暖かい陽だまりの下で、たんぽぽが軒先のあちこちに咲く、穏やかな風情の武家屋敷。

そこは、歴史を護る為に日夜戦い続ける、審神者と刀剣男士たちが、己の拠点とする生活の場、

『本丸』と呼ばれる場所のうちのひとつである。


ここの付喪神たちを率いるのは、蒲公英の付喪神である、外見年齢5〜6歳程の小さな少女。

彼女の力の影響で、この屋敷にはいつもたんぽぽがあちこち咲いていた。





いつもは縁側で、幾人の小さな子供たちが声を上げ、蝶を追いかけたりして遊び回っているのだが

この日はしん……と静まり返っていた。

まだ青い桂や紅葉の、若緑色の葉が風に揺れ、さやさやと音を立てる様子だけが庭に響く。


そんな静かな昼下がり、縁側から見える奥の座敷からは、数人が困った声で何やら相談している声が聴こえてきていた。





「困ったね……お小夜が、食事を全く摂らないんだ」



この本丸の一番の古株である刀剣男士、歌仙兼定は溜息をつき、そう困った様子で呟いた。

その目の前には、綺麗に煮つけられた人参や里芋、ゆでたオクラなど、一見すれば食欲をそそられそうな料理の小鉢が並ぶが

彼が手にしたお膳は、手を付けられた様子が殆どない。





「珍しいですね。小夜君、歌仙さんのご飯は、いつもちゃんと残さず食べるのですが……」


隣で心配そうにしているのは、歌仙兼定の次にこの本丸にやってきた、五虎退だ。

全く手を付けられずに残っているお膳に、肩や頭に乗った5匹の虎の子と共に、首を傾げる。


ここの本丸の食事は、いつも歌仙兼定が担っており、優れた五感を持つ彼の手による料理は

腹を空かせた皆によってあっという間に平らげられ、残るという事は滅多にない。


特に、小夜左文字……2人が小夜と呼ぶ少年は、己の鍛錬に余念がなく、その小さな身体で

常に人の倍以上動き、修練を重ねている事もあり、食事はいつも残さず摂っていた。

それだけに、同じぐらい長く共に過ごしていた五虎退は、彼の様子の変化を殊更心配していた。




「お、それ、残ってんのか! じゃぁオレが食べていいよな?! ……あいたっ!」

「だーめ! もう、愛染は食い意地ばっかり張ってるんだから! それは小夜のでしょ!」


隣からひょいっとお膳に手を出して、里芋の煮つけをつまみ食いしようとした赤毛の少年、愛染国俊は

その後ろからやってきた長い髪の、美しい少女と見紛う少年、乱藤四郎に小突かれる。

お姉さん風を吹かせた乱藤四郎が、子供っぽさの抜けない愛染国俊を窘めるのは、この本丸の日常光景だ。




「小夜、もしかして夏バテか? 最近暑かったもんな」


白衣をひっかけた色白の少年・薬研藤四郎が、暑そうに手を団扇にしてそう言う。

確かに、8月も終わりだというのに、ここ数日ずっと暑い日が続いていた。



「この本丸は、越中国に存在している。

 越中国はその地形上の特性から、夏の間『フェーン現象』という気象条件によって

 気温が異常に高くなることがあるらしい」


「越中国って、大分北よりで冬雪もどっさり降るって聞いていたから、

 こんなに暑くなるなんて知らなかったよ……」


資料を読みながら説明する蜂須賀虎徹に、堀川国広はあまりの暑さにぐったりしながらそう答えた。

かっちり着込んだ蜂須賀虎徹の金色の鎧や、堀川国広の制服のような衣装は、

この酷暑の時期、彼らにとってはかなりの負担だ。



「そんな中、彼、ずっと続けて出陣したり、遠征し続けていたんです……

 疲れが溜まってしまわれたのでしょうか……」


いつも礼儀正しい前田藤四郎も、昨今の小夜左文字の様子を思い出して、律儀に心配する。

