カーディレット軍との戦線から一度撤退するリーディエ、エリナたちは、森をひたすらひた走った。

近くにいると思われるユニットに連絡を取り、連携を取る為だ。


自分たちのユニットは、機械部隊の装甲・武器に対して有効な攻撃・防衛手段を持たなかったが

その弱点を補える仲間も、他のユニットにはいるかも知れない。


一部隊を率いるリーディエが、敵とぶつかる可能性のある最前線にまず配置されたのは

敵と遭遇した際に己の実力以上の無茶な戦闘を行わず、冷静に相手の装備・能力を見極め、今の状況を分析し、

仲間たちと相談して、必要に応じて周囲に連絡し協力を求めるという、的確な判断力を兼ね備えているからでもあった。




「皆、なるべく散開して、近くにいるユニットと可能な限り連絡をとりなさい!

 彼らの特徴を伝え、皆で協力して対抗するのよ!」


「了解! 帝国軍もこのまま侵攻を進めてきそうですが、次はどこで落ち合いますか?」


「目印になりそうな分かりやすい場所は、あまりないわね……」


リーディエは付近の地形を記した地図を広げ、迎え撃つのに適当な場所を探す。

この一帯は広大な密林に覆われ、目印になりそうな山や河が近くにあまり存在しなかった。

故に、密林の各所にユニットが一定の間隔で配置され、どこからでも帝国軍の侵攻に対応できるようにしていたのだ。

ただし、一度散開した彼らをどこか一ヵ所に集めるには、狼煙を使ったり、目印となるような地形の場所を指定しなければならない。

地図をじっと見て、リーディエは1つの場所を見て呟く。


「ここしかないかしら……」


密林にぽっかりと開けた空間。落雷による火災で森に自然に出来た草原だった。

それは、帝国軍の機械部隊が狙いを定めていた場所でもあった。







リーディエたちがカーディレット軍と対峙しているその頃、他の場所に潜伏しているいくつかのユニットも

最初の銃撃音から、最前線のユニットが敵軍と交戦状態に入った事をすばやく察知していた。



「どうやら、敵の一団とかち合ったようじゃな」


「発砲音からすると、あの方角ではリーディエ隊長たちのユニットが待機している場所だと思われます」


森の奥深くで待機していたのは、テワランの武官たちを率いる部隊長のうちの1人、タンが纏めるユニットだった。

夕暮れ時の薄暗い空の下、森の向こうの戦況に目を凝らして、メンバーの1人であるヤーファンが状況を推測して報告する。


「前回と違い、ワイバーンが飛行しているような形跡も、魔法攻撃による爆風も、ましてや火炎放射器で森を焼く様子も確認できません。

 今までの彼らの戦い方とは異なった様子。 老師、これは一体どういう事でしょうか……?」


前回の戦況との違いに困惑しながら、ヤーファンは部隊長のタンに指示を仰ぐ。


「ううむ。戦況の静けさが、逆に不気味じゃのう……」


「関係ない。奴らがやってきたらたたっ斬るまでだ」

「あぁ。敵の脳天を撃ち抜けばそれで十分だ」


横で物騒な事をさらりと口にするのは、テワラン武官のリェファンとコリンドーネ銃兵隊員のルヴェインだ。

それぞれ、良く切れそうな銀色に光る剣と、シャドーライフルをもくもくと丁寧に磨いていた。


「あのなぁ、そんな簡単なものじゃないんだぞ…… 狙撃や斬撃に対して耐性が高い装甲だったりしたらどうするんだお前らは」

物々しい発言をする2人に冷静に突っ込むのは、ユニットの防衛役でもある騎兵隊員のセオドールだ。


「心配するなお前ら! あんな帝国の奴らの紙装甲なんか、この俺が吹き飛ばしてやるさァ!!」

胸にどんと拳を当てて自慢のバズーカを背中に担ぎ、ユニットの1人のエッカーが自信満々に言う。


「ふはは、頼もしい奴らじゃの。敵を目前にし、恐れすら抱かないその勇気はあっぱれじゃ。その心意気じゃわい」

若い連中が口にする数々の不敵な発言を聞き、タンは愉快そうに、白髭を含んだ頬を思いきり横に広げて笑った。




そんな会話をしていると、前線の交戦音が一旦鳴りやみ、森は静寂に包まれた。



「む、一旦戦線が静まったようじゃな。お主ら、準備をせい。いずれここにも奴らは来る。迎撃態勢を取るぞ」



今いる場所に敵兵がいつ襲ってくるかも分からない状況を推測し、タンはユニットメンバーに戦闘準備を促した。


ユニットの隊員たちは皆、夜の帳が降り始めた漆黒の森に息を潜めて待機する。

自らが起こす葉擦れの音や息遣いで、敵に気付かれないように細心の注意を払う。



しばらく待っていると、森の奥からこちらへと向かってくる足音が聞こえる。隊員たちは一気に緊張した。

暗がりからよく目を凝らして敵より先に迎撃しようと、ルヴェインは素早く銃を構える。


だが、やってきたのは帝国兵ではなかった。


「待て!」


見覚えのある桃色の髪の姿をいち早く見つけ、銃の引鉄を引こうとしたルヴェインをヤーファンが急いで引き留めた。

