2人を見送った機械部隊の面々は、自分たちの隊長の判断が果たして是か非か、未だ測りかねていた。


「あいつらを見逃したことで、折角手にしたチャンスを逃してしまったんじゃないか……?」

「いや。俺は隊長を信じる。人質だなんて卑怯な手を使って勝ったなんて他の仲間に知られたら、臆病者だって罵られるさ」

「そうかぁ? 他の部隊だって、今まで散々えげつない手を使ってきたって話じゃないか。どっこいどっこいさ」



「お前ら、好き勝手言うんじゃねえよ」


あれこれ言う隊員に、黙って聞いていたアクセルがびしりと言い放つ。



「状況判断をするのは、その部隊の隊長の責任だ。それを俺たち下っ端がとやかく言う事じゃねぇぜ。

 それに、今まで隊長が俺たちを裏切るような事があったか? 俺たちは隊長を信じればいい。それだけだ。」


どっかりと腰を下ろして、脚を組みながら構えるアクセルに向かって、

ヒューイが、先程までのシリアスな場に似つかわしくない程、明るい声で寄り掛かってきた。


「その通りさー! 俺たちが信じなくってどうするよ?

 だって、隊長の立てた作戦のおかげで、俺たち無事皆無傷で生還できたじゃーん!

 ユリコちゃんだってかっくいかったぜー! 敵の要をバキューン、バキューン!!

 向こうの親玉との一騎打ち、あれは最高に痺れたぜー!」


ヒューイが銃を撃つ仕草をまねると、他の隊員たちもそれに答えるように2人を褒め称える。


「あぁ! 息を呑むような一騎打ちとは、まさにあの場面の事をいうんだろうな!」

「ほぼ同時に構えた瞬間、向こうの銃を貫通して撃破!! まるで映画のワンシーンのようだったよ!」

「それも良かったけど、俺、あの捕虜になった少年兵に特務がかけた言葉が特に良かったなぁ……

 元気な顔を見せてあげなさいって、あったかいお袋さんのようでよ……」


兵士のひとりはユリコの言葉を思い出して、ほろりと涙を浮かべる。



そんな様子の兵士たちを見て、ハイデマンは溜息をつく。


「警戒するという事を知らんのか……はぁ……これだから若い者たちは…………」


頭を抱え込んでしまうハイデマンを、クルルが気遣う。


「確かに、捕虜を逃がす事で、こちらの情報をあちらに渡しかねない恐れもありますからね……

 しかし、隊長のあの判断は僕も驚きましたよ。彼らを切り札に、向こうと何か駆け引きをするものとばかり思っていましたから。

 彼らの潜入はいわば若気の至り。予測しなかった事にせよ、非はあちらにある訳ですからね」





部下たちが色々と憶測を巡らしている中、当のローレンツと言えば、珍しく皆と離れて、1人で静かに腰かけていた。

何だか、いつもの彼とはかけ離れたその様子が気がかりで、ユリコは彼に話しかけようと近づいた。



すると、ローレンツはその額や背中に大量の冷や汗を浮かべ、虚ろな表情ですっかり消耗していたのだった。

そんな見慣れぬ彼の様子に、ユリコは酷く驚いた。



「た、隊長……?!」


ユリコに気が付くと、ローレンツは疲れ切った笑みを浮かべて言う。



「ユリコか……

 気付いていたかい? 逃がした彼らの後ろに、彼らを救出しようと、コリンドーネの精鋭たちが控えていたのを。

 危なかった……残弾も底をついて、負傷者を抱えた俺たちじゃ、彼らの特攻をあぁでもしなければ防げなかったんだ。

 一番怖いのは、玉砕を覚悟した敵よりも、自分たちの味方をなんとしても助けようと果敢に挑んでくる兵士だからね。」



全く気付かなかった。あの2人を包囲した時には、既に自分たちに、コリンドーネの刺客による銃が向けられていただなんて。



「やってきていたのは、君が対峙したあの銃使いと同じくらいの歴戦の兵士だ。

 気配を全く感じさせない息遣い、その気迫。交渉次第では、いつ襲ってくるか分からなかった。恐ろしかったよ。


 ふふ…… 尤もらしい事を言って彼らを逃がしたけれど、その実情がこれだ。全く、情けない話だな。」


そう言うと、手のひらを頭に当てて、自嘲的にローレンスは静かに笑った。



「そこまで敵の接近を許したのは、アタシたちのミスだわ……隊長だけの責任じゃないわよ。

 どうして黙っていたの? 言ってくれれば、まだ残弾だっていくらかあったわ。あの2人を盾に、戦えた筈よ。

 貴方の実力だってそんなものじゃないでしょう? それとも、まさか……本当に戦うのが怖かったの?」



「あぁ、怖かったよ…… あのまま戦えば、君も、仲間たちにも、確実に犠牲が出ていただろうからね」


「…………!!」



ローレンツが最も恐れていたのは、敵の急襲そのものではなく、その攻撃によって仲間たちが葬られてしまう事だった。


「こんの……臆病者!! 指揮官がそんな有り様でどうするのよ!!

 もっと勇猛果敢に挑みなさい!!」


自分たちをこれほどまでに心配してくれる隊長の優しさに驚きつつ、指揮官としてあるまじき臆病とも取れてしまう姿勢に

ユリコはもどかしい気持ちを抱きながら、ローレンツを叱咤する。

すると、ローレンツはユリコからの罵倒を聞き、おかしそうに笑った。



「はは、臆病者か。確かにそうかもしれないな。


 ……俺は、常に皆が生き残れる方法を考えている。

 例え上層部からどんな評価が下されようと、どんな情けない戦い方をしたとしても、

 仲間たちが死んでしまう事なんかより、ずっとマシなんだよ。

 生き残ってしまえさえすれば、こっちのものなんだ。


 ただ困った事に、君たちは己の犠牲を恐れない。この機械部隊の名誉を守ろうとしてね。


 ……しかし、名誉がなんだというんだ。命より尊い物なんか、この世にはありはしないんだ。

 だから、俺は、臆病であろうと思う。誰に、何と言われようともね。」



そう言って笑うローレンツの表情は、切なくもたまらなく優しいものだった。



これも、一種の覚悟なのだろうか。



「頑固者ね……」




そんな彼に、ユリコはなぜか涙が浮かんでくる。一体、どうしてだろう。


どうして、彼はこんな所で、臆病者と罵られても、戦い続けるのだろう。




その答えは、言わずともユリコには分かった。



自分たち、機械部隊の兵士たちを、何者からも護る為なのだ。




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