ここ数日の間休む間もなく連続して出陣し、合戦場や遠征に出かけていた姿を、彼は毎日見かけていたのだった。




「休まず出陣したら、それこそ疲れちゃうよ。でも、どうしてそんな無茶を……?」


隣で心配する信濃藤四郎の疑問に、歌仙兼定は何も答えられずにいた。

それは、小夜左文字がここの所暫く思い悩み続けていた理由を、知っていたからだ。






先日、江戸下町にて、夜空に打ち上がる花火の催しを時間遡行軍から護る戦いの最中。

まだ未熟だった短刀の少年たちを率いて、本丸の中で最も誉に輝き、その実力を見せたのが

この本丸に来てまだ日の浅い、信濃藤四郎だったのだ。


小夜左文字も、この本丸に顕現してからの月日は決して短くはなく、寧ろ五虎退と愛染国俊に次いでの古株だ。

戦場では誰より果敢に敵に挑み、その小さな身体を縦横無尽に走らせ、敵を切り裂いてきた。


しかし、あの江戸での戦いで最も活躍して練度を上げた信濃藤四郎に、先日の手合わせの際、

彼を前にして、小夜左文字は初めて地面に手をつかされたのだった。

それが悔しくて、己をより高めようと修行に明け暮れていたが、ここ数日間の暑さもあり

疲労を募らせて体調を崩してしまったようだ。





もともと寡黙で人との距離を開けたがる小夜左文字には、こちらから近づきすぎてはいけないと

前から知っていた歌仙兼定は、敢えて聞き出す事はせず、遠くから見守っていた。

だが、ここまで体調まで崩してしまっていては、そうも言っていられない。



「……強くなりたかったんだろう、お小夜は。その気持ちも、同じ刀剣男士ならば、分かるだろう?」


そう静かに告げる歌仙兼定に、他の幾人かの刀剣男士たちも黙って頷く。

花火の件を境に、小夜左文字の様子が変わった事に気付いていたのは、どうやら歌仙兼定だけではなかったようだ。



「しかし、無茶するな、って言っても、あの小夜の事だ。聞かなさそうだしなぁ……」


しょうがない、といった面持ちで薬研藤四郎も頭を抱える。

小夜左文字が己の信念に強情であり、自分自身に対してより厳しいという事は、本丸の誰もが知っていた。



「なんとか、せめて食事だけでも、彼を支えようと思っていたのだけれど、この有り様だよ。

 こんな時、実に無力なものだね……」


手を付けられない料理を目の前にして、歌仙兼定はもう一度深く溜息をついた。






「皆、お困りのようだね?」



集まった刀剣男士たちの元に、襖を開けて部屋に入ってきたのは、厨にいた燭台切光忠だった。



「燭台切……!」


「小夜ちゃんが、夏バテでご飯を食べないんだって? それは心配だ。

 好物の君の料理にも手を付けないというのは、本当かい?」


燭台切光忠の質問に、表情を翳らせて歌仙兼定が答える。


「あぁ、昨晩から、ずっとだよ。」

「うーん。それは困ったね。

 ちょっとその料理を見せてくれるかい……? ふんふん、なるほど……」


料理の載ったお膳を受け取ると、燭台切光忠はそれをしげしげと眺める。



歌仙兼定と同じく料理を得意とする燭台切光忠は、和食だけでなく洋風料理も嗜んでいた。

それらの料理が出されると、本丸の皆は大層珍しがって喜んでいた。

洋風料理や、それを扱う電気機械に苦手意識を持っていた歌仙兼定は、そんな皆の様子を見ると

寂しい気持ちを少なからず抱いていたのだった。



そんな歌仙兼定の様子を前から気にかけていた燭台切光忠は、少し遠慮がちに、彼にとある提案をした。



「……気を悪くさせたら申し訳ないけど、小夜ちゃんの料理、僕に任せて貰えないかな?

