ブリューゲルは、皇帝から賜った騎士剣を手に、グスタフとクレメンスの2人の将軍の前に立ちはだかった。


「……これはこれは、どういうお心算なのかしら? ブリューゲル将軍?」

彼の様子にさほど動揺を見せず、ゆっくりとクレメンスはブリューゲルに問いかけた。


「心算も何もないだろう。我々に剣を向けるという事は、明らかな反乱の意志の表れ。」

グスタフも、落ち着き払った様子でそう答える。



「皇帝のご意向に逆らい、友人だという単純な理由だけで、ユーリ軍佐と彼を護るささやかな護衛団たちについたという事だな。

 この実験が帝国にとってどれだけ重要かという事は、由緒正しき貴族出身の貴様もよく分かっているのだろう。

 ……その首が、飛ぶぞ?」


ユーリを捕らえに行こうとしていた足を止め、踵を返し、冷徹で凍るような鋭い射抜くような眼差しを、ブリューゲルに突き刺す。

一歩一歩踏みしめ近づきながら、同じくグスタフも懐から、鋼鉄の剣を鞘から引き抜く。

静かに放った言葉の端々からは、侮蔑と怒りが滲み出ていた。



「……私は今まで、極力人と争わず、正しい在り方で、穏便にこの国を変えていきたかった。

 しかし、それでは結局、この国は変える事は出来なかった……

 護りたかった筈の人を、護る事が出来なかったのです……」


目を伏せて、悲しそうにそうブリューゲルは呟く。


「それは貴様が甘いからだろう。目的を達成するためならば、強い意志と力が必要なのだ。

 相手をねじ伏せてでも押し通す、力がな。」


グスタフはそう一蹴し、鼻で笑った。


「相手をねじ伏せても、もたらされるのは偽りの平和。

 力でしか物事を解決出来ないようならば、帝国はいずれ滅びるでしょう……


 力で物事を解決するのは嫌でした……

 しかし、弁論だけでは、物事はいつまで経っても変わりませんでした……


 ですが、私の他にも、帝国の状況を嘆いている者、憂いている者たちが居る。

 変わらなければと叫ぶ者たちが居る。彼らを護る事こそ、私が今すべき事だと悟ったのです。

 戦うべき時に戦わずして、成り行きを見守っているだけでは、護りたいものは護れない。

 護るべき人たちの為に、私は今戦う」


凛とした眼差しで、ブリューゲルは剣を構えた。


「愚かね。そうやって滅びるのは、貴方自身だという事を気付きなさい」


嘲笑し、クレメンスも懐から鎖鞭を取り出すと、ブリューゲルを捕らえようと鞭を放つ。


クレメンスが放った鎖鞭を、ブリューゲルは剣の刀身で受け止める。


そこに別の方向からグスタフが剣を振り下ろすが、咄嗟にブリューゲルは左手をかざし、魔法陣を展開する。

ぐにゃりと空間が歪み、グスタフが下ろした剣の一撃は異次元へとつながり、彼に届かない。


一撃を与えられず、グスタフは思い切り舌打ちをした。


「闇魔法の一種、空間魔法の使い手か……!」


「焦ってはダメよ、グスタフ。 私たちは2人。じわじわと追い詰めていきましょう。

 折角、狙った小鳥が自ら罠に嵌ってくれたんですもの……ゆっくりと追い詰めなくては、ね。」


逸るグスタフを窘めながら、クレメンスはにやりと口元に笑みを浮かべた。








対峙する3人の影から様子を伺っていたウツセミは、大急ぎで状況をジーナに伝えた。


「なんだって……?! それこそ奴らの思うつぼだ!! くそっ!!」


ウツセミの報告に歯噛みするジーナは軍帽を被り直し、駆けだした。

隣を並走するウツセミの表情は暗い。


「ブリューゲル様は常日頃、己の力不足を憂いていらっしゃいました……

 マロン様が実験でそのお命を失われてしまった今、ユーリ様も巻き込まれる事は必至。

 今までのようにお立場を考えて行動を制限されて、それが足枷となって助ける事が叶わないならば……と

 御自らが盾となるべく動くまで、そうお考えになってしまったのでしょうか……

 止められず、申し訳ありません……」


「ウツセミのせいじゃないよ。ボクだって、陰からしか行動できず、悔しい思いだって何度もしたさ。

 それでも、この国をいつか変える事が出来る……そう信じて、今日までやってきたんだ……

 だけど、結局護りたかった人たちは、軍部や奴らの思惑に簡単に飲み込まれてしまう……マロンだってそうだ……

 兄さんが正しい世界をつかみ取れるって信じていたけど、現実はそう簡単じゃなかった。そういうことなんだろ……?」


そう呟き、己の非力さに沈みこむジーナであったが、きっと顔を上げて歯を食いしばる。


「……だけど、兄さんがそうまでして助けたいならば、簡単に奴らに刈り取らせちゃダメなんだ……

 それに、例の実験の事を小耳にはさんだけれど、植物を繁栄させる魔法だなんて体のいい事言っているが

 技術研究部では、対象に精霊を付加して、人工精霊使いを国の為にまるで奴隷のように働かせるつもりだ……

 そんな事、ユーリおじさんに負わせられるか! 彼らを逃がさなくては!」


「勿論ですとも。我々はその為の手足です」


ジーナの決意に、ウツセミも頷いた。




「……で、逃げだしたリツたちは、ユーリおじさんを連れてどこに向かっているのだろう。

 味方なんか帝国軍内には期待できないし、どこに逃げても四面楚歌だ。まさか国外へ脱走する気か……?」


「監獄のある収容塔から程なく近い所に、騎竜部隊のワイバーンの竜舎があった筈かと」


「ワイバーンを使って逃げる気か?!

