テワランの広大な密林の中、城1、2つ分程の広さで、ぽっかり空いた野原。

落雷が原因による火災で出来た、自然の草原だ。

見晴らしがよく地形も平坦で、森の中まるで切り取ったように夜空の上で星が光っている。



その広い草原に、集合の狼煙を目印として、テワラン・コリンドーネ合同軍の各小隊が集まりつつあった。



「でね! でね! 聞いて下さい!

 妙ちきりんな鎧をつけたカーディレット軍の兵士が、エリナとユーディアの銃撃を弾き返したんです!

 あの装甲には、コリンドーネの通常弾は効きそうにないですよ……」


先程の戦闘の様子を、カヤは同じくコリンドーネの別のユニットのメンバーに話して聞かせていた。


「妙な鎧〜? なぁに、私たちコリンドーネの強靭な鎧の防御力に、肩を並べるようなものがあるって言うの?

 しかも銃弾を弾き返すだなんて。エリナだって、銃の腕そんな悪くないわよ? まぁ私ほどじゃあないけどさぁ」


慌ただしく説明するカヤとは対照的に、余裕たっぷりで、特に最後のくだりをさりげなくさらりと言い退けたのは、

同じコリンドーネ銃兵のジャネットだ。銃の腕前は指折りで、銃兵隊でもトップを争う程だ。


「銃弾を弾いた……通常弾では、間違いなく歯が立たないわ。これ、ホントよ」


ジャネットが余裕で答えている横で、ぼそりとユーディアが呟く。


「え〜!! 銃が効かなければ、あたしどうしたらいいんだろ……」


しょぼんとするのは、同じく銃兵隊員のセイヤだ。そんな彼女を、隣にいたパートナーのヘンリッキが励ます。


「大丈夫だよ、セイヤ。 銃が効かない相手は、別のメンバーが対峙して対応してくれるから。

 だから僕らは、それぞれ騎兵隊、銃兵隊に分かれているし、今回はテワランの人たちの助けもあるよ。

 みんなで助け合えば、きっとなんとかなるよ、ね?」


すると、彼らの後ろから、落ち着いた貫禄のある声が響いた。


「そうだとも。 一人きりではなく、仲間が居るからこそ、不得手な相手にだって立ち向かえることが出来るのだ。

 己の能力に慢心せずに、苦手な所は補い合ってこそ、困難な状況を乗り越えられるのだぞ」


「アルバトロス副隊長!」


それまできゃいきゃい喋っていた銃兵隊員の若者たちは、彼の登場に思わず背筋を伸ばして立ち上がった。



「あの……各個ユニットで行動していましたが、もう一度召集をかけるとは、何かあったんですか……?」


ヘンリッキがおそるおそる尋ねると、アルバトロスは戦況の変化を若者たちに説明した。


「前線にいたユニットの報告でな、前回のような戦略では対抗することが難しいと判明したのだ。

 彼らは戦略を前回と大幅に変えてきた。そこでユニットによる各個撃破が困難だと判断し、急遽集合をかけて貰ったのだよ」


その隣では、先鋒で帝国軍と戦ったエリナが、イーグルに報告を行っていた。


「……で、通常弾を鎧の全面、さらに耐久性が低くなると思われる接続部などを狙って行いましたが、

 いずれも補強されていて、全て跳ね返されました。何かの金属とは思われますが、どうやら何枚も重ねてあり、

 耐久性がありそうです……」


「ふむ、報告ご苦労さん。相変わらずエリナは観察眼がいいな。素材は何だと思う?」


頭をかりかり掻きながら、報告を受けたイーグルは対策に頭を悩ませる。


「あの……あの鎧はどうやら、兵糧に用いられている缶詰めを叩いて伸ばしたものだと思われます……」


少し言いにくそうにエリナが報告すると、それを聞いたイーグルは思わず笑い声をあげる。


「缶詰めぇ?! やっこさんたち、缶詰めを鎧に加工したってのか?! いやこりゃ傑作だなははは!!」

「隊長! 笑い事じゃないですよ! あの缶詰め鎧で銃撃を跳ね返されたんですから!!」


