コリンドーネ共和国には、友好国であるワダツミノ国からよく使者が来訪していた。

2国間は友好国として互いの交流を深めてきた歴史があり、今でも頻繁に情報をやり取りしている。

そんな中、ワダツミノ国の若い人材が勉学を兼ねて訪問する事も、この国ではよく見られる光景だった。



「ここが、コリンドーネ共和国の要となる、白銀の城<シルバーキャッスル>よ!」


リックスは、見学に来ていたワダツミの若い神官兵と巫女兵見習いの2人に説明する。

白銀に輝く、見た事もない素材で出来た堅固な城。コリンドーネ共和国の中枢、象徴とも言える場所だ。

要塞のように複雑で、外部からの敵に万全に備えたその城は、青空にいくつもの塔を伸ばし、堂々と聳え立っていた。


旭日の光を受けて荘厳に輝く城を見上げ、2人の若者は感嘆の声をあげる。


「すごく、きらきらしてる……これ、何で出来ているんだろう……」

「コリンドーネは鉱物がよく採掘される場所だからね。建材には恐らく何か特別なものを使っているんじゃないかな。」


白い着物に紅い短い袴を身に着けた、涼やかな目元をした少女…ナオコが尋ねると、浅葱色の袴の少年、リョウヤがそれに答えた。

少年の回答を聞くとリックスは感心し、彼らに解説する。


「ご名答! この城の外壁は、コリンドーネ特産のリフレクトメタルを用いているの。

 ワタシたちコリンドーネ軍が鎧や武器に標準装備している、防御性の高い、魔法を跳ね返す特性のある金属よ。

 物理攻撃や魔法だけでなく、光の反射率も高くてね。それで、遠くから眺めても、まるで光っているみたいに見えるのよ」


「まるで鏡みたい……綺麗……」


「初めて見たヒトは、大概そう褒めてくれるのよ。美しさと機能性を備えたこの城は、コリンドーネの誇りとも言えるわね。

 さ、先に進むわよ」


リックスが2人を案内すると、城の正門のすぐ隣の小さな入り口に、まだ若い子供たちが列をなして待機している様子が見えた。

その様子に、ナオコが首を傾げる。


「あの子たちは……?」


「あぁ、今日はちょうど軍の公募日だったわね。国中からやってきた、軍隊への入隊志望者たちよ」


リックスはそう説明した。

まだあどけなさの残る、10代前半頃とみられる子供たちが、きらきらした眼差しで城を見上げ、開門を待っている。


「ワダツミも、見習い奉公制度があったわね。あれと同じようなものよ。

 若い子の志願者たちを、軍に受け入れる前の面接みたいなものね。」


「志願者は、見ると僕らワダツミの見習い奉公と同じぐらいの年齢の子供たちばかりですね。

 コリンドーネの銃兵隊は、銃の腕前、メンテナンスなど、高い技術力を誇ると聞きます。

 選抜試験は、さぞかし難しいんじゃないですか?」


コリンドーネ軍の銃の技術に興味を持つリョウヤの質問に、リックスはあっけらかんとして答えた。


「いいえ。試験はないわよ? 時々町の技術者を、軍が目星をつけて町工場からスカウトする事はあるけれど、

 基本的にうちは志願者は全員受け入れるのよ。」


「えっ、試験ないんですか?!」


驚く2人に、リックスは更に説明を続ける。


「そうよ。うちは武具の扱いに特化した騎兵隊と、銃など火器類に特化した銃兵隊があるんだけれど、

 どちらを選ぶかは本人たちの自由。それで、一度入隊して訓練してみて、自分自身でどっちが向いているかを確かめ、

 途中で部隊を動く事も自由なのよ。」


「子供たちの能力を見て、振り分けたりしないんですね……」


ナオコの呟きを聞くとリックスは笑う。


「あはは、来たばかりの子供たちの能力なんて、そんな大して差なんかないわよ〜。

 それよりも、もしも自分が希望しない所に振り分けられたら、嫌じゃない?