 あいつらは気性が荒く乗りこなせるどころか、そもそも気まぐれで使い手の言う事だってきかない時もあるってのに……!」


ウツセミの助言に、ジーナは頭を抱えた。しかし困っているばかりにもいられず、ウツセミに呼びかける。


「仕方ない……! ウツセミ、竜舎へ連れて行ってくれ!」

「承知しました。さあ、参りますよ。」




ワイバーンといえば、カーディレット帝国の住まう竜の亜種で、その獰猛さは、人には簡単に懐かず

火を噴き爪をたて、乗り手にさえ怪我をさせてしまうほどであった。

訓練こそ行うものの、彼らを手懐けるのは至難の業だ。


但し、その飛行力は随一で、骨々しく痩せたその黒い羽根からは似つかわしくない、とても力強い飛翔力を持ち

カーディレット帝国から数百キロメートルも離れた隣国のテワランやコリンドーネまで飛行が可能であった。

故に、帝国の騎竜部隊はその能力を存分に発揮し、遠方までの国々の遠征に一役買っていたのであった。


陸路では、逃亡最中に夥しい数の帝国兵にあっという間に追いつかれ、囲まれてしまうだろう。

しかしワイバーンに乗って逃亡出来れば、捕まる事なく国外にうまく脱出できるかもしれない。

危険であるが、それが現在リツたちが思いつく、唯一にして最後の逃亡手段でもあった。





リツたちが竜舎に駆けつけると、竜舎の中には、何匹かワイバーンが待機していた。

見慣れぬ来客にワイバーンたちは首をもたげ、切り込みの入った瞳孔を鋭く細めてじっと彼らを睨む。

ぐるる……と低い唸り声をあげ、歓迎とは程遠いムードだ。


その迫力に、パイヴィッキは思わず顔を青ざめて尻込みする。


「ちょっと……こんなの、絶対乗れないよ……!!ってか、乗る前に指噛み切られちゃうよぉ……!!」


「うーん……噂には聞いていたが、ほんっとうにこいつら人馴れしなさそうだな……

 こりゃ、訓練で何十人か医務室送りになるのは、納得がいくな……」

「あのな、納得いってる場合じゃないだろ……クソっ、なんとかして手懐けないと……」


頭をかいて困り果てるマーキスに、突っ込みを入れるウォルターも、

自分たちを全く迎合する気のないワイバーンを前にして、途方に暮れてしまう。



そこに、タイミングを合わせたかのように、ジーナとウツセミが辿り着く。


彼らの登場にパイヴィッキは一気に警戒してしまう。


「諜報兵と官僚兵の制服……もう、追手がやって来たの?!」

「大丈夫だパイヴィッキ、あいつらは味方だ。後ろのベレー帽の奴は、さっき俺たちを助けてくれたんだ」


ウツセミの姿に気が付くと、少し安堵してウォルターはパイヴィッキに説明する。






2人を見るなり、リツは驚いて声を上げた。


「ジーナ、それに、ウツセミ?! どうしてここへ……」


「はぁ……詳細はウツセミから聞いた……随分好き勝手行動してくれたそうじゃないか……」


急いで来た為に息を荒げるジーナに、リツは頭を下げて謝罪した。


「巻き込んでしまって済まない、ジーナ……

 お前たちの邪魔にならないようにと思って行動したが、結局巻き込んでしまう事になってしまった。

 だけど、じっとしていられなくて……俺たちで、何かできないかと……なんとしてでも彼らを助けたいと思ったんだ……」


