ハイデマンらを説得する事により、一度失いかけた機械部隊の隊員の結束を、今一度ユリコたちは取り戻した。

そして、これからの戦いについて、隊員たちに呼び掛ける。



「さっきも言ったように、アタシは、この国の現体制に反対しているの。

 隊長がそうだったように、いくら戦線で奮闘しても、このままじゃ決して認められない。

 今アタシたちが戦うべきは、相対するテワランやコリンドーネじゃない。

 この国に病原菌のように巣食い、皇帝陛下を意のままに操っている連中よ。」


「それって、実質軍部を牛耳っている、司令部にいる将校たちですか?」


「それもそうだけど、今回の一件で隊長を連行した諜報部。

 明らかな謀反の意志ならともかく、連行の理由が小さすぎるわ。

 諜報部は、思想や考え方、作戦に至るまで細やかな情報提供を、ハイデマンたちに呼び掛けていた。

 帝国では珍しい、隊長の平和主義的な考え方に、寧ろ彼らは目を付けたのではないかしら。

 その思想は国に広がれば、より侵略を推し進めたい彼らの邪魔になる。そう思い、強制的に連行したのよ。」


「なるほど……」


彼女の推測に、隊員たちは納得した。ユリコは表情を暗くして呟く。



「先日、謀反の罪でクーデターを首謀し、処刑された将校も、実は平和主義的な考え方の持ち主と言われていたわ。

 皇帝を裏切るだなんて絶対あり得ない人よ。彼も、きっと嵌められたんだわ……

 だからアタシは、皇帝陛下を、この国の行く末を、あいつらの思惑から護らなきゃ……!!」



決心した面持ちで顔を上げると、ユリコは今一度、機械部隊の隊員たちを見渡し、告げる。



「……これからの戦いは、戦場で銃を放つ事より、より危険なものになるわ。

 だから、今後の戦いには、皆を無理には巻き込みたくはないの。

 撤退勧告も出ているし、戻りたい人は本国に戻っても全然構わないわ。

 それでも、共に戦う意志があるって人だけ、ここに残って頂戴。」



隊員たちは互いに顔を見合わせる。

ユリコの問いかけに、静かに答える1人の隊員の姿があった。



「俺は戦うぜ……」


それは、眼差しに闘志の焔をみなぎらせ、静かに闘争心を燃やしているアクセルの姿だった。


「俺は、カーディレット帝国に祖国を奪われた。

 それでも生きていく為に軍隊に入り、散々な目に逢いながらもなんとか生き残ってきた。

 軍も、国も、もううんざりだった……


 けど、そんな俺に生きがいを、生きる希望を与えてくれたのが、あんたたちだったんだ。

 あんたたちがこの国を変えてみせるって言うんならば、それについていく。

 俺は、あんたたちを信じるさ」



部隊にやって来た時から、全く自分を信用していなかったアクセルが、ユリコの事を信頼すると、真っ先に応えてくれた。

反抗的だった彼の口から、自分を信じるという言葉が出た事に、ユリコはただただ目を見開いて驚く。



「あーっ、ズリーぜアクセル!!

 俺だって、可愛くて賢くて、勇気のあるユリコちゃんについていく!!

 ユリコちゃんが困っていたら、俺の改造とこのチェーンソーの力で、活路を開いてやるぜー!!」


「もちろん、僕だって行きますよ。知識でサポートするメンバーも必要でしょう?」


ヒューイも身を乗り出して、勢いよく名乗りを挙げる。

手書きのメモがたくさん書き加えられた手帳を抱え、クルルもきりっと敬礼した。

そうして次々に隊員たちが共に戦う事を表明していく様子を、信じられない面持ちで、ユリコは皆を見渡す。


ユリコは、胸の内から熱い何かが込み上げてくるのを感じた。その眼には、涙が滲んでくる。

そんな彼女の様子を、お付きであるクセーニヤも嬉しそうに微笑んで見守っていた。隣にミハイルの腕をしっかりと掴んで。



そして最後にハイデマンが、厳かな面持ちで跪き、彼女に恭順の意を告げた。


「一度、貴方たちを裏切った身ではありますが……

 もし宜しければこの私も、帝国を新しく生まれ変わらせる戦いに、是非お供させて頂きたい。」


そう言い、ユリコの前に深く頭を下げる。


「勿論よ。宜しくお願いするわ。」


ハイデマンの申し出に、涙を拭ったユリコは、にっこりと笑って答えたのだった。







「……で、これからどうするんです? まさか勧告通り、このまま本国に帰るのですか……?」


隊員の1人は、これからの隊の動向をユリコに問いかけと、ユリコはふぅと溜息をついた。


「このまま帰っても、しょうがないわよねぇ…………

 帰った所で、司令部のお偉方には煙たがられる上に、進言できるような手柄も得ていないし。

 諜報部の連中は、アタシの脚を掬おうと虎視眈々と狙っているでしょうし。」


「特務の周囲、まさに四面楚歌ですね……どれだけ上層部に目つけられているんですか……」

「皇帝陛下に謁見できる身の上に加え、あの性格だ。そりゃ目つけられるだろうよ」

「何か言ったかしら、アンタたち?」


ユリコを待ち構える本国の上層部の、そのあまりの警戒ぶりに唖然とするクルルに、ぼそっとアクセルが耳打ちする。

そんな2人の会話を聞き逃さず、ユリコは耳聡く2人を睨みつけた。



「でも、ヘクターはじめ、大きな傷を負った兵士たちは、このまま戦線には残しておけないわ」

「それは私も同感です。更に我らの軍備は、銃弾は残り少なく、燃料も残り僅かな状況。

 このまま戦線に残るには、厳しい状況と言えましょう」


先の戦いで、肩を銃で貫かれたヘクターや、命に別状までなくとも、他にも深い傷を負った兵士たちが大勢残っていたのだ。

彼らを気遣うユリコに、ハイデマンも同意する。

しかしそれを聞いたヘクターは、肩に包帯を巻きながらも、抗議の意を示した。


「俺は大丈夫です! このまま戦線に参加させてください!!

