3人の孤児たちは、時に笑い時にぶつかり合い、その度に互いの絆を深めながら逞しく成長していった。


やがて、3人が帝国軍に正式に入隊する日がやってきた。

ブロンデー博士の元で学び、機械の扱いに長けた3人は、帝国軍が管轄する製鉄発電研究所に配属されることとなった。



製鉄発電所は、その名の通り高温で鉄を溶かし、その熱を利用して蒸気を起こしてタービンを回し

莫大な電力を生み出す場所である。

製鉄によって作られた鉄は武器の材料となり、強力な帝国の兵力になる。

電力は様々な技術を発展させ、驚異的なエネルギーとなる。

また、電気を用いた技術が進歩するだけ、新しい軍備が生まれ、帝国軍の力を増大させていった。

まさにカーディレット帝国を支えている場所でもある。

そんな製鉄・発電作業には、正確で緻密な扱いが必要となり、少しでも慣れた作業員を必要としている。

3人にとってまさに適職の場であった。





「すっかり大きくなったね、3人共……見違えたよ」

「はつでんしょでも、しっかりはたらいてね、お兄ちゃんたち!」


寮父のユーリと、今年で4歳になる1人娘のマロンが見守る中、3人はぴかぴかに新調された帝国軍の軍服に身を包み

誇らしげに背筋を伸ばして、出立の挨拶をする。


「我々3名の第7期生は、寮父であるユーリ軍佐と第17訓練所の名に恥じぬよう、立派に勤め上げて参ります!」

マーキスがそう言うと、ウォルター、シンも右手を額につけ敬礼の姿勢を取った。

今や3人共、立派な帝国軍の一兵士に育ったのだ。








製鉄発電所での作業は、とても過酷なものだった。


5000℃にもなる高温の溶鉱炉を、常に燃焼させ続けるように石炭を供給し続けるのが、新入り作業員の作業だ。

それをたった30分続けるだけで、簡単に全身汗だくになる。


1日3交代、8時間ずつその作業は絶えず行われる。

あまりの熱さに、衰弱して倒れる作業員が続出する。その度に、若くて体力が有り余っていた3人が駆り出された。


「くっそ、こんな作業ばっかりやらせやがって……」

「むー……もっと技術的な仕事をさせて貰えると思っていたんだけどなぁ」

「文句言うな、これが新人の仕事だ。外で兵士として、他の国の人間を斬る役目よりよっぽどマシだろ」


汗だくのシャツを絞り愚痴をこぼすマーキスと、へとへとになったシンに対して、ウォルターは淡々と仕事をこなしていった。


ウォルターの言う通り、ここ数年帝国は各国への侵略を増しており、入隊したばかりの一般兵でも

最前線へ送られる事は度々ある事だった。

国民誰もが侵略戦争に肯定的かというと、必ずしもそうではない。

しかし、国の方針には誰も逆らおうとはしなかった。

規律を守るための厳しい監視が国中に敷かれ、軍に入隊すれば上の命令は絶対だったからである。


そんな中、技術職として工場内に留まり仕事を続けるのは、最前線で望まない戦争を強制的にさせられるより

よっぽど精神的に楽だったのだ。



しかし、その分技術職に対する軍部の目は軽いものだった。

技術職より、領地を奪い敵国を落とす、軍事行動を行う実戦部隊の方が、軍部ではより重要視されていた。

軍の中の同僚からも技術職は軽く見られており、馬鹿にされることも度々だった。


「見ろよあいつら、製鉄発電所勤めの奴らだぜ。奴ら、武勲を挙げるどころか汚れて石炭まみれじゃねーかよ、ハハッ」

「所詮、下級職だろあんなの。捕虜しかやんねーぜあんな仕事。よくやるよな」


通りがかりに、帯剣した連中からそう言われる事は多々あったが

その度マーキスが殴り掛かりに行こうとするのを、ウォルターが冷静に止めていた。


「言わせておけ、マーキス。あんな連中相手にするだけ無駄だ。」

「そうだよ。俺たちがやってる仕事だって、大事な仕事さ。」

シンも、マーキスを励ます。



ブロンデー博士も、技術職の地位を高める為、懸命に日々研究に励んでいた。

より高度な威力を放つ兵器の開発、電気を効率よく利用できる回路の改良……

しかしどれだけ功績をあげても、技術職は低い地位のままだった。

どれだけ技術に精通する若者を育てても、軍部ではただの技術者として使い潰されていった。






ある日、ウォルターは研究所で、ひとり佇むブロンデー博士を見かける。