ジーナは息を整えながらも、目の前に本当に申し訳なさそうに佇むリツにため息をつき、その頭をぽんと撫でる。


「兄さんに随分似てきたじゃないか。

 ……いや、もともとキミ自身が優しいからこそ、兄さんと共鳴したのかもね……」


リツを眺めるジーナの眼差しは、問題を起こしたかわいい弟を宥めるように、優しいものだった。

その優しい声と手のひらの感触に、思わずリツは顔を上げた。


「本来ならば、キミが背負うべき重荷ではなかった。こうなる前に、ボクらがなんとかしなければならなかったんだ。

 だけど、誰も助けてくれない状況の中、キミはたった一人で、仲間を集めて、立ち上がってくれた。

 ボクらの大事なユーリおじさんとマロンを助けようとしてくれて、ほんとうにありがとう……リツ……」


「ジーナ……」


すると、リツの瞳から、ぽろぽろと涙が零れ出た。


自分で何とかしなければと奮闘し続ける孤独感を、リツはずっと抱えていた。

しかし、人工精霊使いの同志たちに支えられ、苦労を分かち合い、ここまでやってきた。

志を同じくする仲間が居るという事は、なんと心強いのだろう。

次々に止まらない涙を、ジーナは優しく拭う。


「はは、リツは意外と泣き虫なんだなぁ……」




しかし、いつまでも悠長にしている訳にはいかない。




ジーナは今の状況を、5人に端的に伝える。


「いつまでもこうしている暇はないんだ。てっとり早く伝えよう。

 まず、兄さんが今ここに来ようとしている、グスタフ将軍とクレメンス将軍を足止めしてくれている」

「な……っ?! ブリューゲルが、表立って対立したというのか……?!」


その状況を聞くや否や、リツは驚く。


「そんな事をしたら、皇帝への反乱だって、失脚させられるいい言いがかりになってしまう……

 やはり、俺が勝手に……行動してしまったのが間違っていたんだ……」


頭を抱え、激しく後悔するリツを、ジーナは落ち着かせるように優しく声をかけた。


「リツ……どうか自分を責めないでほしい……

 今までボクらは尻尾をとられまいと、密かに行動してきたけれど、それももう限界に近くなってしまったんだよ。

 今回の実験だって、急進的すぎる。奴らが、ボクらを陥れようと急に仕掛けてきたんだ。

 うかうかしていたら、今回のように、大事な人たちを次々と奪われてしまう。

 兄さんはそう思ったからこそ、キミたちを逃がそうと足止め役を今しているんだと思う。


 それに報いる為にも、ユーリをどうか無事にここから逃がして欲しい。

 ボクもそう思って、ここにやって来たんだよ」




訳の分からないまま青年たちに連れられてここにやってきたユーリも、ようやくその意図を理解する。


「まさか、これに乗ってこの国を脱出するつもりなのかい?!」

「そういうことだ。というか、それ以外俺たちには、ユーリを逃がす術は思いつかない。

 どれか穏やかなワイバーンを見つけて手懐け、もしくはその足にしがみついてでも、ここを逃げ出すんだ。」


問いかけにリツが頷くと、ユーリはますます語気を強めて人工精霊使いの少年たちを前にして叫んだ。


「そんな……孤児院にいる子供たちを残して、私だけ逃げるわけにはいかない!!