 特務を狙う奴らから、この身を代えても特務を護らないと……!!」


「それは先の戦いで十分に果たして貰ったわ。ありがとう。

 ゆっくり身体を休め、また次に戦えるように備えるのも、ひとつの在り方なのよ。」


「た、確かにそうですが……」


ユリコに諭され、何か言おうともどかしそうに言い淀むヘクターに、ふとクルルが呟く。



「彼らは一旦本国で治療を受ける為に、医療部隊の元へ回されるでしょう……。

 ユリコ特務、もしこれから諜報部の動きを探り、司令部にもの申したいとお考えならば、

 本国の様子を詳しく探る事も、必要ではないですか?

 彼らに、その協力をお願い出来るのではないでしょうか?」


クルルのその提案に、ユリコたちははっとして頷いた。


「そうね……その通りだわ。

 アタシたちのように、司令部や諜報部をよく思っていない人も、もしかしたらまだいるかも知れない。

 呼び掛けて協力を依頼できれば心強いわ……

 それに、諜報部の動きも、少しでも調べておきたいわね。 ……ハイデマン、彼らとのつながりは、まだ生きてる?」


「はい。まだ我々の思惑は悟られていません。連絡路として、彼らとのやり取りはまだ可能です。

 それにこちらの本国への電信は、基本的に彼らに傍受されていると思ってほぼ間違いないでしょう。

 逆に、その電信を利用して、彼らにわざとこちらの情報を送ってやるのです」


「上々だわ。こっちを探ってくれたんなら、逆にそっちを探り返してやろうじゃないの。

 アタシたちの結束を甘く見たしっぺ返し、痛い程見せつけてやるわ」


状況が状況だというのにも関わらず、ユリコは不敵な笑みを浮かべたのだった。






早速、機械部隊は本国に連絡を取る。

負傷兵の引き上げの連絡と、今後の作戦行動を司令部から受ける為だ。


それまで軍の通信は、電信機による信号発信で行っていたが、機械の開発により音声でやりとりが可能になった。

これにより、迅速で複雑な連絡が可能になる。


通信機械のダイヤルやボタンを複雑に操作する通信兵のもとに、ユリコとハイデマンが控え、スピーカーに耳を聳てる。




「こちら、機械部隊所属・通信係。どうぞ」


「……こちらカーディレット帝国司令部・通信担当だ。

 貴官らには撤退勧告を送ったが、部隊の判断はどうなったか。」


「協議の結果、負傷兵をひとまず本国に送り返す事となった。

 テワランでは精霊使い部隊を確認したが、我々機械部隊への指令はあるか。どうぞ」


「今のところはない。精霊使い部隊からは、援軍の依頼はなく、我々もその必要はないと判断している、

 全員戻ってきても差し支えないが……

 もし余力があれば、2つばかり任務がある。


 1つは、テワランでまだ確認していない精霊使いの情報がある。その探索を依頼したい。

 もう1つは、本国にて技術兵が不足している。新しい技術開発を進めていると、技術研究部から依頼があった。

 機械の扱いに長けた貴官らの隊員を、そちらに回して貰えないだろうか」


「承知した。依頼に対しては、隊員たちと相談し、折り返し連絡する。」


「了解。一旦これで通信を終了する。」



交信を終えると、通信兵は機械のスイッチを切った。

スピーカーから耳を離し、ユリコとハイデマンは顔を見合わせる。


「例の風使いの探索と、新しい技術開発ね……」

「人工精霊使いが幅を利かせているこの状況で、新しい技術とは一体何でしょうな……?」

「技術研究部にはあまり赴いた事がないから、何を行っているのかは、詳しく知らないのよね……」


こんな時、ユリコはふと思い出す。

あの舞踏会でパートナーを務めてくれたジャックも、技術研究部で馬車馬のように働いていた。

どんな事を調べているのか詳しく尋ねた事は無かったが、少し話を聞いておくべきだったかも知れない。


今頃彼は、後ろ盾を失ったまま、まだあの陰謀渦巻く帝国で諜報活動に奔走しているのだろうか。

諜報部などに、捕まったりしていないだろうか。

彼と通じている国に、協力を依頼できないだろうか……


いや、今まさに目の前で敵対している国に、自分たちが戦ってきた相手に協力を求めるなんて、虫が良すぎる。




「……特務?」


ふと上の空になったユリコを、ハイデマンが呼びかける。その呼び声にはっとして、ユリコは我に返った。


「いえ、なんでもないわ。

 それより、技術開発の協力に応じてみましょう。そこで何を行っているのか知る必要もあるわ。

 早急に開発しなければならないような内容ならば、かなりの人数を要する筈ね……」


「ただ、先程も特務自身が仰ったように、特務は本国には戻るべきではないと思います」


「えぇ。だから、アタシはここに残るわ。

 本国の方の調査は、ハイデマン。貴方に託したいの。お願いできるかしら?」


「承知しました。私はもともと技術兵ですからな。あちらで何を行ってるのか、確認してきましょう」





隊員たちとの相談の結果、風使いの調査はユリコ、アクセル、ヒューイら一部の戦い慣れした隊員が担い、

本国にはハイデマン、クルルなどの技術と知識に長けた隊員が、負傷兵たちと共に送られる事となった。




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