兵士たちの笑い声に混じってユリコも笑ったのだったが、ふと思い当たる節があり、すぐその笑みを消した。
そして、ローレンツに静かに問い詰めた。
「……じゃあ、もし、それが有効だと始めから分かっていれば、
隊長はテワランの森に火をかけ、焼き払い、人々をあぶり出したの……?」
そう言い見つめるユリコの表情は、真剣そのものだ。試すような眼差しでも、ましてや見下すような視線でもない。
初めてみた彼女の真剣な眼差しに、ローレンツは笑うのをやめ、同じく真面目に答えた。
「……そうせざるしか、解決の道がなければね。
だけど、俺は極力森も、人も、必要が無ければ焼き払ったり、傷つけたくはないよ。
一度失ってしまったり、死なせてしまえば、取り返しがつかないんだ。自分の仲間だって、相手の命だって」
そう話すローレンツの表情は、とても哀しそうだった。
まるで、今まで己が奪ってきてしまった命や、戦いで失った仲間たちを追悼するかのように。
そんな彼の表情を、ユリコは初めて見たのだった。
「だから軍備の刷新を行い、なるべく小規模で被害を最小限度にして、勝てるようにしようとしているんだけどね。
……こんな甘い考えじゃ、上層部からは生ぬるいって言われてしまいそうだけど」
「そう……確かに、今の帝国軍の考え方からしてみれば、生ぬるいって言われそうね……」
「はは、ユリコ、君はこんな俺の情けない所なんか、見ていちゃダメだからね」
そう言い、ローレンツは自虐的に笑う。そして部下たちを背に、作戦会議を後にした。
ユリコは何か言おうとしたが、彼の背中があまりにも寂しさに満ちていて、何も声をかける事が出来なかった。
中断した作戦会議の合間に、ユリコはテワランの森をひとり散策していた。
敵の兵士に見つかるといけないから、あまり遠くには行かないように諭されてはいたが。
ブナや樫、ウルシに楓、椎の木など、様々な広葉樹の葉が、頭上の空を鮮やかな緑で彩っている。
そこから差し込む陽の光はきらきらと煌めき、ひんやりと冷たい地面に出来た日なたは、ほんのりと暖かかった。
木々の葉や、今踏みしめている土、吹いてくる風から、優しい大地の息吹を感じとる。
すると、少し離れた所にアクセルとヒューイが、それぞれ機械の部品を組み立てたり、メンテナンスを行っていた。
歩み寄ってくるユリコに気が付くと、ヒューイは嬉しそうに声をかける。
「ん? どしたの、ユリコちゃーん?」
「お前なぁ……仮にも上司なんだから、ちゃん呼びは止めろよな……」
あっけらかんとした、全く悪気の無い相棒に、アクセルはため息をつく。
「ねぇ……アンタたち、ちょっといい?
……ローレンツ軍佐って、どんな人なの?」
「お! 急にどしたのどしたの!? さては隊長に気があるんだろぉ〜? 俺分かってんだぜ!」
茶化してくるヒューイを、アクセルが容赦なく拳骨する。
「馬鹿野郎! ちげーよ……」
そしてアクセルは、きちんとユリコに向き合って、愛想無いものの、少し気になるようにそっと聞いたのだった。
「……気になるんだろ? 隊長の事……
あんな人、帝国軍じゃあんま居ないからな……」
アクセルの問いかけに、ユリコは静かに頷いた。
「アタシも、まぁ貴族社会の中で育ってきたけれど、あんな考え方をする人、あんまり見た事無いから。
アンタたち、見た所長い事あの人と一緒に働いてきてるんでしょ? あの人の事、教えて欲しいの。」
すると、アクセルはユリコに向かって睨み返す。
「その前に、俺はアンタの事をまだ信用しちゃいねぇ。
アンタはその身分で簡単に副官って地位についているが、あの人がどれだけ苦労を重ねて隊長になったのか知ってるのか。
お遊び気分じゃないとは言ったが、恵まれた身分の奴に、俺たち下っ端の気持ちなんて、ぜってぇ分かんねぇよ」
吐き捨てるようにアクセルが言うと、ユリコは持っていた銃を構える。
そしてその銃口を、躊躇いなくアクセルの心臓に突きつけた。その迫力に、アクセルは再び凍り付く。
「そう……悪いけど、こっちもお遊びなんかじゃないのよ。いつでも真剣勝負。
それに、アタシがただ恵まれた身分で、気まぐれにここに配属されたと思ったら、大間違いよ。
アタシはね、この腐り切った帝国を変える為に、ここに戦いに来ているの。」
「帝国を……変える……?」
突きつけられた銃口に閉口するアクセルに、ユリコは己の境遇を初めて兵士たちに話した。
「アタシはね、この国のやり方が大嫌いなの。力でねじ伏せようとするやり方がね。
皇帝を好き勝手操って、自分たちの私利私欲しか考えない馬鹿な官僚たちが、国や領土を使い潰しているわ。
そんな方針に、異を唱えたいのよ。そしたら、ここに飛ばされたって訳。
でも、ただ黙ってるわけにはいかないわ。ここで功績を上げて、発言権を手に入れなくちゃ。
……だからアンタたち、アタシに協力しなさい!!」
銃口を突きつけて脅すユリコに、それまでぽかんと黙っていたアクセルは、どうしたことか、急に笑い出したのだった。
「はははは!! 隊長も変わってるけど、アンタも変わってるな!! この帝国を変えるだってよ!!