 自分が選んだ所だったら、もしもうまくいかなくても、それは自分の責任。

 向上できるように努力するのか、それとも違う道を探すのか、受け止められるって、ワタシは思うの。

 人から指図されてやるような事なんか、長続きしないわ。何事も、自分のハートで決めなきゃ。」


そう語るリックスの眼差しは、自立心と、自分を信じる心の強さを表すような、蒼天のような晴れ渡った色をしていた。


コリンドーネは自立心を尊ぶ国。その気風は、こんなところにも表れていたのだ。




「でもそれじゃ、時と場合によって、騎兵隊と銃兵隊に偏りが出たりしませんか?」


リョウヤのごく自然な疑問に、少し考えながらリックスはぼんやりと答えを探した。


「そうねぇ……そうなってもおかしくないんだけれど、何故かいつも割とバランスいいのよね。

 うちってほら、ドワーフもいるじゃない。そういうコたちは割と騎兵隊に志願して、

 小さい頃から工場で機械弄って遊んでた子が多い人間たちは、割と銃兵隊にいく事が多いのね。

 そのおかげなのかしら。多少バランスが崩れても、お互いが補い合って、まぁなんとかなるのよ。

 それに、得意な方を伸ばした方が、結果的に本人にとっても軍にとっても、いい効果を生み出すのよね。」



「ふーん……得意な事を生かす……かぁ……」


下を向いて歩くナオコ。その表情は何かを考えているかのようだった。



「アナタたちの国、ワダツミもそうじゃないの? 見習い奉公が終わった後、大社殿に上がる時には、部署や役職の希望を出せると聞いたけれど?」


「大体は、それぞれ見習い中に各々の得意分野を見つけ、それを活かせる部署に希望します。

 ですが、巫女・神官だけは別格なのですよ。巫女や神官になるには、いくつもの修了試験を受けなければいけないんです。

 特に巫女は、精霊の導きを受け、国の舵を担うことにもなる。簡単になれる職種ではないんです」


首を傾げるリックスに、リョウヤが丁寧に説明した。


「そっかぁ……素質と修練が必要なわけね。

 精霊ってのはその姿を見れる訳でもないし、魔法はいくつか訓練で能力は強まるけど、持って生まれた素質に左右されるしねぇ……」


「そういえばコリンドーネ軍は、あまり魔法を使いませんね?」


「まぁ、魔法ってのはそう、素質を持って生まれたヒトにしか備わらない能力だから、

 戦力としては不確定だっていうのを、以前軍の上層部の方から聞いたことがあったわ。

 それならば、万人でも使えて、国を自分たちで護れる力を……って、銃を開発し、国の防衛に導入したらしいわ。

 ま、銃も、扱い方や仕組みなど、知識を身につけないと扱えないものだけどもね」


「でも、裏を返せば、勉強し、努力次第で成果はついてくる。そういう可能性のある仕組みは、正直ちょっと羨ましいですね……」


「リョウヤ……」


白銀に輝く通路を渡りながら、リョウヤは小さなため息をついた。それを、ナオコは心配そうに見守る。




そんな2人にくるっと振り返って、リックスは笑顔を浮かべる。

後ろには、空にひときわ高く聳え立つ塔が見えた。陽光を浴びて煌めいていたのが、とても眩しかった。



「でも、ワタシは、ワダツミの考え方は好きよ。

 この世界は精霊の恵みを受けて出来ている……

 その精霊の意志を少しでも聴き取れるよう、精霊の導きを受ける為に日々学び、自らの精神を鍛錬する。

 それはそれでとても素敵だし、崇高な役職だと思うの。

 寧ろ、そのヒトたちがいたからこそ、今の自然豊かなワダツミはあるんじゃないかしら。


 それに、国を護る為に、日々学んで技術力を身につけるワタシたちと、鍛錬し続ける巫女や神官さんたち。

 向いている方向は似ている……っていうのは、少しおこがましいかしらね?」



そう語り、悪戯っぽさそうな笑顔を浮かべる彼女に、若い2人は首をふるふると振った。


「いえ…… きっと、心持ちは同じだと思います」


「そ? ありがとう♪」
















「それにしても、志願者の子供たち、たくさんいますね……

 コリンドーネでは、軍に入隊したいと思う子供たちが多いんですか?」


開門時間になって、城内にぞろぞろと連れてこられる、入隊志願者の子供たちを見ながら、控えめにナオコが尋ねる。


「んー、そうねぇ。 うちはほら、隣にあっぶない国が今も領土を狙っているじゃない。

 だから、自分たちの国は自分たちで護ろうって気質が強いから、志望する子供たちは多いわね。」


「制服もパリっとしていて、カッコいいですよね。きっと、子供たちの憧れなんでしょうね」


さりげなくリョウヤが褒めると、リックスはくすくす笑って礼を言う。


「ふふふ、ありがと。

 でもね、うちの国では子供たちの一番なりたい職業って、何だと思う? ……案外、機械技師が多いのよね。」


「へぇぇ……流石、機械技術の発展している国だけありますね。」


「職人技術は身につけるまで、数十年単位の修行が必要でね。軍の訓練よりある意味過酷かも知れないわね。

 そして日々新しいものを絶えることなく創造していく。あくなき向上心と探求心が、いいものを生み出していくのよ。


 ……そんな職人たちにはね、ごく稀に、作ったものに魂を宿らせる事も出来るヒトもいるの。

 彼らが手掛けたモノは使い手にとてもなじむし、中には作ったものに不思議な力が宿る事もあるのよ。

 そんな域に達した職人の事を、コリンドーネ人は“マイスター”と呼んで尊敬しているわ。」


「リックスさんも技師ですよね。…… いつか、なれるといいですね。」


「そうね。先は遠いけど、一歩ずつ、進んでいくわ。 アナタたちの修行と一緒ね。お互い、頑張りましょう」


「はい!」



リョウヤとナオコとリックスは、煌めく城の窓から青空の向こう側を遠く見渡した。

白い鳩が数羽、窓から飛び立っていく。

自身が目指すべき高みを、遥か彼方へ見据えるように。



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ちょっと間を置いて、コリンドーネに留学に行ったお2方と、メガネ娘とのやり取りを書いてみました!

この国の事を、少しでもイメージ出来たらなぁと思い。
外国の大学みたいに、入学は誰でも出来て、卒業するまでが大変っていう、あのイメージです。
こういう考え方は、きっとソルシエールとは真逆なんだろうなぁと。ちょっと対比させてみました。

涼夜君の考えはまだはっきりとは分からないんだけれども、そういう自由な気質に共感してくれるかなあ…
そう思って台詞を少し考えてみました。が、いかがでせうか…?

あとは、ちょっと固有ジョブなんか作ってみたりして(笑) 称号ってかっこいいよね!