戦地から再びカーディレット帝国へと戻ってきた、ハイデマンら機械部隊の面々は、早速協力を必要としている技術研究部へと赴いた。



様々な実験用具が立ち並び、白衣を着た人物たちが忙しなさそうに駆け回っている。

実験途中と思われるフラスコや試験管からは、ボコボコと得体の知れない薬品が蛍光色を放ちながら沸き立っており、

巨大な真空ケージの中では、虚空の中に雷が光っているかと思えば、その隣では燐光を上げて燃える炎が見えた。


「なんだコレ…… 訳わかんねぇのが、ガラスのケージの中で光ってんぞ……」

「魔法なんか馴染みが無いからなぁ…… 一体何の実験なんだろうな、これ」


研究実験の様子を見慣れない隊員たちは、皆畏怖の念を抱きながらその異質な光景を眺め、ひそひそと話し合っていた。


技術研究部に馴染みのないハイデマンは、その研究室から実験を行っている設備、実験台に載っている材料ひとつひとつに至るまで

手がかりになるようなものを一つたりとも見逃すまいと、つぶさに細かく観察して記憶に焼き付ける。



「こっちだ」


後ろから急に声を掛けられて振り向くと、そこにはくたくたの白衣を纏った、虚ろな眼差しの研究者が立っていた。



「遠路遥々御苦労、諸君。 私は技術研究部のデルタと言う。

 諸君らの協力を得たいという案件は、こっちにある。ついて来たまえ」


のそのそと、歩調ゆっくりと歩く彼に機械部隊の面々がついていくと、いくつもの実験機器が動く実験棟を抜けて

広い作業棟へと出る。そこには、彼らが扱い慣れた鉄の部品やら機械が数多く置かれていた。



但し、そこに置かれていた機械は、随分小柄ではあったが、彼らが今まで見た事のない形に組み立てられていたのだ。


数十年かけて育った大木を切り倒す電動カッターでも、岩を突き動かす巨大クレーンでも、狙いを外さない精巧な造りの銃でも、

爆裂的な威力を持つ破壊弾でも、ましてや灼熱の焔を噴き出す火炎放射器でもない。



この形は、まるで。



「デルタ殿、これは……」



戸惑いながら目の前に置かれた機械の正体を問いかけるハイデマンに答えたのは、デルタでは無かった。



「左様。察しの通り、機械で造られた兵士じゃ」



そこに立っていたのは、1人の老獪なる研究者だった。

帝国に勤める技術兵士ならば、誰もが知っているその姿。

機械と精霊技術の第一人者、ブロンデー博士だ。


彼の表情や指先にはそれまで彼が重ねてきた年月が幾重にも皺となり刻み込まれ、かつての姿より随分老け込んで見えた。



機械部隊の兵士たちはざわついた。人の手で造られた機械の兵士だなんて、前代未聞である。


「戦う兵士を、機械で生み出すだって……?!」

「聞いた事ねぇぞ、そんな技術……!!」

「よく考え付いたもんだ、そんな奇天烈な発明……」



しかし、ブロンデー博士と言えば、以前精霊使いを用いた研究で重大な失敗を犯し、上層部から身分剥奪・謹慎処分を受けていた筈だ。

その事は、機械技術と精霊使いに携わる者ならば、誰もが少なからず聞きかじっていた。

ならば、何故彼はここにいるのだろうか。



「……皆、どうして彼がここにいるのか不思議という顔をしているな。

 理由は至極簡単だ。この開発は、博士にしか出来ないからだ。」


疑問を浮かべた機械部隊の隊員たちに、デルタは、博士がかつて犯した失敗を承知の上で、あくまで淡々と答える。


よく見ると、黙して佇むブロンデー博士の両腕・両足には、重い鉄製の枷がかけられていたのだった。



「博士が手掛けたのは、命令によって戦う、鋼鉄製の機械兵士である。

 諸君にはこの製造作業を協力して貰いたい。」



帝国屈指の技術で精錬された鋼鉄を用いたその機械兵の人形は、重々しく無骨で、冷たい光を鈍く放っている。

この鉄で出来た物言わぬ機械兵士が戦場に立ち、敵兵と対峙する事になれば、その力は絶大なものだろう。

命令ひとつで躊躇なく相手を屠り、無差別に、命令が途切れるまで無尽蔵に戦いを繰り返す。



ハイデマンは、彼らが戦場に投入される様を想像し、背筋が凍るような恐ろしい未来を思い描いた。




テワラン・コリンドーネ合同軍との戦線で、思った以上に勝利を挙げられない事に業を煮やした帝国は

より成果を早急に上げる為に、一度見限った研究者を再び駆り出してまで、このような恐ろしい兵器の開発に踏み切ったのだ。


このような事態を、ユリコ特務やローレンツ隊長が知ったら、一体どんな顔をするだろうか。




「この機械兵士たちは近日中には戦線に送り込むことになる。

 一刻とて時間が惜しい。諸君、早速作業に取り掛かれ」