 実験に連れていかれた、マロンも迎えに行かなければ……!!」


しかし、ユーリが言い終える前に、リツは首をふるふると横に振って言った。


「……ユーリ、もう分かっている筈だ……マロンが、どうなってしまったかを……」


その場に居る、パイヴィッキ、マーキス、ウォルターも、視線を落として黙って俯く。




牢獄で見た、あのおぼろな若葉色の光が何を意味していたのか。

皆、分かってしまっていたのだった。



誰も話し出せずにいる所、静かにリツは語る。


「……これは、彼女の最期の意志なんだ。ユーリ、父親の貴方を帝国軍から護る事。

 彼女の意志を無駄にする気なのか……?」


「駄目だ!! ならば私だって、逃げるわけには……!」




涙を浮かべ、尚も反論しかけたユーリを、後ろからウツセミが手刀で気絶させる。



「……失礼。ですが、きっとこのお方は、提案に同意してくれる気配はなさそうだったので」


ウツセミはそう言って、気絶したユーリを抱える。


「ユーリおじさん!」


慌てるマーキスたちを、ジーナが制する。


「申し訳ないけれど、実力行使とさせて貰うよ。

 ……それにしても、キミたちは運がいい。竜舎に足を運んだのは、たまたまの思いつきだったんだろう?」


「そうだけど…… 一体どういうこと?」


話の意図が見えず、ジーナの話に首を傾げるパイヴィッキ。


返事の代わりに、ジーナは軽く口笛を吹いた。



すると竜舎の中から、柘榴石色の鋭い瞳孔を光らせた、体格のすらりとしたワイバーンが1匹現れ

ジーナの傍にやってきて、従順にその首を差し出したのだった。


「フランツィスカ、彼らをどこか良い所へ運んでやって貰えないだろうか」


主の願いに、そのワイバーンは素直に体を低くして、人が乗れるような態勢をとったのだった。

その様子に皆は驚く。


「まさか、獰猛なワイバーンをこれほど手懐けているとは……!!」

「手懐けているだなんて、大層なもんじゃないよ。ボクがひとりでいる時、彼がよく傍で話を聞いてくれたんだ」


ワイバーンの艶やかな漆黒の鱗を撫でながら、ジーナは笑いながら話した。


兄の代わりに軍部に身を置いていた時、ジーナは人があまり近寄らない竜舎によく足を運んでいた。

もともと動物が好きだった彼女は、ワイバーンを見る事が好きだった。

何度か竜舎に足を運ぶうち、動物から懐かれやすくもあった彼女に、ワイバーンから近づいてきてくれたのだった。


今では、その背に彼女を乗せてカーディレットの上空を飛ぶ事も、何ら困難ではなくなった。




それが、今回このような形で助けになろうとは、誰も予想だにしなかった。




「さて……フランツィスカに乗って、ユーリを国外へ連れて行って貰う訳だけれども……

 ボクはまだ帝国内でやらなくちゃいけない事が山ほど残っている。

 兄さんを助けないといけないし、帝国内で起きている事を、このまま見過ごすわけにもいかない。

 大丈夫、この子は賢いから、ボクが一緒でなくても、ちゃんと国の外へ連れて行ってくれるよ。


 そういう訳で、ユーリを連れて言って貰わなければならないんだが……キミたちに頼めるかな?」


ジーナがそう呼び掛けると、精霊使いの青年たちは、皆顔を見合わせて押し黙ってしまう。



その問いかけに、最初に口を開いたのは、ウォルターだ。


「……俺は、まだ逃げられねぇ。大事な人たちを残したまんまだ。

 俺を育ててくれたブロンデー博士、記憶を失くして訳も分からず実験に駆り出されているシン、

 あいつらをそのまんまになんかしておけねぇ」


すると、マーキスもそれに倣う。


「ウォルターの言う通り、俺も一緒には行けない。

 それに、ユーリおじさんが心配している孤児院の子供たちはどうするんだ……

 おじさんがいなくなれば、子供たちは軍が、それこそいいように実験に駆り出すだろーよ……

 あの子たちは、俺らが護んねーと」


パイヴィッキも続いて答える。


「私だって、まだここから逃げられないわ……! だって、大事な友達が残っているんだもの!

