「どうした?! 一体何が起こった?!」
銃撃による突然の奇襲を受けて、得物が破壊されたエッカーとリックスに、イーグルは何事かと呼び掛けた。
「それが……突然銃を狙撃されたようです…… ワタシの銃は、使用不可能にされました……」
うろたえながら、一体どこから狙撃されたのかと周囲を探すリックスは、その主犯を見つけ出せずにいた。
「どこから撃たれたのか、全く分からねェ……一体、どこから……?」
エッカーも、狙撃犯がどこにいるか全く気付けないようだ。
しかも、その狙撃はピンポイントで銃の心臓部を狙っており、たった一撃で彼らの火器は使用不能にされていたのだ。
その狙撃の腕前もさることながら、アルバトロスはこの2人を狙って狙撃していた事の方を気にかけていた。
「カーディレットの兵士のあの武装を撃破出来る2人を、敢えて狙ったものか……
彼らの弱点を突く存在を見つけ、狙ったその戦略性……危険だな」
「あぁ。奴ら、こっちの意図を読み取りやがった。
このままじゃあ戦況がひっくり返っちまうな。早々にそいつを探さなければ」
この広い戦場の中、どこから狙撃したのか分からないその主を見つける事は、かなりの困難だが、
ルトガーは目の良い兵士たちに頼み、その狙撃手を何とか見つけ出そうと指示を出す。
一方、カーディレット軍・機械部隊では、弱点を突かれた事に対し、急いで態勢を立て直そうとしていた。
壊された電動カッターは急いで回収され、後方で待機していた工兵によって修理が行われていた。
「ほれ、早よ寄越せ!! 駄目なもんはダメだが、直せるものは直してやらぁ!!」
電導系統が破壊されず軸が曲がった程度であれば、傾きを修正すれば再使用が可能であった。
工兵は受け取ったカッターを見ると、スパナやレンチ、ドライバーを用いて直していった。
その速さたるや、流石熟練の技。問題の箇所をあっという間に見つけ出し、全く無駄のない動きで修理していく。
そうして直された電動カッターを前線にいる兵士に渡す為、活躍していたのが、なんとメイドのクセーニヤだった。
流れ弾に当たらないよう例の缶詰の鎧こそ身につけているが、金色の三つ編みが揺れ、ふわふわのエプロンスカートが風に靡き華麗に広がる。
それはさながら、戦場に咲く一輪の花だ。
身を屈めて鉄製のワゴンを押しながら、工兵から受け取った修理済みの電動カッターを、前線で奮闘する兵士に渡していく。
「皆さ〜ん、直ったカッターですよ〜!」
「おう! クシューシャちゃん、ありがとな! 後は危ないから下がってな!!」
「クシューシャちゃん、こっちも頼むぜ! さっき思い切り打たれてイカれちまった!!」
「はい、承りますね〜!」
その戦線の最中、最前線で懸命に戦う想い人の姿を見つけ、クセーニヤは眼を輝かせる。
「ミーシャ! あぁ、そんなに泥で汚れて…!! 怪我はしていませんか?!」
「けっ怪我などしてない…! カッターを受け取ったら、さっさとここから退避しろ!」
駆けつけてこようとする彼女にミハイルが気付くと、彼女をその場から追い立てようと叫ぶ。
近づこうとするクセーニヤを少しでも自分から遠ざける為か、はたまたそれは、戦場で傷つけられないようにと
彼女を思いやった行動なのか。
そんなミハイルを、こんな時でも隊員たちは囃し立てる。
「ミハイル! オメー必死に自分を気遣ってくれるクシューシャちゃんをあんな冷たい言葉で追いやるなんて、この罰当たりが!!」
「そうだそうだ! 銃弾の嵐の中、わざわざやってきてくれたんだぞ!! ここまでしてくれるかわい子ちゃんなんていねーぞ!」
「んな事言ってる場合かこの間抜け共!! さっさとカッターを受け取って前線に行け!!」
とても緊迫した戦場と思えないようなやり取りが飛び交う。だが隊員たちは皆真剣そのものだ。
そんな彼らを横に、部隊の中枢では兵士たちにカモフラージュされながら、ユリコが敵の戦力を次々と撃破していった。
「あの大きな丸い武器は、兵士たちの鎧を壊す威力を持ちそうね……」
