カーディレット帝国軍・機械部隊。

鉄の国と揶揄される程、豊富な鉄資源に恵まれたカーディレット帝国は

その技術力を活かして軍に機械を導入し、侵攻をより広範囲に拡大していた。


機械は取り扱いが難しく、技術研究部など技術職から駆り出されて配属される者も多い。


人工精霊使いたちが台頭し、威力の高い魔法が主戦力となる中、火器や機械によるトラップを用いる機械部隊は

雑用に近い、日の目をあまり見ない部隊のひとつであり、帝国軍内からは少し敬遠されていたのだった。



現在、カーディレット帝国の侵攻対象は多岐に及んでいるが、そのうちの一つがテワラン天帝国である。

その広大な領土を目の前に、帝国軍は機械部隊と騎竜部隊を共に派遣した。

山岳地帯への侵攻はまだ手を焼いている最中だが、深い森林を焼き払い、伐採して侵攻するのに

機械部隊はうってつけだった。


最新鋭の火炎放射器と、電動式のカッターやチェーンソーで森を切り開き、まばらになった森の上空から

騎竜部隊がワイバーンで空から侵攻を仕掛ける。


体術が基本のテワランにとって、これらは対抗の手段が乏しく、苦戦を強いられていた。



そんな中、機械部隊の部隊長が、テワランに討ち取られたという報告が、帝国軍・総司令部に入る。




「……テワランに進軍していた、機械部隊の将軍が討たれた……ですか?