 こんな時にぴったりの料理があるよ」


「あ、あぁ! 勿論さ。お小夜が元気になるんだったら、是非お願いしたいな」


燭台切光忠の申し出に、彼に気を遣わせてしまった事を恥じ、歌仙兼定は慌ててそう答える。

小夜左文字を心配する気持ちは、燭台切光忠も同じなのだろう。


こんな時、己の無力さばかりを悩んでいる場合ではない。同じ本丸の刀剣男士同士、協力し合わなくては。

近侍として仕える事の多い歌仙兼定は、改めてそう思い直したのだった。








厨に立つ燭台切光忠が取り出したのは、ガラスの大きな筒のような機械だ。


「これは一体なんだい?」


不思議そうに眺める、歌仙兼定はじめ本丸の刀剣男士たちに、燭台切光忠は詳しくその機械の説明をする。


「これはね。ミキサーっていう機械だよ。

 これはとても便利なんだ。あらゆる食材を、細かく刻んでしまうことが出来るんだ」


「ほおぉ!! それはまた、何とも便利な機械じゃの!!

 ほいたら、どんな食材でも、何でも細か〜く砕きゆうがか?」


新しい物、物珍しい物には目がない陸奥守吉行が、目をきらきらさせながら目の前の機械を眺める。

一方、歌仙兼定はそのミキサーと呼ばれた機械を胡散臭そうに見つめ、ぼそりと呟く。

やはり見慣れない機械は苦手なようだ。


「原型もなくかき混ぜてしまうなんて、食材の本来の良さを全く無視してしまうじゃないか……」


「まぁね。確かに、使いどころが重要なんだと思うよ。

 折角の食材本来の色形、香り、歯ざわりなども、ミキサーは無視して全部一緒くたに砕いてしまうからね」


歌仙兼定の呟きに、燭台切光忠もやや苦笑しながらそう言った。



「でもね。だからこそ便利な点もあるんだよ。薬研君、小夜君は夏バテって言ってたよね?」


「あぁ。さっきも様子を見てきたが、食欲もあまりないようだ。麦茶ならまだ飲めるようだがな。

 他に全身のだるさ、やや微熱がある所も見ると、疲労と暑さで弱ってると見るのが妥当だろう」


薬研藤四郎は、先程見てきた小夜左文字の様子を伝えた。



「暑さや疲労は、胃腸を弱めてしまうんだ。そんな時は、どれだけ食べようとしても、食欲自体が湧かない。

 無理に食べようとすると、消化不良を起こしてかえって辛いんだよ」


「成程、だから小夜はあまり食事には手をつけたがらなかったのか」

「ほ〜〜、よう知っちゅうのう!!」


燭台切光忠の知識に、薬研藤四郎や陸奥守吉行は思わず感心して唸る。