 あの子を1人ぼっちにして、私だけ逃げる訳にはいかないわ!」




すると、ウツセミは目の前に並んでいる精霊使いたちに問いかけた。


「ユーリ軍佐と共に、国外へ逃亡した方が、身の上では安全でしょう。

 しかし、それを拒む……それが、どういう事か分かっているのですか?

 皇帝の命に逆らって事を起こした貴方がたには、勿論厳しい処罰が待っている事でしょう……。

 事によっては、その命でもって償う事も課されるかもしれないのですよ?」


「分かってるさ……分かってるけど、それでも、自分だけ逃げるわけにはいかねーよ……」


俯いたまま、マーキスが呟く。

その後ろに並ぶ精霊使いたちも、皆その瞳に強い意志を灯していた。

彼らの意志を確認し、ウツセミは更に問いかけた。



「ならば、もうひとつ尋ねましょう。

 貴方がたは、自らが志半ばで倒れた時、護るべき人々がどうなるか、考えたことがありますか……?」



それは、突発的な、意表を突いた質問だった。

暫く青年たちが誰も何も言えないでいると、ふう、と溜息をついて、ウツセミは更に続けた。


「勇猛果敢に挑もうとする事は簡単です。

 ですが、それに失敗し、敵方に味方諸共、攻め滅ぼされる事を考えた事はありますか……?

 己自身が倒されれば、護りたかったものたちは、敵方に蹂躙されるのです。

 それは、ある意味死よりも耐えがたいものでしょう……

 そうされない為にも、何よりまず自分自身が生き延びなければならないのです。

 ……生き抜くという覚悟が、貴方がたにはありますか?」


ベレー帽で表情の見えないウツセミの、まるで射抜くような鋭い視線と、穏やかでありながらも覚悟を秘めた物言いが

まだ経験が浅く、失うという事の恐ろしさ、残酷さを知らない青年たちに突き刺さる。

その迫力に、皆息をのんで黙り込む。



「……故に、ブリューゲル様は弁論こそすれ、今まで表立って武力でもって対峙する事はありませんでした。

 それは、自らが倒されてしまえば、大切にしている者たちが危うい目に逢わされてしまう事を、よく心得ていたからです。

 しかし、今回、自ら剣をお取りになられた。そうされてしまった背景に、どのような思いがあったか……

 ……発起するという事は、それだけのお覚悟が必要という事です。分かりますか?


 護るべき者の為に、自らがまず死んでしまってはなりません。

 ここに残るという選択肢をするならば、何があっても、生き抜く覚悟を持つのです。」



「絶対、生き残る覚悟か……」




精霊使いたちは、己に課した荷の大きさに、改めて責任感の重さを感じるのだった。




誰もが口を閉ざす中、ウツセミに答えたのはウォルターだった。


「大丈夫、簡単にくたばったりしねぇよ。これでも悪運の強さは自分でも分かってる。

 だからこそ、今までこうして生き残って来たんだ。それに、俺たちはただ弱い存在じゃない。

 博士がくれた知識や技術だってある、訓練で身につけた、精霊魔法だってある。

 何が何でも、生き残ってやるよ」


「確かにな。やたらタフというか、しぶといというか。ゴキブリ並みの生命力だもんな」

「うっせぇ、ゴキブリ並みは余計だ」


そう突っ込んで笑うマーキスを、ウォルターは思い切り平手でおでこを突き飛ばした。





そんな2人を眺めながら、リツは物思いに耽っていた。



絶対生き残る覚悟


そんなものを、今まで感じた事は無かった。

いつ戦場で散ってしまってもおかしくない状況の中、自分の命をそれほど大事に感じた事は無かった。

もし戦いに敗れて命が失われてしまっても、それは仕方がない事だとどこか諦めていた。

命が惜しくないからこそ、果敢な戦いぶりをして、その度に敵を撃破出来た訳であったが。



だが、目の前に居る者たちは違う。


誰か護りたい人物が居る。

護り続ける為に、生き残ろうと思う。

故に、強く在り続けようとする。




人は、誰か護るべき者がいると、今以上に強くなろうとするのだろう。




リツは思い返した。

己の命をもってしても、生き残るという責任感をもってしても、護りたい人物はいるのか……


その問いかけに、答えられるような人物はいなかったのだ。




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