数少ない貴重な弾丸を装填しながら、自分たちの進撃を阻みそうな敵の戦力に狙いを定め、銃撃を放つ。
「うぁぁッっ!!!」
錘を持つ手を狙い、弾丸が掠める。リーディエは撃たれた手を押さえて悲鳴を上げた。
貫通こそしなかったが、銃創を受けて利き手は満足に動かなくなってしまい、錘を取り落す。
「くっ……やられたわ……一体どこから?!」
苦痛に顔を歪めながらも、戦場を見渡すリーディエは、敵方の動きを見逃さなかった。
遥か遠い敵の陣地に、無骨なカーディレット軍には似つかわしくない可憐なリボンを着けた黒髪の少女が、銃を構えていたのを。
他にも何人かのテワラン兵、コリンドーネ兵が、戦場にはいささか不似合いなそのリボンの少女の姿を目撃し始める。
そしてその姿は、戦線を見守っていたアルバトロスも見逃さなかったのだった。
「いいですぞ、ユリコ特務! この調子でいけば、敵の戦力を大幅に削ぐ事が出来ますな!」
鉄の鍋蓋で敵方の銃撃を防ぎながら、ユリコの狙撃の補助をしていたハイデマンが、彼女の圧倒的な狙撃力に感嘆の声を上げる。
「ありがとう。でも、そう簡単にはいかないと思うの。そろそろ残弾数も少なくなってきたし……」
敵を次々と撃破しているものの、弾を装填するユリコの表情は決して明るくは無かった。
今の所、それぞれが互いの痛手となりそうな戦力を抑えているため、戦況は五分五分だ。
しかしユリコはこの戦況を楽観視できなかった。
「敵の切り札はまだ出てないわ。イグナート将軍を狙ったという、凄腕の狙撃手。
それらしい存在を、まだ狙撃出来ていないの。随分隠れて、こっちの動きを読んでいる筈よ。
それまでに、残弾が尽きないといいんだけど……」
ユリコの呟きを聞いたヒューイが立ち上がる。
「分かった、ユリコちゃん! ゴメンな、敵の掃除を全部君に押し付けちゃってよ。
俺たちだって、やるときゃ頑張るからよ! 行くぜ、お前らぁー!!」
「おう!! お嬢のために行くぜー!!」
ヒューイの呼びかけに、幾人かの隊員たちが呼応する。
隊員たちが前線に出ようとするのを見て、ユリコは慌てて止めようとした。
「な、アンタたち! 敵は電動カッターの弱点に気付いてるのよ!?
掃討はアタシに任せて、無茶するんじゃ……!!」
「へへ、そんなに弱かないぜ、俺たち! まぁ見ててよ!」
弱点の知られた隊員たちを敵前に晒すまいと、必死に止めるユリコに、ヒューイはあっけらかんと笑って親指を立てる。
「行くぜ! おりゃぁぁあぁ!!」
ヒューイは電動カッターよりも一回りも二回りも大きなチェーンソーを振り回し、前線に躍り出た。
電動カッターの弱点を教えられたテワランの武官たちが、幾つもの武器を抱えて彼のチェーンソーの動きを止めようと飛び出る。
しかし、ヒューイが持ってるチェーンソーは、横方向から打撃しようとも、モーター部分にも鋭利な刃や頑丈なカバーがついていて
簡単に打撃出来ないようになっていた。
「えっ、こりゃあどこから打ちこみゃいいんだ…?!」
「おバカちゃん、弱い部分をそのまんま晒してなんか置くかよ!! そんなの三流技師のやる事だぜー!!」
意気揚々と物騒なチェーンソーを振り回し、ヒューイは次々と活路を開いていく。
そこに、部隊長のタンが立ちはだかる。
「若造!! それ以上は進めさせんぞ!!」
筋肉隆々の拳に、体中の霊脈を通して全身に持てる力を注ぎこむ。彼の周囲に、見えない波動が風を起こす。
そうして彼から繰り出された拳の一撃が、チェーンソーの刀身に炸裂した。
鋭利な刃に拳を傷つけられとも、その激烈な一撃が、鋼鉄のチェーンソーを折り曲げその動きを止めた。
「げげーッっ?!! 鋼鉄のチェーンソーを折り曲げるだなんて、このオッサンのパンチ、どんな威力だよ?!」
もう一発、激震級のパンチが繰り出される前に、ヒューイの襟首をアクセルが引っ掴み、後ろに引っ張る。
「馬鹿! 格上の相手を見つけたら素早く引っ込め!!