「そんな時、このミキサーがあれば、液体状にしてくれる。本来噛み砕いて消化する所を、補って助けてくれるんだ。

 鯰尾君、あれを持ってきてくれるかい?」


そう言い、蔵から取り出してきて貰ったのは、畑で採れたばかりの南瓜だ。


「俺たちが今日採ったんだよ! みて、いい南瓜でしょ?」

「うんうん。いい色ツヤだ。今、美味しく調理してあげるからね」


鯰尾藤四郎が得意そうに南瓜を抱えてくる。

燭台切光忠が包丁を取り出すと、南瓜の皮を荒く剥いて細かく砕き、鍋に入れてひと煮立ちさせる。

そして、南瓜が柔らかくなったところを引き上げ、ミキサーに牛乳と共に入れてスイッチを押した。


突然、うぃ〜〜〜〜ん……という不可思議な音を立てて動き出すミキサーに、刀剣男士たちはびくっと驚く。


「まっはっは!! こりゃまっこと面白いのう!!」

「すご〜〜〜い!! 南瓜があっという間に、水みたいになってく……!!」

「一体、どういう仕組みになってんだこりゃ??」



ミキサーに入れられた南瓜があっという間に潰されていく様子を、皆興味津々に覗き込む。

そうこうしているうちに、滑らかな南瓜のペーストが出来上がる。


それを目の細かい笊で丁寧に裏ごしして、更に牛乳を加えて軽く塩を振って味を調え、

燭台切光忠は、それをもう一度鍋で温め直す。



「ほら、出来たよ。南瓜のポタージュだ」



優しい香りの湯気が立つ、温かい南瓜のポタージュの完成だ。


「うわぁ……! いい香り! そして、綺麗な色ですね!」

「これだったら、小夜も飲めそうだな」


まるで蒲公英の花のような鮮やかな黄色のスープに、大好きな主を思い出したのか五虎退も嬉しそうだ。

薬研藤四郎も、その出来栄えに納得だ。


「どれどれ、ひと匙……うん!うめーなこれ!」

「こらー! 小夜より先に飲んじゃダメでしょ!!」

「さ、小夜がちゃんと飲めるか、味見をだな……!」

「まったくもう、愛染は食いしん坊なんだからー!」


ちゃっかりと味見をする愛染国俊を、乱藤四郎がまた叱り飛ばす。



「さ。小夜ちゃんに持って行ってあげて、歌仙君」


「え……? だってこれは、君が作った料理じゃないか。君が持って行った方がいいんじゃないのかい……?」


突然の燭台切光忠の呼び掛けに、歌仙兼定は戸惑って躊躇する。

しかしそんな彼に、穏やかに微笑んで、燭台切光忠は静かにこう告げた。



「……彼が食べないのは、夏バテだけじゃないんじゃないかな?

