ユリコがやってきたその日の夕暮れ時。
機械部隊のベースキャンプでは、その日の夕食を支度する為に、兵士たちが準備を始めていた。
「テワランの密林の真ん中にあるこの場所は、敵対するテワランとコリンドーネの合同軍のベースキャンプからは
大分離れているから、多少ならば煙をあげても構わないよ。
他の侵略戦線で行っているような、民間人の家から押収するのは、戦闘になるリスクが高い。
罪のない、戦闘に関係ない人たちから奪うだなんて、気も引けるしね。
だから、兵糧をなるべく節約する為にも、可能な限り自分たちで素材を集め、自炊するんだ。」
ローレンツは、ユリコにそう説明した。
ここにも、帝国兵らしからぬ、言ってしまえば甘さのような所を感じずにはいられなかった。
が、戦争のためとはいえ、略奪行為なんぞはユリコも極力避けたかったので、この意見は賛成だった。
しかし……
「ぎゃああぁ!! アンタ何採ってるのよ?!」
「何って、いい色のキノコだろ〜。こんなの、ゼッテーうまいに決まってるって!」
「ヒューイ、これダメだよ…… ハラガヨジレルホドワライダケだよ……」
食料にする為に隊員たちが採取する素材、ひとつひとつに突っ込みたくなるくらい
知識のない隊員たちの多い事多い事。ユリコは頭を抱えたのだった。
猛毒とまではいかないが、危険な副作用を持つ、毒々しいピンク色と黄色の水玉模様のキノコを前に
得意げに掲げて見せるヒューイに、ユリコは怒鳴り、図鑑を手にしたローレンツは苦笑いするのだった。
「確か、これ前に焼いて食べていたよな……どうりでいつも以上に笑っていたわけだ……」
「や、気付いているなら止めろ」
呆れかえって先日の様子を思い出すアクセルに、隊員の一人であるミハイルは冷静に突っ込んだ。
兵士たちが持ってきた食材を、ユリコはローレンツと、そして部隊一の博識であるクルルと共に識別していった。
「これはコゴミね……茹でて食べると美味しいわよ。揚げるのもいいわね……」
「しかし、ここには食用油がそんなに無いから、揚げるという選択肢は省かなきゃなぁ……惜しいなぁ……」
「隊長。ご安心ください。焼いて美味に食せる、シイタケもありますよ」
「あらホント。いいシイタケ!」
「しかし、ユリコ、君、若いのに食材や調理法についてにやたら詳しいねぇ。」
「あら、意外かしら? アタシ、料理が趣味なのよ」
図鑑を何も見ずとも、食材1つ1つをスラスラと答えていくユリコに、ローレンツは驚いた。
半ば食欲全開な談義になってしまっている3人に、別の採取チームが、今度はたんぱく源となるものを捕まえてくる。
「隊長たち! これはどうですか! とりあえず、見た目で食えそうだと思うものを、各自集めてきました!」
兵士たちが持ってきたのは、丸々と太った山雉、イノシシ、イタチなどはマシな方で……
「ぎゃあ、か、蛙?!!」
「流石にネズミ……は……疫学的に見てもおススメできませんが……」
ユリコは毒々しい腹の大きな緑色の蛙を見るなり絶叫し、クルルは帝国で見かけるようなドブネズミに似た
灰色の毛並みの大きいネズミを見るなり、思わず絶句する。
そんな彼らに、ローレンツは笑って説明した。
「ははは、君たちは知らないだろうけれど、蛙は鶏肉に近いような味がして、結構美味しいんだよ?
このテワランオオネズミは、肉がしまってて、ちょっと脂っこいけれど、食い応えがあるよ。
もちろん、俺らが市街で見るようなドブネズミは感染を媒介するけれど、こいつはクリーンだよ。
遠征を繰り返していると、こういうのにもちょっぴり詳しくなるかな。」
サバイバルな経験をいくつも重ねてきたためか、通常では知り得ない知識をローレンツは豊富に持っていた。
しかし。
いざ調理となると……
「ちょっと、アンタの料理法は丸焼きしかないんかい!」
盛大にユリコの突っ込みが炸裂した。
丸焦げになったテワランオオネズミは、いささか美味しそうとは言えなかった。
「や、料理は正直あんまりしたことがないから、とりあえず火が通って食べられればいいかなと」
笑って誤魔化すローレンツ。
一方、クルルは山菜のあく抜きにやたら時間を掛けすぎ、山菜が煮込まれ過ぎてくたくたになってしまっていた。
「あのねぇ、どんだけ時間かけて火入れるのよ……
それに、そんな小さな実験皿じゃ、人数分煮込むのに時間かかるわよ……」
「山菜のアクはしぶといので、これくらいしないと取れないんです……」
そう言って出されるクルルの山菜煮込みは、もう何も味がしないと隊員たちの間で専らの酷評だった。
ユリコは仕方がないという風に、腕まくりをする。
そして懐から、刃渡りのある、鋭い片刃の刃物を取り出した。思わず隊員たちは尻込みした。
それは、ワダツミで包丁と呼ばれる、調理に使われる珍しい刃物だ。
「いいわ。食材を持ってきて頂戴。隊長はそうね、幾人かの兵士たちを引き連れて、河から水を汲んできて貰えないかしら?
クルル、火を起こせそうなかまどを、石組みでこしらえられる?