面白おかしく笑うイーグルに、その缶詰め鎧に苦戦したエリナは憤慨する。


「や、すまんなぁ。戦場に出ると奇想天外な事が多くて、実に面白くてな。

 なんにせよ、ゴミになっちまう缶詰めの鉄屑を鎧にまで加工するとは、流石、天下の鉄の国。その技術力は恐れ入るよ。

 だが、缶詰めを急遽鎧にしなきゃならん程、やっこさんたちの装備は薄かったんだろうな。

 ……となれば、対策もおのずと見えてくる。それ以上の火力で追撃すりゃいいんだ。」


「ただ、今回はあまり強力な火力は我々には配備されていない。補助的なものばかりだ。

 国境戦線のように固定された戦場ではないから、大砲など大掛かりなものは準備できないぞ。

 通常弾より強力なものがあるとすれば、私のショットガンと、エッカーのバズーカ、リックスの魔導弾ぐらいか」


テワラン戦線で配備された、通常弾より効果がありそうな装備を、アルバトロスはいくつか挙げた。


「そっちの打撃系はどうだ? 太子サン?」


話を振られたテワラン側の配備を、ルトガーは今一度おさらいした。


「そうだな、リーディエの報告によれば、打撃系統の武器ならばその缶詰め鎧とかいう奴を

 とりあえず撃破することには成功したらしい。

 だが、妙ちきりんな機械の武器で随分足止めを喰らったようだ。素手どころか、武器でもなかなか太刀打ちできないとな。」


武官たちが足止めされたのは、電動カッターの強力な斬撃攻撃だ。

あの威力では、素手はおろか普通の武器ですら対抗が難しい。


「その機械の武器はなんとか出来ないのか?」

「斬撃能力が高そうで、拮抗したら火花が散ったそうだ。」

「拮抗……火花……回転系の機械……? そうしたら、回転軸を止めれば、なんとかなるかしら……?」


イーグルとルトガーの会話を聞きながら、隣でリックスが頭を捻って考える。


「お。流石発明家、何かアイデアはあるか?」

「まだ実物を見ていないから何とも言えないけれど、構造が分かれば対策が立てられる筈よ」


技術者ならではの知識で、機械の武器に対する対抗策を考えようとする彼女の背中を、ルトガーは大きく叩いた。


「機械ってのはよく分からないもんだから皆怖がってばかりいたが、身内に詳しい奴が居ると頼もしいものだな。頼りにしてるぜ」

「あ! ありがと……」


ルトガーに褒められて、赤面するリックス。



「今度こそは、あの人たちにぎゃふんと言わせてやりますー!」

「えぇ、返り討ちよ!」


先鋒の戦いで、鍋蓋の盾や電動カッターに手も足も出なかったホァホン、リンリーらも、彼らにリベンジマッチを誓った。





森の奥深く開けた草原に、テワランとコリンドーネの同盟軍の陣地が構えられ、陣の最前線では松明がいくつも灯される。

等間隔に据えられた松明の紅い炎が、紺碧に染まりつつある夜空に向かって、激しく燃え上がる。

先程は夕暮れ時の奇襲を受けたが、今回は戦場をあつらえ、万全の状態で敵を待ち構える。






「どうやら、あちらさんはお出迎え状態バッチリみたいだね」

「隊長! そんな軽々しく言わないで下さいよ、もう!! これから攻め込むって言う時に!!」


ずらりと並んだ反乱防衛国サイドの壮観な陣地を、少し楽しそうな様子さえ見せて、木立の暗がりから眺めるローレンツを

小刻みに震えているクルルがぴしゃりと叱る。大軍を相手に、誰だって恐ろしくない訳がなかった。



「突撃・隣の晩ごはんどころか、もう、晩餐会に盛大に乱入、って感じよね……」


目の前に強固な陣地を展開した敵陣の様子に、ユリコは半ば呆れて今回の作戦名を改めてなぞらえ、溜め息をつく。


「まぁしょうがないさ。奇襲の後で相手が結束する事は十分考えられたし。

 でも、最初の奇襲で敵の前線が一旦下がり、おかげで目的地に一足早く到着出来たのだから」