この馬鹿デカい、権威と欲にまみれて肥大した、ガチガチの帝国を変えるって!!
しかもなんだ、アンタも飛ばされた身なのかよ!! さらに、よりによって俺たちなんかに協力を求めるなんてよ!!」
あんまりにも笑うので、ユリコもムキになる。
「何よ!! アタシは本気よ!! だから、この部隊の隊長はどんな人物なのかって聞いたんじゃない!!」
すると、アクセルは少し笑いを抑えて、先程よりずっと温和な表情になってユリコを宥めた。
「まぁまぁ。そういう意味じゃ、アンタらは意志が通じていると思うぜ。
隊長も、帝国のやり方には賛成していないからな。見ていれば何となくわかるだろ?」
そう言いユリコを宥めると、アクセルは初めて自分の境遇を自らの口から明かしてくれた。
「俺は、カーディレット帝国に攻め落とされた国に住んでいたんだ。あいつら、俺たちの国をめちゃくちゃにしていきやがった。
だけど、生き残るためには何か仕事をしなくちゃいけねぇ。だけども、めちゃめちゃにされた国に、仕事なんかありゃしねーよ。
育てた農作物はみんな取り上げられちまうし、せいぜい軍人さんたちの靴を磨いたり、メシの接待したりな。
そんな中、唯一マシに稼げるクチがあった。それが、帝国軍に入る事さ。
けどな、占領国からやってきた俺なんかに当たる上司の目は冷たいもんだった。訳もなく殴られたりだってしたぜ。」
アクセルは身体につけられたいくつもの痣を見せた。
「そんな中、仕官時代から俺たちみたいな連中に、対等に、優しく接してくれたのが、ローレンツ隊長だったんだよ。
隊長は、俺たちのいい所を探してくれる。そしてその功績をちゃんと認めて大事にして、活躍の場を与えてくれるんだ。
だから、俺はこんな軍でも、あの人についていこう、そう思ったんだ」
そしてアクセルは、お気楽そうに笑ってるヒューイについても説明した。
「あいつだってそうさ…… あいつ、帝国のある工房に務めていたんだけど、あんな性格だから
好き勝手にカスタマイズしてよ。だから工房からクビを言い渡されて。軍に入ってもあんな調子でよ。
でも隊長は見捨てなかった。馬鹿にしなかった。あいつ、思いもよらない発明するんだぜ。それを隊長は見抜いたんだ。」
そう話すアクセルの表情は得意そうで、自分が誇りに思う人の事を話す時は、とても嬉しそうだったのだ。
ユリコは彼の話を聞くと、じんわりと目に涙が浮かんでくる。それを見て、アクセルはぎょっとする。
あんなにつんけんしていたユリコが、まさか泣くなんて思ってもみなかったからだ。
「アンタたち、いい関係じゃないの……うぅぅ……!!!」
「あだっ!! なんだよ、いきなり叩くなよ……!」
ばしっとユリコに背中をたたかれて、アクセルはびっくりして叫んだ。
「2人とも、和解出来て良かったじゃーん!」
ユリコとアクセルの2人を眺めていたヒューイは、ドライバーを回しながら、嬉しそうにそう言ったのだった。
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百合子ちゃんが、核心に触れようとした隊長の思いは、こんな感じです!
ってか、大分アクセル兄さんを勝手に想像で書いちゃってごめんなさいなのです;(脱兎)
最初は思いっきり不審感満載で、敵視しまくっていたけれど、彼女の思いや事情を知ったら
きっと少しは自分の事を話してくれて、歩み寄ってくれるかな…? そう思って、こないだのトピを参考にしながら書きました。
打ち明ける時は、も少しむすっとするかしら… したらばちと書き直すのでー!