼き付ける技術は偶然にして生まれたものだったが、様々な種類のエネルギーを貯めておける性質は

コリンドーネでは重宝されるものだった。

この発明と同じ時期から、コリンドーネのあちこちで、エナジウムを用いた発明品が多くみられるようになり

生活はより豊かで便利になっていった。

小さいながらも大きなエネルギーを貯めておくことが出来て、いつでも好きな時にそれを取り出せるエナジウムは

例えばストーブなどの暖房器具や調理器具の熱源となったり、暗い夜道を照らす街灯にも用いられた。

冷蔵庫の冷却装置にも用いる事が可能で、アイスクリームがこの国で普及した大きなきっかけともいえる。

既存の技術と組み合わせて、様々な開発品が生まれていき、それまで蒸気と石油……今では植物油に変わったが、

コリンドーネの更なる技術躍進に貢献している。





だが便利な一方、エナジウムを用いた技術は、他国からも狙われる事に大きな拍車をかけた。

エナジウムはコリンドーネ共和国の決まった場所からしか産出されない。

カーディレット帝国から度々侵略を受けていたが、更にそれに拍車をかける事になってしまったのだ。




そして、カーディレット帝国の他にも、コリンドーネ共和国の豊かな大地と技術力を狙っていた存在がいた。







夕暮れになり、ジュンコとリックスが発掘作業を終えて自宅に戻ると、家の中からオーウェンが誰かと言い争う

怒鳴り声が聞こえてきたのだった。


「帰ってくれ!! こいつは、あんたらの商売に使われるための見世物じゃないんだ!」


「な、何かしら……?」


恐る恐る2人がそっと扉の向こうから居間を覗くと、テーブルに手をついて客人と向かい合うオーウェンが見える。

オーウェンの向かい側には、スーツに身を包んだ恰幅の良い紳士が、ステッキを持ち、怒鳴るオーウェンをものともせずに

にこやかに佇んでいた。


「まぁまぁ、話を聞いて頂けませんかね、オーウェン殿。

 経験を重ね、自分で考えて動く機械の人形。こんな便利なもの、世界中が欲しがるに決まってる!

 貴方には、その技術料として莫大な財産が転がり込むんですよ!」


「金なんていくら積まれても、あんたには譲る気持ちなんかこれっぽちもねぇぞ!!