俺たちゃ戦いに出るにはまだまだ力不足なんだよ!! この見栄っ張りの無茶野郎が!!」
「お〜、おっかね〜…… チビるかと思った……」
間一髪で致命的な一撃を逃れる事が出来たヒューイは、まだバクバクしている心臓を撫で下ろし、安堵の息をつく。
同時に、ユリコもヒューイたちの退避に、ほっとしていた。
ここまでくると、今まで以上に強力な、致命傷クラスの戦力が登場しかねない。
未だ犠牲者こそ出ていないが、負傷者は確実に増え続けている。早く勝敗をつけなければ。
「敵の鍵となる司令塔は、どこかしら……」
それは、テワラン・コリンドーネ側も同じだった。
戦況を左右する程の駒、そして部隊を率いる存在を撃破する事を、双方とも狙っていた。
そんな中、鋭い殺気が戦場を走った。
その殺気に、いち早く首筋に寒気を感じたのは、ユリコの後ろにいたローレンツだった。
「これは…… 前の戦いで感じたあの気配……!! まずい!!」
気配を感じて彼が動く間もなく、鋭い銃声が戦場に響き渡る。
硝煙が立ち上り、薬莢が地面に落ちる音が甲高く響いた。
銃撃はコリンドーネ側からだ。
カーディレット軍の兵士たちは、銃撃されたであろう先を想像し、最悪の結果を危惧した。
しかし、地面に倒れたのは、ユリコではなかった。
兵士の1人が、以前ヒューイが持ってきた女装道具を身につけた状態で、銃を抱えた態勢で、大きく肩を貫かれていた。
「ヘクター!! お前、どうして……?!」
傍に居たヒューイが血を流した彼を抱えると、その兵士は深手を負いながらも笑みを浮かべて呟いた。
急いでユリコとローレンツも駆けつける。
「何でアンタ……こんな無茶な事を……!!」
泣きそうな目で地面に倒れたヘクターにユリコは呼び掛ける。
「ユリコ特務を……護るのが、俺たちの役目だからさ……
あの腕だ、敵に見つかったら間違いなく標的にされるだろ……? へへ、彼ら、まんまと引っかかってくれたよ……」
彼はユリコと同じ黒髪に、リボンをつけたカツラを被っていたのだ。敵は彼をユリコと見間違え、狙撃したのだった。
「それより、狙撃した方向はあっちだ……!!」
血だらけの震える指で指し示した先に、密林の中、ショットガンを構えながらもまさかの替え玉に驚くアルバトロスの姿があった。
彼こそが、撃破すべき狙撃手だ。
「ユリコ!! 彼がくれたこの機会を無駄にするな!! あいつを狙え!!」
ローレンツが叫ぶ。
撃破すべき相手の姿をはっきりと認識したユリコとアルバトロスは、相手よりも一刻も先に撃つべく、銃を構える。
その速さはほぼ互角。 敵を睨む互いの鋭い視線が、空中でカチリとかち合った。
そして全く同じタイミングで撃鉄が鳴り、双方の銃口から火が噴いた。2つの銃弾が、突風よりも早く戦場を突き抜けていく。
アルバトロスが放った銃弾は、ユリコに届く間際に、ローレンツが発動したプラズマシールドに弾かれる。
弾かれた銃弾は彼の頬を掠め、横に逸れていった。
そして、ユリコが放ったミラクルショットは、アルバトロスが構えていたショットガンの銃口のど真ん中に命中し、
ショットガンの銃身は大きな音を立てて破裂した。
飛び散った破片から身を護ろうとアルバトロスは腕を顔の前に出す。
「むぅ! やられたか……」
アルバトロスのショットガンを破壊され、2人の勝負は決着がついた。
戦場にいた全員が、その一部始終を目撃していた。
ユリコのあまりの腕前に、テワラン・コリンドーネ合同軍の全員が目を見張る。
「すげぇ……なんだ、あの帝国兵の女の子……!! ものすごい腕だぞ……!!」
「アルバトロス副隊長とサシで勝負して、勝ちやがった……!!」
一方、テワラン・コリンドーネ合同軍を指揮していたルトガー、そしてイーグルは皆の様子を見て、軍の一時撤退を決める。
「奴らに対抗する手段をほぼ失った。 こりゃ、引き上げ時だな」
「だな。作戦を練り直す必要がある。まぁ、あいつらも大分消耗しているようだ、一旦退いても問題ないだろう」
戦場に、ルトガーの声が響き渡る。
「テワラン・コリンドーネ全軍、一時撤退!! 陣地に戻れ!!」
それを聞いたテワランやコリンドーネの兵士たちは、渋々その命に従い戦線から撤退を開始する。
「くそう、あいつらを追い返せなかったなんて……」
「仕方ないさ、太子様も考えがあるのだろう。 一旦戻るぞ」
悔しさこそ滲ませながら、兵士たちは一旦自分たちの陣地へと引き上げていく。
「我が軍も一時撤退! 広場の対岸へ引き返せ! 協力して負傷者を回収せよ!」
テワラン・コリンドーネ軍の撤退開始を見て、ローレンツも部隊に撤退を指示する。
肩を貫かれたヘクターはじめ、負傷した兵士たちを各々肩に担いだりして、
カーディレット軍・機械部隊も、広場の対岸へと引き上げていったのだった。
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