 一番弱ってる時に、その姿を見せられるのは、誰よりも長く傍に居た君をおいて、他にはいないよ。

 僕より、君の方が適任さ。きっと食べてくれる筈だよ。

 だってそれは、畑当番が苦手だって言ってた君も一緒に、皆が頑張って育てた南瓜じゃないか」


そう言いくすくすと笑う燭台切光忠を、憮然とした表情で歌仙兼定は睨みつけた。


「その一言は余計だな」

「ごめんごめん。でも、南瓜は、ここの本丸が出来た時に最初に植えた野菜って聞いたからさ。

 君たちをきっと、助けてくれる筈だよ」


すると、気を取り直し、ふっと笑って、歌仙兼定は燭台切光忠に礼を述べた。


「……君のおかげで、お小夜にいいものが届けられそうだよ。ありがとう」

「どういたしまして」


そんな二振りを、他の刀剣男士たちも、嬉しそうににこにこしながら見守っていたのだった。











「お小夜? 入るよ」


そっと襖を開けると、そこには布団に横たわったままの小夜左文字と、その隣で心配そうに付き添う彼らの主、

蒲公英の付喪神である、審神者の少女の姿があった。


「歌仙さん……」


心配そうに小夜左文字を見守る主に対して、歌仙兼定は燭台切光忠から受け取った料理の載った盆を隣に置く。


「お小夜、いいものを持ってきたよ。これなら、食欲の湧かない君でも食べられそうだ。

 さっきの料理ほど食べにくくないから、試して御覧?」


「……いらない。欲しくない」


布団に横になったまま向こう側を向き、視線も合わさずに、そう小夜左文字は突っぱねた。

隣に座していた審神者の少女が、おろおろしながら彼らに懺悔する。


「御免なさい。私が、小夜君を頑張せ過ぎたのがいけなかったんです……

 強くなりたいからって彼の言うまま、止めないで、遠征に出陣、次々とお願いしてしまったから……」


「落ち着いて主。主もお小夜も悪くないよ。

 強くなりたいって願ったのは、お小夜自身の意志なのだから。

 ただ、少しばかり無茶をしてしまった、そうだろう、お小夜?」


優しく問いかける歌仙兼定に、小夜左文字は布団に顔を埋めたまま、何も答えない。



「……先日の手合わせの事を、気にしているのかい?」


そう告げると、小夜左文字はびくりと大きく肩を震わせる。

そして、ゆっくりと震える声でこう答えたのだった。


「……戦っても戦っても、どうしても越えられない……

 戦う事が僕の価値だというのに、その価値がなくなったら、僕はどうすればいいんだ……?」


「そんな、小夜君……!!」


半ば憔悴しきったような顔で、布団から顔をようやく出した小夜左文字の瞳は

まるで全てに疲れた様子で血走り、輝きを失せていた。

隣に座る審神者の少女は、そんな彼の様子を見て、尚言葉を詰まらせてしまう。





そんな中、歌仙兼定がゆっくりと思い出すように、ぽつりと呟いた。



「そうだな……僕も、ずっとそんな事ばかり考えていたよ」



その言葉に、小夜左文字はゆっくりと顔を上げた。



「知っての通り、僕は最初に顕現された刀として、主の元にやってきた。

 そして、次々に仲間が増えていく事は嬉しかったと同時に、不安でもあった。

 僕より、より優秀な刀が現れた時、皆を率いて戦うには、僕では力不足ではないかと。

 主の傍にいるには、相応しくないんじゃないか、ってね。


 もともと人見知りで、人付き合いもあまり上手くない僕だ。

 戦闘だって、作戦を練るのもあまり得意でないから、力任せに挑んで皆を傷つけさせてしまう事も多い。

 そんな中、より頼りがいがあって、きちんと戦略を練って、皆をしっかり率いる刀剣たちが来たら、

 主の傍で皆を纏めるのは、寧ろ彼らの方がいいんじゃないかってさえ、思ってしまったんだ。」



かつての自分を思い出し、やや自虐的に寂しそうに笑って、それまで誰にも話してこなかった気持ちを

歌仙兼定は、初めて自分の本丸の同志に打ち明けたのだった。


そんな話を初めて聞いた小夜左文字は、少し驚き、目の前に佇んでいた歌仙兼定を見上げた。


今まで小夜左文字が見てきたこの本丸での歌仙兼定は、人見知りだったり畑仕事を嫌がったりする、少しばかり情けない所はあるが

いつだって落ち着いていて、主や仲間の為に身を挺する強さと、包み込むような優しさとを併せ持った、頼れる存在だった。

不安な所を見せた所など、今まで見た事も無かった。



それが、このように不安に駆られて日々過ごしていただなんて、誰が思おうか。



「だから、今のお小夜のように、寝る間も惜しんで鍛錬を積み重ねたものだよ。

 負けてはならない、後出の者に抜かれる事があってはならない……と。

 知っての通り、戦いだけじゃなく、料理にかけてだってそうさ。

 燭台切が来た時は、僕も随分焦ったなあ。彼の作った西洋料理をみたら、皆いい表情をするのだから。

 おまけに、畑当番も僕と違って、積極的に行うだろう。尚更、比べたものさ。

 僕の存在価値は、どこにあるのか、ってね」



寂しそうに笑った歌仙兼定の手を、審神者の少女が、

そして小夜左文字も、ぎゅっといつの間にか握りしめていた。


「そんなことありません……! 私、歌仙さんのつくったごはん、大好きです……!!