「ただ、目的地を無事手に入れられるかは、これからの決戦にかかってますぞ」


いつもは補助に回るハイデマンでさえも、その手に電動カッターと鋼鉄レンチの二刀流を構えていた。

そんな様子を見て、若手の隊員たちは思わずざわつく。


「おぉ、おやっさんがやる気だ……!」

「おやっさんに続け! 俺たちも頑張るんだ!!」

「おぉ!!」


次々にスパナやレンチや各々の電動機械を手にして、隊員たちは戦いを前にして雄叫びを上げる。




「皆、各々の機械に十分に充電はしたかい? こここそが、当初に目標とした地点だ。

 敵の攻撃は苛烈を極めるだろうが、大丈夫。皆が作った装備が、俺たちを護ってくれる。

 互いに協力し合い、この山場を乗り切ろう。」


隊員たちをしっかりと見据えて、ローレンツは1人1人に呼び掛けた。その眼差しに、隊員たちは力強く頷く。


「大丈夫、誰も失ったりしない。俺がさせない。絶対にね。」


そう、にっこりと笑うと、絡繰式銃剣を起動させた。










「来たぞ!!」


コリンドーネとテワランの前哨兵たちが叫ぶと、開けた草原の向こう側から、唸るようなモーター音が聞こえてくる。

草原に横一列に並んで、電動カッターや火炎放射器、その他見た事もないような機械を両手に持った兵士たちの一団が現れた。


こうして面と向かって双方の軍が1つの場所で対峙するのは、珍しい事だ。

ピリピリと張りつめた空気の中、カーディレット軍の兵士の1人が、敵軍に向かい挑発する。



「あんたたちには悪いが、ここは俺たちが頂戴するぜ!」


「ほざけ!! 故郷の森、お前らなんかにゃこれっぽちも渡しゃしねぇよ!!」


一方、テワラン軍の兵士たちも挑発に対して怒号を上げ、武具を持ち、迎撃態勢をとる。

後ろでは数十人のコリンドーネの銃兵隊員が、合図と共に一斉に銃口を上げて構えた。

敵に向けて、一斉発射の合図を待つ。



一瞬の空白。




「放て!!!」




イーグルの合図と共に、銃兵隊員が一斉に銃を放つ。

数百メートル先から飛んでくる銃撃が、先鋒を陣取っている帝国軍兵士たちの缶詰めの鎧に跳ね返る。

先程の戦闘で証明された通り、コリンドーネ式リボルバー銃では、缶詰め鎧に痛手を与えられていないようだ。



「怯むな、進撃開始!!」


ローレンツの号令と共に、機械部隊の兵士たちは駆け足で前進を開始する。


銃撃を缶詰め鎧で防御しながら、少しずつ両軍は接近していった。

ある程度の近さになると、テワラン・コリンドーネ合同軍の陣営から、武具を手にした武官、

剣や斧を手にした騎兵隊員らが一斉に切り込みをかけてきた。

同時に、放たれていた銃撃が止む。前線で戦う味方への同士討ちを避けるためだ。



すると、前線が衝突するそのタイミングで、1つの丸い包みがぽーんとどこかから投げ入れられた。

地面にコロコロと転がると、次の瞬間、烈しい光と煙幕を生じ、丸い包みは大きな音を立てて爆発した。


「何だ?!!」

「うわぁぁぁっッ?!」


もうもうと立ち込める刺激性の煙をハンカチで防ぎながら、クルルが咽込んで叫んだ。


「特製照明弾の威力、思い知りましたか!」


テワラン兵・コリンドーネ兵が怯んだその隙に、爆発の煙と光を兜で防いだ帝国兵たちが、煙に乗じて襲撃をかけた。


「おぉりゃぁああ!!!」


電動カッターを手に、缶詰め鎧で身を包んだ幾人かの帝国兵が、先手を打って切り込んでいく。


「くそっ、目くらましとは、卑怯な……!!」


ヤーファンは棍棒を用いて、電動カッターの襲撃をなんとか防いで弾き返そうとした。

しかし、強烈な回転斬撃により、高い音を立てて彼が持っていた武具は弾き飛ばされてしまう。



「退きな! 吹き飛ばしてやる!!」