ブロンデー博士は、開発したばかりの部品を目の前にして、ため息をついていた。


「どうしたんですか、ブロンデー博士。」

「おぉ、ウォルターか……お主に会うのは久しいな」

「そんなに大きなため息をつかれるなんて……何かお悩み事でも?」


ウォルターはさりげなく、ブロンデー博士に気を使わせないように尋ねた。


「はは、お主はいつも、相手が聞いて欲しいと思う、タイミング良いところで現れるわい。

 ……実はの。このまま軍で開発を続けていていいのかと、思うようになっての……」


「帝国軍の、ここ最近の侵略についてですか……」

「聡いのう。うむ、知っての通り、帝国軍は近年、侵略戦争の手をますます伸ばしつつある。

 軍部からはより大きな手柄を求められて、ますます強力な兵器を開発するよう依頼されるのじゃよ」


ブロンデー博士はそういうと、もうひとつ長いため息をついた。


「そういえば、俺たちより先に軍に、しかも士官学校に入学したというリリィ姉さんも

 近頃はすっかり冷たくなってしまったと、孤児院の仲間たちが話しています。

 特にジーナとは、最近衝突を繰り返すようになったと」


「あの娘は貴族出身じゃからな。上部の勢力争いに巻き込まれやすいのじゃろうて。

 もともと厳格な娘だったが、さらに厳しい判断をしなくてはならなくなるじゃろう……

 軍部に翻弄されるのは、ワシたちだけではなさそうじゃの……憐れな事じゃ」


士官学校に進学したリリアンの現状を憂い、ブロンデー博士は顔をしかめた。



「軍に携わるという事は、侵略する、即ち人を殺める兵器を開発するという事じゃ。

 ワシは、ここで生きていく為に、技術者として軍に勤めておる……

 が、ワシの開発した技術は、国を富ませるどころか、戦争に使われ、人の命を奪っていくばかりじゃ……」


そう嘆くブロンデー博士は以前より心なしか白髪も増え、ますます老けこんで見えた。

丸まった背中からは長年積み重ねてきたであろう苦労と、心の内にため込んだ責念の思いが漂っていた。

ずっとこの重苦しい気持ちを博士は背負っていたのかと思うと、ウォルターはいたたまれなくなる。


ウォルターは、そんなブロンデー博士の手をしっかりと握り、励ました。


「博士。俺は、博士の所でたくさんの技術を学んできました。マーキスも、シンもそうです。

 それは、間違いなく俺たちの生きる力になっているんです。

 技術が悪いんじゃないんです。使う人間の心次第なんだと思います。

 今は、帝国軍の侵略の手段として使われようとも、それ以上に人々の役に立つ技術にだってなるんですよ」


珍しく熱く語るウォルターに、ブロンデー博士は目を丸くする。

そしておかしそうに、しかしどこか嬉しそうに笑った。


「わはは、お主に励まされる日がくるとはのう。

 ……じゃが、嬉しいことを言ってくれるの。

 お主たちのような孤児でも、技術を身に着けることで生きる力をつけてくれれば

 ワシのやってきたことも、まんざら無駄では無かったかも知れぬのう」


皺の増えた目を細め、ブロンデー博士は逞しく育ったウォルターを見上げると、穏やかに微笑んだ。







3人は徐々に製鉄発電所での作業にも慣れ、石炭をくべるだけの仕事から、機械のメンテナンスも任されるようになった。

細やかで確実なその仕事ぶりから、任される仕事は日に日に増えていった。





この日は、初めて導入した発電機の試験運転の日だった。

ブロンデー博士が改良を重ね、今までの3倍の出力の発電が可能になる。

3人は博士の指示を受け、くまなくあちこち入念にチェックを入れる。


「モーター動作よし! 圧力開閉弁異常なし!」

「コード類も、焼き切れないように入念にチェックしろよ! なんたって出力3倍だ!」

「博士、ここの接続部のチェックお願いできますか!」

「今見てやるわい! ちと待っておれ……」


きびきびとした3人の動きを、ブロンデー博士は頼もしく眺めていた。




「電源を入れるぞー!!」

全ての点検作業が完了し、作業員たちが見守る中、合図と共に発電機が動き出す。




しかし突然、発電機は激しい音を立てて、回路から火花を散ら始めた。

予想以上に高すぎる電圧に耐えられず、部品が発火したのだ。


「!! 実験中止!! 電源を至急落とすのじゃ!!