息を切らして走って来たのは、先鋒の部隊を率いていたリーディエだ。


「どうしましたか、リーディエ部隊長。貴方の部隊は確か、最前線で前哨を担っていた筈……」


彼女が傷を負っていない事をまず確かめて、とりあえず安堵に胸を撫でおろしたヤーファンが

ここまでやってきた事の詳細をリーディエに尋ねる。


「えぇ、私たちは最前線でカーディレット軍と対峙しました。

 ……が、彼らの軍備と戦略に対して、私たちの装備と兵士の配置では歯が立たないため

 悔しい所ではありますが、一旦後退してきたのです。

 そして彼らの状況を後続のユニットに伝達すべきだと判断し、ここにやって参りました。

 私の部隊の他の者たちも、近くに潜伏しているユニットに伝達を行っています。」


「それで、敵の装備と戦略とは?」


リーディエの報告を、部隊長であるタンが引き継いで聞く。



「前回は、ワイバーンの騎竜部隊と、ソルシエールによる魔導兵による攻撃が主だったものでした。

 ですので、リフレクトメタルによる装備の強化と、中距離から攻撃できるコリンドーネの銃兵隊、

 彼らの護衛にテワランの武官たちと騎兵隊の方たちを組ませた配備としました。

 しかし今回は、ワイバーンも、魔導兵も、2つとも彼らの部隊には存在しません。

 銃撃にも武具による攻撃も受け付けないような、強靭な鎧を用意して、接近戦には機械で強化した武具を用いています。」


「なんと! それは先に聞いていた話と随分様子が違うようじゃな……

 そうか、それでお主らは一旦退き、情報を我らに伝えようとやってきてくれたのじゃな?

 ふむ……我らの対策を見越して、作戦をくるりと変えてきよったか」


リーディエの報告に、タンは唸った。どうやら今回の敵方の指揮者は、こちら側の対策を読み取った上で対策を練ってきたようだ。


「前回、火炎放射器で森を焼き払ったような力押しの作戦ではないということですね?」


「そういうことじゃな。まぁ、もう火炎放射器を扱う程燃料がないからかも知れんが。

 だがそうなると、今回配備した小隊編成の包囲網では、一個一個の部隊の火力・防御力が心許ないの。

 前回と同じく、ワイバーンを各個撃破出来ればと思うたのじゃが……」


「敵方も、同じ過ちを繰り返すような愚か者では無かったって訳だな」

「どうしますか、タン部隊長、リーディエ部隊長」


メンバーが、今後の作戦の方向性を2人に問いかける。


「私は、各地に散らばったユニットを1つに集めるべきだと思います。

 各々は人数も少ないですが、彼らに対して対応出来る能力のあるメンバーもいます。

 例えば、通常銃撃では歯が立たないような敵のあの鎧も、そちらの大きな火器をお持ちの方ならば撃破出来るかもしれませんし」


「おぉよ! 勿論さ!」


リーディエが提案すると、バズーカを抱えたエッカーは得意そうに拳を振り上げる。


「タン部隊長程、気功術に長けた方の打撃ならば、私の錘のように、彼らの装備を破壊する事も出来るかもしれません」


「ふむ。きゃつらの装備はあくまでも無敵ではない、ということじゃな。ならば可能性はありそうじゃの。

 ならば、この場合は一度結集した方が良かろう。場所はどうするのじゃ?」


「この先に開けた野原があります。そこが、距離的にも一番宜しいかと思われます」


「良かろう。ヤーファン、一足早く向かって集合の狼煙を打ち上げてくれぬか」


「分かりました」










「大丈夫かい?」


「うぅ、なんとか……でもあの丸い球のくっついた武器、結構な威力でしたよ……」


リーディエたちのユニットが退いた後の、帝国軍機械部隊はというと、先程の攻撃にやられた兵士の介抱を行っていた。

木っ端微塵程とまではいかなかったが、急ごしらえの缶詰鎧に大きなへこみをつけられ、数名の兵士が負傷していた。


「銃弾は貫通しなかったけれど、流石に打撃系の武器を凌ぐほどの耐久性はなかったね」

「まぁ、所詮缶詰めだったからかしら。でも、急ごしらえとはいえ、あの銃撃を凌いだのは凄いわ。」


缶詰鎧につけられた大きな打撃痕をまじまじと観察するローレンツに、ユリコも、にわかではあるがあの鎧の耐久性の高さに驚いていた。


「んでも、あの桃色の髪のお姉さん、強いだけじゃなく、ものすごい別嬪さんだったな……」

「あぁいうの、文美両道っていうんじゃねぇのか?」

「馬鹿、そこは文武両道だろ。美じゃなくって武だし。しかも思いっきり意味違ってるじゃねーか」

「その色ボケ脳みそも一緒に叩き割られりゃよかったのにな」


治療を受けながら、対峙した美人のテワラン兵を思い出しながらほぅ……とため息をつく兵士に、別の兵士たちが呆れて突っ込む。


「ユリコちゃーん! 俺の活躍も褒めて褒めてー!!」


横から、ヒューイがチェーンソーをぶいぶい唸らせながら凱旋の叫びを上げる。


「あぁもう!! 電力がもったいないから無駄な所で使ってんじゃないわよアンタ!!