 歌仙さんが傍にいなきゃ、嫌です……!!」


泣きそうな顔をして、審神者の少女が懸命に言う。


すると、小夜左文字も、顔を伏せたまま震える声で言った。


「御免……あの時は、燭台切と比較するような、酷い事言って。

 僕も、歌仙の料理、好きだよ…… いつも、ほっとするんだ……

 だって、僕らの一番最初の食事は、歌仙がつくってくれたじゃないか……

 忘れる筈ないよ…… 僕ら5人だけで囲んだ、あの日の食卓……」



2人の言葉に、本丸が出来たばかりの頃を思い出し、歌仙兼定も思わず眼が潤む。

本丸が出来て日が浅く、顕現した仲間が少ない中、互いに助け合って過ごした日々を思い出す。




「ありがとう、2人とも……

 ……ね? 強さばかりが、全てじゃないんだよ。こうして、必要としてくれる人がいる、大事な仲間がいる。

 決して、皆の中の1番じゃなくてもいい。かけがえのない1人であれば、いいんだ。

 ……まぁこれは、とある方に諭されて、僕も気付いたことなんだけどね。


 お小夜、それは君も同じだよ。僕らにとって、君はかけがえのない1人なんだ。

 だから、これを食べて、君には元気になって貰いたいんだ」


そう優しい言葉と共に添えられた、温かい蒲公英色のスープを改めて眺めて、小夜左文字は目を見張る。



「これ、歌仙がいつも作る料理じゃない……!」


「そうだよ。これはね、燭台切が作ってくれた、南瓜のポタージュっていう料理なんだ」



和食にこだわりのある歌仙兼定らしくない料理が出てきた事に、小夜左文字は驚いた。

料理は彼のポリシーの一つだ。流派の違う相手を認めるような事は、頑固だった今までの彼にはありえなかった事だ。

ましてや、自分が作った料理でなく、張り合っている相手が作った料理を持ってくるなど、尚更だ。


そんな小夜左文字の様子に気付いた歌仙兼定は、少し苦笑しながら穏やかに振り返った。



「……彼に教わったよ。自分1人じゃ出来る事なんて限られているって事をね。

 自分1人だけの力に固執しすぎたら、助けられるものも助けられない事があるって、気付いたんだ。

 でも、協力し合えば、こうしていい知恵を借りて、困ってる仲間を助ける事も出来るんだってね。


 お小夜、僕たちのためにも、早く元気になっておくれ」



歌仙兼定は、そう言って、花のようにふんわりと微笑んだ。






小夜左文字は、やや力の入らない手で匙を握り、まだ湯気の残る温かい南瓜のポタージュをゆっくりと口に運んだ。

ひとくち入れると、南瓜の優しい甘さが、口いっぱいに広がる。


そしてそれは、初めて本丸で作物が採れた時に、歌仙兼定が作ってくれた南瓜の煮物と

同じ優しさに満ちていたのだった。



「おいしい……」


思わず、そう溢していた。

それを聞くや否や、歌仙兼定も、ずっと傍で見守っていた審神者の少女も、花が綻ぶ様に笑みを浮かべた。



「よかった……! さぁ、ゆっくりでいいから、もっとお食べ」

「おかわりが欲しかったら、私持ってきます!」

「主を働かせるわけにはいくまい! 僕が持ってくるよ……!」


「ちょっと2人共、僕まだ食べ始めたばかりだよ……もうちょっと待っててよ……」



ようやく食べてくれた事、そしておいしいと言って貰えた事がよほど嬉しかったのか、

歌仙兼定も、審神者の少女も、いそいそと次の一口を勧めてくる。


そんな2人の様子をしょうがないと言った風情で、

しかしどこか愛おしそうに、小夜左文字は眺めていたのだった。






ようやく書けました!! 初・刀剣乱舞 DE 親馬鹿話!!

どんな題材で書こうかなーと悩んで悩んで、折角なのでこないだ実録日誌で書いた
経験値抜かされて悩む小夜ちゃんを題材に書こうかなと思いました。
ついでに、料理でライバル心燃やしてる歌仙さんも(笑)

素材はちょうど今日のお昼ごはんで作った、南瓜のポタージュみてたら
ぴーんと閃きました。うん。インスピレーションの勝利!!
ってか、料理してたら勝手に歌仙さんと燭台切兄さんが会話始めたんだよ、脳内で(笑)
親馬鹿脳って、こういうことあるよね。キャラが勝手に会話しだすの(笑)

でも張り合うと同時に、同じ本丸で主の為に戦う仲間なので、
仲間って大事だよ、1人だけじゃ出来ない事もあるんだよ、というテーマで書きました。

一人称・二人称とか呼び方とか若干怪しい所もあるけれど(汗)
まぁ適宜見つけ次第、修正掛けますー。

や、難しかったけど、楽しかったー!!