 彼はそう簡単にやられる筈がありませんが……」


通信兵から報告を受け、総司令官のフォルクマールは表情を曇らせる。

横暴で手柄の為には部下をも無理をさせ、手段を択ばないというその人物像を知っていただけに、

腑に落ちず、書類にペンを走らせていた手を止め、彼は考え込んだ。


「テワランは主な攻撃手段が体を用いた武術。それに対抗するために、生身では難しい機械部隊を送り込みましたが」


「報告によりますと、部下に指示を出している間に、魔法で妨害され、狙撃されたようです。

 手柄を取ろうと部下を大勢引き連れ、機械に慣れない者もいたようで、まごついていたようです」


「なんと……それは想像以上の失態ですね」


通信兵の報告に、フォルクマールは溜息をつく。


「あいつらしい最期だな。十分な準備をしないまま、手柄を先んじた結果……愚かな奴だ」


傍に居た将軍の1人、リリアンも、同情の余地もなく冷たく言い放つ。



「それにしても、魔法はともかく、銃……ですか。 しかも、気付かれずに狙撃する程の腕前と……

 あの国には、火器類を扱う者はそう存在する筈ありませんが……

 その戦略性の高さも含め、どんな人物なのか、調査してみる価値はありそうですね。」


「我が軍も各地に戦線を展開している。ゆとりは無いぞ。誰を送り込む心算だ?」


リリアンの言う通り、カーディレット帝国軍は今、サラーブ王国を陥落し占領下で統治しているだけでなく

更にその強大な軍事力でテワラン天帝国やコリンドーネ共和国に部隊を送り込んでいた。

国力の疲弊を補うかのように、各地に向けて大規模な戦闘作戦を仕掛けている。

そんなカーディレット帝国軍に、戦線に新しい将官を送る余裕は無いのが現状だ。


しかし、リリアンの質問に、フォルクマールは不安な要素を浮かべる様子はない。何か考えがあるようだった。


「大事な戦力は極力消費を控えたいですね。手の内も明かしたくないですし。

 丁度良い仕事です。前哨を彼らに頼みましょうか」


そう言うと、フォルクマールは三日月のような笑みを浮かべ、とある提案をしたのだった。





「ところで、機械部隊の後任はどうされますか? 将軍クラスは皆、他の侵攻地への対応で手一杯ですが……」


総司令部に所属する官僚の1人が言葉を濁す。


「今回の事は想定外だが、テワラン天帝国はほぼ素手で殴り合うような愚か者の集合だ。

 そんな国、技術力の優れた我が国が本気を出せば、軽いものよ……」

「そんな国から、今回痛いしっぺ返しを受けたんですよ。」

「だが、他の作戦を遂行している将軍たちもまた、重要な任務に就いている。

 彼らをこちらに寄越すのは戦略上のバランスを崩しかねない」


機械部隊は、他の部隊に比べて地位は低いとされ、そんな部隊に有能な指揮官を送るのはもったいないとばかりに

他の官僚の将軍たちはあれこれ議論するが、結論はなかなかまとまらなかった。


「騎竜部隊とその将軍が健在ですので、作戦進行で補助して頂くよう通達します。

 それに、機械部隊にはまだ副官の軍佐が居た筈です。彼に、臨時の指揮をお願いしましょう。

 戦線の成果次第では将軍への昇格も検討します。それと、補佐に誰かつけたいですね」


フォルクマールの呼びかけに、官僚たちは皆頭を捻る。


「機械部隊か……機械について造詣が深く、火器に秀でている人物が望ましいが……

 俄か技術のあのゴロツキ部隊をまとめ上げるのは、そうそう困難だぞ……」


「過酷な戦地へ向かうには、兵士たちの士気を上げるようなカリスマ性が、指揮官には欲しいですね……」


「若手の士官候補生たちも、そろそろ戦地へ慣れて貰いたいですし」



官僚たちがそれぞれ望ましい条件を挙げるうち、フォルクマールの頭に、とある1人の人物が思い浮かんだ。

彼は、思わずこみあげてくる笑いを抑えながら、官僚たちに言う。


「……居るじゃありませんか。その全てを兼ね備える人物が。」




くすくすと笑うフォルクマールに、数秒間の間をおいて、官僚たちの顔色が変わる。


「……はっッ!!?」


「いやいやいやいや、ダメダメダメダメ!!」

「若すぎます! なにより、無鉄砲で危険すぎます!!」


全員が顔を蒼白にして、手を振って否定する。

しかし、これ以上はない面白いアイデアとばかりに、満足そうな笑みを浮かべてフォルクマールは提案した。


「ユリコ特務に、機械部隊への配属を命じましょう」







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テワラン天帝国に侵攻中のカーディレット帝国軍・機械部隊。

将軍を討たれたという割には、部下たちは慌てたり混乱する様子も無く、比較的落ち着いている。


いや寧ろ、将軍が健在だった頃よりも、部隊は統制が取れていたのだった。


「……火炎放射器はそうだな、持ち運び出来るように小型化するといい。

 そのデカい金属アームは密林での作戦時に木々につっかえて邪魔だろう。取り外したまえ。

 代わりに機動力が利くように、小型の回転カッターをつけるんだ。」


「これはどうでしょうか!」


「あぁ、それなら動作は良さそうだね。

 組み換え作業はベテランの君たちならば、スムーズに出来るだろう。君たちの技術力が頼りさ。頼んだよ。」


隊長としては物腰柔らかに、設計図を見ながらのんびりと部下たちに指示を出しているのは、

淡い金髪に、きらりと眼鏡を光らせる青年だった。

彼こそが機械部隊の副官として指揮をとる、ローレンツ軍佐だった。



部隊の将軍が討たれ、代わりに指揮をとるようになってから、部隊の装備や戦略の見直しを進めてきた。

前任に将軍は力任せな戦略、大規模な機械を使った派手な作戦が多かったが、

後任のローレンツは機械のコストを大幅に削減し、一見地味で力の弱そうなスタイルに変えていったのだった。


しかしこれが、かえって密林や険しい山々が多いテワランでの作戦展開に、有利に進んでいったのだった。



火炎放射器を用いた戦闘は、圧倒的な火力で敵を退かせることが出来るが、その一方燃料を非常に大量に用いる。

使用する燃料も調達するのが困難で、運搬にも大きな力を必要としていた。

つまり、1回1回の作戦に、膨大なコストをかけていたのだった。


更に、大規模な機械を戦闘に用いると、それだけ故障も増加する。

使用不可となった機械は修理も出来ない程破損する場合が多く、その場で破棄しなければならず

莫大なコストをかけて精密に作られた機械が、たった1回でオジャンになってしまう事も多かったのだった。




「装備や機械の軽量化・簡略化を図ったことで、持続的で長期的な作戦行動が可能になりました。

 その結果、内陸部や山岳地帯まで容易に侵攻する事が可能となります。お手柄ですよ、軍佐殿。」


ローレンツに付き従っているのは、顎の周りに黒いひげを生やした壮年の兵士だった。

機械部隊で長年勤め続ける、ハイデマン軍曹だ。


「いや、君たちの技術力のお陰さ。俺がしたことなんか、ほんの少しの手助け程度だよ」


ハイデマンの誉め言葉に少し笑いながら、ローレンツは兵士たちの作業の様子を見守り、以前の機械部隊を思い出していた。


「ギュンター将軍は何事も派手なのがお好きだったからね。

 しかし山岳や森林が多いテワランでは、まず運搬や展開が大変そうだなぁって、前から思っていたんだ。

 それに、機械はデカい割に、細やかなメンテナンスが必要じゃないか。作戦の度に立ち止まり、進軍が遅れるのは勿体ないなぁってね」


「えぇ、仰る通りです」


作業を見守りながら、2人は互いの意見を話し合う。


「で、使い終わった機械は廃棄してしまう事もあった。どれだけ資源の無駄遣いか、考えて見て御覧よ。

 おまけに、廃棄した機械には燃料として重油が積んである。あれは大地を汚してしまうからいけない。

 テワランを侵攻した一番の理由が、豊かな大地を手に入れる事なのに、折角手に入れても自分たちの手で汚してしまうなんて

 こりゃ全くもって、無駄じゃないか。なぁ?