 ……でもまぁ、よくやってくれたわ」


モーター音の煩さに頭を抱えながらも、ユリコはヒューイの健闘を労った。

彼ら電動カッターを扱う隊員たちのおかげで、ロクに武術訓練さえ受けていない機械部隊の面々が

武術の極みと言われるテワランの武官たちの苛烈な打撃攻撃を、単隊で凌げることが出来たのだから。

攻撃は最大の防御ともいうが、この場合、装甲の薄い帝国兵たちが彼らを前にして被害が少なかったのは

果敢な攻撃が功を奏したとも言えよう。


「何はともあれ、とりあえず犠牲者が出なくて良かったわ……」


なんだかんだ言いながらも、兵士たちの無事を安堵するユリコを、ローレンツは穏やかに微笑んで見守っていた。




しかし、その穏やかな笑顔も束の間、次の瞬間には真剣な面持ちに戻り、隊員たちに向かって言う。



「先鋒戦は俺たちが彼らを抑える事が出来た。だが、ここから先そう簡単には行かない。

 対峙した兵士たちを、軍備の関係上殲滅しなかった故に、情報は素早く敵方の後続の兵士たちに伝わる。

 こちらの戦略を知った上で、素早く対策を立ててくるだろう。

 今の俺たちも決して無敵じゃないし、弱みは多くある。今一度、それをおさらいしておこう。

 一度の勝利に酔いしれて、油断してはならないよ」


「はい!!」


ローレンツの呼びかけに、隊員たちは背筋を伸ばして揃って返答する。



「打撃にはとりあえず耐久性が低い事は分かった。あと、通常弾では弾き返せるが、コリンドーネでは

 大砲のような強力な火器もあるという。また、魔力を込めた弾丸を持つ兵士もいるそうだ。」


「それだと、この缶詰鎧では防げそうにないですね。強力な火器にやられたらひとたまりもありませんし、

 魔法を弾く効果なんてありませんから」


缶詰めの素材を今一度見ながら、クルルはそう分析する。


「あと、例の魔法を使う人物が現れたら厄介ですね」

「噂の精霊使いね…… あたしたちが対魔法戦に耐久性が無いってあちらに知られたら、まずいわね……」


ユリコは難しい表情を浮かべた。機械部隊だけでは、魔法に対抗する手段が全くと言っていいほど無かった。

魔法に対しては、同じく魔法による防御が一番有効であるが、機械部隊の面々は魔法に不得手な人材ばかりだ。

今回のテワラン戦線では、あちらも魔法には精通していないことがこちらとしては幸いだったが

コリンドーネとタッグを組んだことにより魔導弾を使用する可能性が出てきた為、それらも考慮しなければいけなかった。


「はぁ……機械部隊が補助的な役目ばっかりしているのが、よく分かるよ。

 俺たちって、戦う手段も防御する手段も殆どないんだからさ」


今までの戦線を振り返って、兵士の1人が嘆く。


「ただ、あちらも、レアな能力を使う人材はごく限られているだろうさ。

 今までの戦線でも、魔法を使われた事は殆どなかっただろう? 今の俺たちでも、まだ出来る事はあるさ。

 武器だって独自に刷新した訳だしな」


何度も戦線に立ったアクセルがそう言って皆を励ます。


「そうさ! 俺たちだって、雑用部隊ってのに、しぶとくよく戦ってるじゃねーか!

 雑草にも魂があるんだって事を、思い知らせてやるんだ!!」


熟年の兵士が拳を振り上げる。


「敵を突破出来る可能性はゼロじゃない。

 その為には、やはり敵の戦力を見極め、こちらの打撃となりそうな所を探して撃破していくしかないな」


そう呟いて、ローレンツはきらりと眼鏡を光らせた。






そんな風にして機械部隊の面々が対抗策を講じていると、日没後のコバルトブルーの空に、黄色い狼煙が上がった。



「どうやら、先程の俺たちの進撃に対して、各地に分かれている小隊を集めるようだ。

 しかも場所はご都合よく、俺たちの目指している場所じゃないか」


「人員を集めて、確実に僕たちを叩こうって作戦ですね」


「上等じゃねぇか。テーブルを用意されちゃあ、行かない訳にゃあいかねぇな!」


「皆、気を抜くんじゃないわよ! ここからが正念場よ!!」




森の奥深くへと向かい、機械部隊の一団は進軍を進めるのだった。





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