そこに、バズーカを抱えたエッカーが帝国兵に向けて照準を合わせる。

凄まじい砲撃音を立てて放たれたバズーカ砲は、目の前に迫っていた帝国兵に直撃した。


「ぐわぁぁーーーッっ!!!」


烈しい音と衝撃と共に、缶詰め鎧の兵士は、5、6メートルほど吹っ飛ばされた。



続いて、前回と異なりハンマーのような武器を手にしたホァホン、リンリーが戦線に躍り出る。


「また性懲りもなく打ちのめされにきたかい、お嬢さん!!」

「今度は、前のようにはいかないよ!!」


対峙した帝国兵の電動カッターの一撃をひらりとかわし、ホァホンはハンマーを思い切り電動カッターの軸に向けて叩きつけた。

すると、カッターの軸の部分にかなりの衝撃が入り、その威力で軸が歪み、カッターが起動不能に陥った。


「なっ……?! カッターの仕組みを狙った攻撃だって……?!」


次の瞬間、リンリーの回し蹴りが炸裂する。目からいくつもの星を飛ばして、帝国兵は沈没した。


「やった!! リックス姉さんのアドバイス、当たったね!!」

「リベンジ成功ね! 全く、やらしい目であたしたちの脚見てんじゃないわよ……!」


前回の屈辱を晴らし、彼女らは互いにハイタッチした。




「電動カッターで斬りつける兵士は2人以上のペアで臨め! 死角を作っちゃいけない!!」


敵に電動カッターの弱点を突かれた事を察知したローレンツは、兵士たちに向かって指示を出す。


すると別方向から、兵士たちの電動カッターに向けて、銃撃音が轟いた。

それはただの銃撃ではなく、雷の力を纏った魔導弾だった。


「うわっ?!!」


電気を帯びた銃弾は電動カッターの軸に正確に当たり、電撃によって中の装置を麻痺させた。

動かなくなった電動カッターは、もはやただの飾りだ。


「やっぱりね。中の電導装置自体を電撃で破壊してしまえば、起動しない。思った通りだわ。」




次々に、主戦力である電動カッターが起動不能に陥っていく。

また、缶詰めの鎧を着た兵士たちも、通常弾以上の火力によって、打ちのめされていく。


「まずい……こっちの弱点を突かれたか…… 敵も現状分析が早いな……」


苦々しい表情を浮かべ、戦況の悪化に頭を悩ませるローレンツ。

状況は、テワラン・コリンドーネ合同軍に対して有利な戦況に傾きかけていた。





そんな彼の目の前に、臙脂色のリボンを飾った黒髪を靡かせて、勢いよく立ち上がり敵前に躍り出たのは。




「敵の主戦力確認!! アンタたち、援護しなさい!!」



愛銃を手にした、ユリコだった。


威勢よく隊員たちに呼びかけると、迫り来る敵の攻撃を防衛しつつ、その鋭い眼差しで敵陣を一瞥する。

いくつかの目標を見据えると、鮮やかな手捌きで銃弾を装填する。


そして、ゆっくりと狙いを定め、撃鉄を鳴らした。



「おぁぁッッっ?!!」


「きゃああっ!!!」


2発の銃声の後に、エッカーとリックスの叫び声が上がる。2人共、己の得物である銃の心臓部を狙い撃ちされたのだ。

きっかりと狙いを定めた彼女の銃撃に、それぞれの銃は機能不全に陥ってしまっていた。


「銃声は聞こえなかったわ……一体どこから?!」


リックスは辺りを見渡すが、遠く離れ過ぎていて、狙撃手を見つける事が出来ない。




「あの距離から?! 一撃でだって!?」


ユリコのミラクルショットに、ローレンツは驚愕した。


「あたし、昔から銃の腕前だけは、誰にも負けなかったの」


驚きの声を上げるローレンツに、ユリコは振り向いて不敵な笑みを浮かべる。


「さ、これであたしたちを阻むものはなくなったわ。反撃よ!」





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