 それに、技術だって簡単に身につくようなものじゃない。ベテランを育てるのに何年かかると思うかい?

 君たち兵士一人一人だって、決して無駄には出来ないんだ。」


そう話すローレンツに、他の兵士たちも頷く。


「機械部隊は武器も兵士も使い捨てだなんて、そんな風に思われたら、たまったもんじゃあありませんよ!」

「全くだ。お上はいいよな、簡単に命令するだけでよ。これを実際に運んでみろよ。きっと丘一つ越えられねぇさ」


「……しかし、ローレンツ軍佐は前々から機械部隊の補佐として、ギュンター将軍に比較的長く付き従っていたのでしたな。

 これらの事を、進言しようとは思われなかったのですか? その方が、結果として早く手柄になったのでは?」


ハイデマンがぽつりと溢した質問に、ローレンツは振り返り、少し考えてからこう答えた。


「んー……。面倒だった。うん。」


「なッっ! なんですとぉぉぉ?!」

「面倒……でしたか……」


予期せぬローレンツの答えに、ハイデマンはじめ兵士たちは愕然とする。

そんな兵士たちの表情の変化を楽しそうに見ながら、ローレンツは笑って己の見解を述べる。


「君、彼の性格を見て、そう簡単にこちらの意見が通ると思うかい?

 独断で作戦を決行するようなお人だよ? 意見しようものならば、彼の気に障って首を刎ねられるだろうさ。

 それに、仮に進言したことが通ったとしても、皆自分の手柄にするだろう。そういう人に、自分のアイデアなんか差し出すかい?」


そう言って愉快そうに笑うローレンツだが、その眼差しは決して笑ってはいなかった。

彼の答えに、兵士たちは皆思わず言葉を飲み込んでしまう。


「面倒だろう? だけど運のいい事に、彼は自分の部隊の兵士たちや、機械の事を十分に把握していなかったおかげで、

 ヘマを踏み、自ら失脚してくれたわけだ。

 君たちもよく覚えておくといい。どんな身の振り方が、己を助けるかをね。


 ……俺は、この立場に任命された以上は、自分の役目を果たし、隊の長として君たちを護ろうと思う。

 その為には、どんな努力も惜しまないよ。勿論、分からないことだって多い。だから、遠慮せず、どんどん意見して欲しい。」


「承知しました!」


新しい指揮官の元、兵士たちは自分たちを導いてくれるという期待を抱き、一同揃って敬礼するのだった。






「しかし、将官がローレンツ軍佐殿だけでは、いささか作戦遂行に支障があるのでは……?」


やや遠慮がちにハイデマンが進言すると、少し困ったようにローレンツは頭を捻る。


「部隊の事は、君が大分把握してくれているおかげで助かっているよ。流石長年勤めているだけあるね。

 だけど、正直そうだな……もう1人ぐらい、作戦を理解してくれるようなパートナーがいると助かるんだけどね」


そこに丁度タイミングよく、本国からの通達を携えた通信兵が到着する。


「本国より打診! 機械部隊に、副官として1名配属されるとの事!」


「おぉ、助かりましたな。これで少しは部隊を統括するのに困らないでしょう」


報告を聞き、ハイデマンはほっと胸を撫でおろす。

流石に将軍を討たれた後、将官が1名で大規模な作戦を実行するのには、不安があったようだ。


「で、誰がやってくるのかな?」


ローレンツが尋ねると、書面に目を凝らしながら、通信兵はたどたどしく電信文を読み上げる。


「えぇと……報告によりますと、ユリコ特務、と仰るそうです。

 実戦経験はまだありませんが、士官学校の実務訓練を首席で卒業した経歴をお持ち……とのことです」


通信兵の報告を他の兵士たちも聴き、兵士たちは俄かに活気づく。


「名前からして、オンナノコっぽいじゃーん! 士官学校卒業したてってことは若いんだろ? 楽しみー♪」

「どんな方なんだろうな! 女性の将官はあんまり居なかったからなぁ。」

「あぁ……ヒールの踵で踏んづけられたい……」

「ばーか、お前なんか視界にも入んねぇよ」


夢想を繰り広げ、わくわくと期待する兵士たちはとても楽しそうであった。

無理もない、遠征では殆ど外部との接触を禁じられているうえ、機械部隊に所属しているのはほぼ男性だったのだ。



彼らはまだ知る由もない。

電信文に記載されたユリコ特務が、どういう人物像で、どういった意図で機械部隊へ配属されたのかを……





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