 あんたの噂は聞いている。そいつを金儲けに利用しようってんだろう。

 だが、俺は分かっている。自分で考え、自由に動く人形ってのはな、世の中に出回れば、そりゃあいい事にも使えるかもしれないが

 それを争いごとに利用する事だって出来ちまうんだよ。言ってみれば、従順な奴隷を好き勝手に作れるって訳だ。」


「よく分かっていらっしゃる…… 技術には光と闇の側面が常について回るものです。それは万物の真理。

 ですが、デメリットばかり見て、チャンスを棒に振るというのは勿体ない事……

 私は諦めませんよ。世界を変えるものを目の前にして、引き下がったりできるものですか」


「おうおう。くそっくらえだ。何度来ても追い返してやるよ」


しかめっ面で腕組みをしたまま、まるで塩でも撒くような勢いで、オーウェンは客人を追っ払った。


「はいはい。ではまた、御機嫌よう……」


客人の紳士は、ステッキを構えて帽子をかぶり、玄関先から夕暮れの小道に出ていった。

追い立てられたというのに、黒い革靴で歩く足取りは、まるでスキップを踏むかのように陽気なものだった。



彼に見つからないように扉の陰に隠れていたジュンコとリックスは、客人が帰ってたのを見届けてから家の中に入っていった。


「ただいまー……」


「おう。お帰り、ジュンコにリックス。どうだ、良い石は採れたか?」

それまでの怒りようから一転、オーウェンはにこやかに2人を迎えた。


「あぁ、まぁねぇ。それよりおやっさん、さっきの人は一体何なのさ?」

彼の態度の変わりように戸惑いつつ、ジュンコがそっと先程の人物の事を尋ねる。


「奴の事か。あいつはガスパールって言って、リトスの商人なんだとさ。

 コリンドーネに貿易で訪れて、あちこちで物珍しいものを見つけては、外国に売りこむ商売をしているらしい。

 職人たちの噂を聞きつけて、俺のとこにもやってきたんだが、話を聞いているうちに胸糞が悪くなってきやがったんだ。」


「何がそんなに気に入らなかったの? ワタシたちの発明品を手に取ってくれるのは、職人としては有り難いことじゃない」


リックスが不思議そうに聞くと、オーウェンはしかめ面を浮かべてリックスに説教する。


「あいつは利益の事ばかりしか考えてねぇ。技術ってのはな、良い事にも悪い事にも転がっちまうんだ。

 そんな奴に、俺の、いや俺たちの血と汗の努力の結晶なんか、ビタ一文渡したくねぇよ。

 いいか、お前も自分の発明品を相手に見せたりする時は、相手の人間性をよく見ろよ。

 そして簡単に、自分の技術を相手になんか広げるんじゃねぇぞ! いいな!!」


「わ、分かったわ……」


オーウェンの意気込みに、リックスは圧倒されて思わず頷く。









オーウェンが作り出した機械人形は、キュイという名前を付けられた。

いくつもの複雑なパーツで精密に組み立てられた彼は、人と同じように話すことができ、手足を動かし、

物事を考え、新しい事を覚えて学習する事が出来る。それはまさに奇跡だった。



「僕に、教えてください。色んな事を、覚えたいんです。」


最初は何をするにも一から教えなければならなかったが、リックスと共に兄妹のように育った彼は

今では人間のような豊かな感情を持っていた。

妹であるリックスが成長するのを共に見守り、彼女が成長した今は、チャイルドシッターの役割を終え

自分の可能性を広げようと、色々な仕事をして働いていたのだった。




今は、金属で出来た機械の身体を活かして、発掘現場で細かな鉱物を削り出す仕事を行っていた。

特に彼は、自分のコアに共鳴するのか、エナジウムを発見する能力に長けていたのだった。


この日もキュイは発見しづらいエナジウムを次々と見つけは、掘削作業をしていた。



しかし、キュイは、自分に密かに近づく人物が居た事に全く気付けなかった。




「危ない!!」



他の作業員たちが声を上げた時には、既に遅かった。

大きな岩石が頭上から降ってきて、避けようとしたが避け切れず、上半身に直撃してしまう。


「地盤がしっかりしてるのに、何だって落石なんか?!」

「それより……キュイ!! 大丈夫か!!?」


作業員たちが駆けつけるが、キュイの身体は大きく歪み、コーティングされた人工皮膚の外側が破れ

部品がはみ出してしまっていたのだった。

落石の衝撃で、本来ならば眠らずに働ける程タフな意識も、ブラックアウトしてしまっていた。


「あぁ……大変だ……部品がめちゃくちゃだ……」

「オーウェンさんの所に持って帰って、修理して貰わないと……!」

「よし、走りの得意な俺が、こいつを抱えて連れていくよ!」

「おう、頼んだぞ!」


作業員の1人が、キュイを風呂敷に包んで、オーウェンの工房に向かって山道を走りだす。




山道の途中を走っていると、岩陰から見知らぬ影が現れる。


「なんだ……? うわぁぁぁっ!!!」


作業員の男性が声をかける暇ももなく、その影はステッキを開くとスタンガンを取り出し、男性に当てる。

麻痺電撃を喰らって作業員の男性は道に倒れてしまう。


すると、陰から現れた男は、作業員が背負っていた風呂敷包みにくるまれたキュイを見ると、にんまりと微笑んだ。



「手に入らないなら、強制的に奪うまで。 こいつを分解すれば、仕組みが分かる。

 職人からわざわざ聞かなくても、量産するヒントが得られるさ」





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ロボットという、ちょっと毛色の違う技術をお国に放り込んでみましたが、はてさて。

技術や産業の発展とは、争いの歴史と並行しているアイロニー。
戦争に乗じて儲けようとする輩も、決していなくはないんだろうなぁと。

珍しく声を荒げるオーウェンのおやっさんが書きたかったのだとか(笑)