 電圧が高すぎたか……」


ブロンデー博士は咄嗟に指示を出した。

電力供給源のコードを抜いても、予備電源により発電機は動き続けていた。

唯一電源を止める手段の、回路を遮断する緊急ブレーカーは、巨大な発電機の後方の部分についているが

ショートする火花が激しく弾けており、危険で近寄れなかった。


躊躇する作業員たちの中、マーキスとウォルターが駆け出した。


「ウォルター、後ろの方頼むな!」

「おうよ!!」


ウォルターがメンテナンスに用いる防護シールドで飛び散る火花を防御しながら、

マーキスが緊急ブレーカーのレバーに手をかける。


「バカモン、高圧電流じゃぞ!!」

「危険です博士!! 下がってください!」


そんな2人をブロンデー博士が血相を変えて慌てて止めに入ろうとするが、それをシンが隣から懸命に抑える。


ショートして加熱されたレバーはとんでもないくらいの高温になっており、

両手をかけるとジュウウと音を立て、防護手袋をしていてもその上からも更に皮膚を焦がした。


「ぐ……うぅぅ……っ!!」

歯を食いしばり、手が焼けるのも厭わず、マーキスは懸命にレバーを下ろそうと力を振り絞る。

博士たちは、2人の様子をただただ無事を祈りながら、見守るしか無かった。



その時、ショートした回路から切れたコードが、高い電流を流している状態で乱舞しながら、2人に襲い掛かった。




「2人共、危ない!!!」




ブロンデー博士が止める間もなく、彼は駆け出していた。


襲い掛かるコードから2人を庇ったのは、シンだった。

バチバチッという激しい音を響かせ、その身体には高圧の電流が流れ、辺りは眩しい光に包まれた。



「シン!!?」



なんとかブレーカーのレバーを引き落とし、発電機の動きが止まる。

マーキスとウォルターが駆けつけるのと同時に、

高圧電流を直撃したシンの身体からは煙が燻り、彼は意識を失い地面に倒れこんだ。


「おい、しっかりしろよ……!! 目を開けろ!!」

「返事をしろ!! おい、嘘だろ……心臓が止まっているじゃねぇか……?!」


2人が呼びかけても、シンは一向に目を開けようとしないどころか、ぴくりとも指を動かさなかった。

しかも、呼吸も脈も、全く止まってしまっていた。



「いかん、いかんぞシン……!! ここで命を落とすんじゃあない!!

 お前たち、心臓マッサージを今すぐ開始するんじゃ!!」

「は、はい!!」

動転し混乱するマーキスとウォルターの傍に、ブロンデー博士が真っ青な顔で駆け付け、指示を出した。



マーキスとウォルターは交代で心肺蘇生を試みるが、いくら心臓マッサージを繰り返しても一向に心拍は回復せず、

シンの名前を呼び続けるブロンデー博士の眼と声は、涙で滲み始めていた。


「何のために……何のために、ワシは機械技術を発展させてきたのじゃ!! こやつの命を奪う為じゃないぞ……!!」

「博士……」


拳を地面に打ち付け、ブロンデー博士は悔しそうに絶叫する。その拳は血で滲んでいた。





その時、博士の傍で暖かい光が弾ける。はっとしてブロンデー博士は呟いた。


「そうか…… electro cardio gram …… カルディオ!!」


ブロンデー博士が精霊の名前を呼ぶと、橙色の暖かい光が博士の指先に集まる。

その光を携えたまま、博士が物言わぬシンの身体に掌を当てる。


「こやつの止まってしまった心の臓を、今一度動かすのじゃ。

 お主の力が頼りじゃ……頼む……」


マーキスとウォルターが固唾を飲んで見守る中、博士の掌から眩い光と音が炸裂した。





ドクン。


シンの心臓は、再びゆっくりと動き始め、呼吸も戻る。


息を吹き返した様子に、3人は大きく安堵の息をついた。



「博士……やりましたよ……」

「チキショウ、冷や冷やさせやがってコイツ」


ほっとするマーキスに、憎まれ口を叩きながらも思わず目頭を熱くするウォルター。

そして、ブロンデー博士は心の底から安堵し、精霊に感謝の言葉を述べたのだった。


「良くやったわい……」






シンの回復を心から喜びあう3人の傍ら、その様子を観察する人物が居たのを、彼らは全く気付けずにいた。




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博士はずっと、人の命を奪う技術を開発した事に、責任を感じ続けていたのではないかしら。

例え、使い方ひとつで多くの人を助けられる技術だったとしても、
それが悪用される可能性も、多くの人の命を奪う事も、知っていたから。
それは、きっと研究技術者の逃れられない運命なのかもね。

件の事故はこんな感じです。奇跡を喜ぶ3人に、忍び寄る帝国の影。
話はまだまだ続きます。