それに、ヒノキか樫の木の太い枝を切って、まっさらな広さのあるまな板……調理板を作ってくれるかしら。」
ユリコは隊員たちにてきぱきと指示する。隊員たちは急いで指示に従った。
彼女は鮮やかな包丁捌きで、食材を切り分けていく。
蛙や雉などは隊員がいくらか下処理をしておき、それを山菜と共に細かく切り刻み、山芋をつなぎとして入れ、つみれ状にする。
味付けは、近くの岩場で見つけた岩塩と、いくつかの香草だ。
機械部隊ならではの技術で、隊員たちは一枚の鉄板をあっという間に鍋の代わりに鋳造した。
それはとても大きな、隊員たちの分の材料が十分入る位の大きさの鉄鍋だ。
「ふふん。流石機械部隊ね。鉄の扱いがうまいものね」
ユリコはその加工技術に感心し、煮立たせた湯に食材を投入していく。
熱伝導が高い鉄の鍋は、効率的に食材に火を通していく。食材に火が通ると、いい香りが一面に漂ってくる。
調理の様子を待機して見ていた他の隊員たちは、思わず涎を垂らす。
「う、うまそうな匂い……!」
「まともな料理は久しぶりだなぁ……!!」
丸焼きな食材ばかりしか食べていなかった隊員たちにとって、きちんと手がかけられて調理された食物は久しぶりだ。
思わず感極まって涙を浮かべる隊員もいる。
程なくして、ユリコの特製山菜猪……ならぬ、蛙と雉の鍋が完成した。
わっと隊員たちの歓声があがる。
「まさか、こんな山奥で鍋が味わえるとは思っていなかったよ……!!」
鉄製の大きな椀に、各々の分が取り分けられる。
「おい、お前の肉入れ過ぎじゃねーか!」
「そっちはシイタケ余分に入り過ぎだぞ!!」
「あーもう黙らっしゃい!! 皆仲良く取り分けるの!!」
少しの量の差でぶーぶー文句を言う隊員たちを、ユリコは鉄製のおたまを振り上げながら叱りつける。
ようやく全員分が行き渡ると、ユリコは彼らを目の前にして、ゆっくりと言う。
「いい? この鍋は、山に生きる生き物や植物たちの命を分けて貰って、頂いているの。
その生き物たちの命を、有り難く頂戴しているのよ。
理解したら、手を合わせて『いただきます』と言いなさい!」
「はい! いただきます!!」
ユリコの号令の元、食事の挨拶を済ませると、隊員たちはユリコお手製のあったかい湯気が立ち上る鍋を
ほふほふと口に含み食べ始めた。
「う、うまい……!!」
口に入れた瞬間の、隊員たちのその幸せそうな表情と言ったら、戦線で大きな勝利を収めたかのような、
いい発明が出来たかのような、そんな達成感を醸し出すような、充実した満面の笑みだった。
「どう? 美味しい?」
「はい! うまい、うまいっすよ、ユリコ姐さん!!」
「ユリコちゃーん、また雉捕まえてきたら鍋作ってくれー!」
ユリコの威勢の良さの為せる技か。いつの間にか、自分の方が年下なのにも関わらず
名前に姐さんをつけられて呼ばれている事に、ユリコは少し苦笑する。
しかし、隊員たちの嬉しそうな笑顔に、ユリコはどこかくすりと微笑ましい気持ちを持っていた。
彼女に、すっかり隊員たちは馴染んでいたのだった。
そんなユリコに、ローレンツが楽しそうに話しかける。
「凄いじゃないか。これはお手柄だよ。
隊員たちの食の充実と満足感は、士気をおおいにあげる事が出来る。
尚且つ、毒になるものの鑑別も行えて、衛生面にも気を付け、食中毒のリスクを減らせた。
さらに、兵士たちに君の素晴らしい能力を見せて、君を不審がる彼らの信頼をまずは勝ち取る事が出来たじゃないか。
副官の最初の仕事としては、十分すぎるくらいだよ。うん、うまいうまい。」
そう言って、にこにこと蛙と雉鍋を口いっぱい頬張りながら、満足そうに微笑んだ。
「それはどうも。そもそも、ちゃんとした調理できる人材が居なかったってのも
これだけの規模の部隊としては問題だとは思うけどね……」
彼に褒められても、まだユリコはローレンツを信用はせず、憎まれ口を叩いてそっぽを向いていた。
しかし、彼の言う通り、隊員たちから信頼を得るというのも、悪くはない。
ユリコは、そう思ったのだった。
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はい! と言う訳で、篭ってお話書き上げていました!!
こないだのトピックコントを通して、百合子ちゃんとクシューシャたんを
無事、機械部隊にお迎えすることが出来ましたー!
こんな感じの内容になりましたが、いかがでしょうか?!
一部トピックの台詞を頂きつつ、若干修正をかけてやりとりを作ってみました。
アクセル君の過去にも少し言及してみましたが、はてさて。
訳アリの子についてズームアップしてみるのも、面白そうだよね!!
そして、百合子ちゃんといえば銃。そして料理!!
3ページ目の鍋のやりとりはめっちゃ楽しかった。うん!
新しい子も作ってしまったわ(笑)でも博識な子はいると色々と美味しいかなと!
ご意見、お待ちしております(笑)