断る権利すらなく、機械部隊はただ黙って、その人造兵士の組み立て作業に早速取り掛かるしかなかったのだった。







「しっかし、随分細かい部品だな……」


事細かに複雑な回路が描かれた設計図を見て、難しい顔をする機械部隊の兵士。


「難しいのか?」

「しゃらくせぇ!! 俺たちの技術を舐めんな! こんなの朝飯前に作ってやんよ!!」


そんな彼に技術研究部の研究員が話しかけると、兵士は悪態をつき反論する。

細い導線やネジをいくつも組み合わせ、細かな部品を先の細いドライバーやペンチで調整していく。


実際、この複雑な機械兵士を組み立てる際にはかなりの熟練度を要し、技術研究部に所属する研究員だけでは

戦線に間に合わせるには圧倒的に人手が足りなかった。

そこで機械部隊の人員が応援として召集されたのだったが、常に戦場で機械を扱い慣れている兵士たちの腕前は見事なもので

研究者たちと遜色ない程の正確さに加え、耐久性・操作性・精巧性に至るまで、より精度の高い機械を組み立てていった。



「ここは機械の動力供給源となる要の部分だ。ここが脆いと、簡単に停止してしまう。

 戦闘への耐久性を上げる為にも、しっかりと組み立てて貰おう」


そう研究員が説明すると、機械部隊の兵士たちはまじまじとその部品を眺める。


機械兵士の胸部に配置されたそれは、帝国特製の充電池を更に改良したものだ。

外部からの衝撃に耐えうるように何重もの装甲で覆われ、カバーされている。



「充電池を用いるようですが、戦場での電力供給はどうされるのですか?」


兵士の1人が尋ねる。


「雷属性の魔法部隊兵士から協力を受ける予定だ。

 一度充電されれば長くとも1日は動ける筈だが、活動量によっては短縮される場合もあるからな。

 その為、作戦には常に魔法部隊の兵士を常駐させるつもりだ」


「うぇ…… あいつらの協力を得るんすか。やだなぁ……」


「仕方ないだろ。石油でエンジンの動く単純な機械とは、つくりも精密さも訳が違うんだからよ。」


魔法部隊、と聞いてしかめ面を浮かべる兵士に、もう1人の兵士が宥めに入る。

機械部隊と魔法部隊の仲の悪さは、帝国軍内でも有名だった。




「でも、複雑な命令はどうやってこいつらにこなさせるんですか。」


「特定の行動を、電子信号に換算した。

 電力供給源の近くに発信装置を埋め込み、電力供給によって常に信号が発信されるようにしてある」


電子工学に長けたデルタ博士によって、機械兵士はいくつもの複雑な命令を行えるように改良されていた。



「ははぁ……凄い技術ですね。流石技術研究部。

 俺たちは、ただ組み立てて動かすだけ、直すだけで、そんな細かな事考え付きもしませんよ」


感心して兵士は言う。しかし、デルタ博士はやや不服そうな表情だ。


「信号換算は俺の仕事だが、発信器を埋め込んだのはブロンデー博士のアイデアだ。

 しかし本来は…… オリジナルは、もっと精巧な造りなのだ。

 完成品は自分で考え、自分で行動する……自律した機械人形なのだ。」


「えっ?! それって凄くないですか?!

 わざわざ命令しなくても、自分で考えて行動するって……それってもはや、命を作り出しているようなもんじゃないっすか!」


自律機械人形、という驚くべき発明に、機械部隊の兵士たちはどよめきを上げる。


「正確に言うと、これはワシらの発明ではない。

 とある筋で手に入れた設計図を元に、我が国の技術を合わせて改変しただけのものなのじゃ。

 この機械人形のオリジナルの開発者はまさに天才じゃな……」


ブロンデー博士は、機械人形の開発者に思いを馳せて目を瞑る。



「この設計図に書いてある、動力源となる魔力蓄積鉱石は、我が国では採掘されない。

 エネルギーを蓄えておくシステムは独自に作らなければならなかったし、実行できる行動はプログラム化された信号だけだ。

 自律行動を行うには、到底その原理が分からないのだ……

 
 だが、上層部の求める機械兵士を作る上では、自律行動が行えなくても支障はない。

 戦闘の上では、恐怖心や離反の可能性さえ起こさない分、寧ろコントロールしやすいと言えるだろう」



自律行動を行う原理を解明できない事は残念だが、上層部にとっては、命令に忠実に従う機械が作られればそれで満足なようだ。

デルタ博士も上層部の意向に忠実に従い、それ以上の機能を望もうとはしなかった。


しかし、示される国のその方針に、ブロンデー博士の表情が僅かに曇ったのを、ハイデマンは見逃さなかったのだった。


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