それは、畑仕事を終えてくたくたになった、同田貫正国のひとことから始まった。
「はぁ〜〜…… 抜いても抜いても、次から次へと生えてくる……
全くキリがねぇな……」
「あだだだだ、腰が…… 悪いけど、湿布貼って貰えます?」
共に畑当番だった明石国行の腰が悲鳴を上げている。
非番の時はいつもぐうたら寝転んでいる彼には、この労働量は堪えたようだ。
「明日は雨だから、降ったらまたにょきにょき生えてくるね」
「ちょ、蛍丸、もう少し優しくしてーや……」
「ひぃ、また生えるの……!? もうこれ以上勘弁して……!!」
明石国行の腰に、べっ!と湿布を貼りつけながら、淡々と明日の天気予報を話す蛍丸。
それを聞いた、明日の畑当番の村雲江が、悲鳴を上げた。
「政府が発行している農薬を使えば、簡単に雑草を生えないように出来るのにね」
「それはならん。あれを使えば、主にも危害が及んでしまうからな」
雑草を一網打尽に出来る農薬の使用を、大和守安定が提案するが、
その提案は即座にへし切長谷部に却下されてしまう。
それもその筈、彼らの主は蒲公英の化身。野に咲く植物なのだ。
「畦道のレンゲやシロツメクサも、見られなくなってしまいます……
それは寂しいです……」
「ほら、秋田もこう申しておりますし」
野の花を見つけるのが好きな秋田藤四郎が悲しそうに呟くと、すかさず兄である一期一振が援護する。
「それに、できれば自然のままの、身体に優しい作物を、皆には食べて欲しいなぁ」
「我々の労働と引き換えですがね」
「当然にゃあ。働かざる者食うべからず!」
「有機農法がどれくらい有益なのか、まだまだ実験の余地はあるしね」
「ここには畑マニアしかいねぇのか……」
無農薬・有機栽培を推奨している燭台切光忠の意見に、
自然派で畑が大好きな陸奥守吉行も歓迎する。食のための苦労を厭わないようだ。
最近、畑や農薬について研究の範囲を広げ始めた南海太郎朝尊も、興味を持って隣で話を聞いている。
それを聞いてげんなりしたのは、2人の保護者役として、苦労を日々味わっている肥前忠広だった。
「でも、畑はまだいいけど、田んぼの雑草抜きどうするの……
男士増えたからお米収穫するのに田んぼ増やしちゃったばかりでしょ……」
「そういえば、そろそろ気温も20度を超えるようになってきたし、
大分苗も定着してきたから、水をそろそろ抜いても良い時期か。
一気に増えそうだな……雑草……」
「田んぼは畑と違い、足元がぬかるむからなぁ……大変だよね……」
蒲公英本丸の水田は、刀剣男士たちの人員増加に伴い、この春から作付面積を大幅に増やしていた。
広すぎる田んぼを思い浮かべ、乱藤四郎と信濃藤四郎は、思わず表情を歪める。
「トラクターと田植え機、コンバイン一式買うのを許したのどこの誰よ?!
おかげで田んぼの広さがえげつねぇ事になってるんですけど?!」
「白い飯が腹いっぱい食えるなら、いいぞ」
「あの作業量を見て言ってる?!
ぬかるみまくった水平線の如し広すぎる田んぼに、お前を埋めてやろうか!!」
「まぁまぁ……皆で頑張りましょうか……」
「ホントはハーベスタも欲しかったんだけどね」
「なぁ桑名、頼むから今少しだけ黙っててくれん……?」
桑名江の提案から、稲作作業を楽にするために、機械を導入することを本丸内でしばし揉めたが
あの広さを人力だけで行うのには限界が出てきて、結局導入する事に決めた。
そして水田の面積は、結果、更に広がっていったのだった。
労働量の増加をぼやく一方で、収穫量アップを歓迎している、
白い布を目深に被った、食いしん坊な男士もいるようだが。
追い打ちに、桑名江が新たな機械の導入を希望しようとするのを、
隣にいた豊前江がなんとか押しとどめた。
「植えるのと刈り取るのはラクでいいが、あれは雑草抜きはしてくれないからなぁ……」
「だから、田植え機買うなら、多機能型のやつにしようって言ったんだよ。
あれには、雑草を駆除する機能もついてるから」
「予算が…… 予算が足りんかったばい……」
「もう畑当番なんか言ってないで、本丸総出で雁爪持って草取りしないと駄目だにゃ……」
「苗を植える前に、トラクターで雑草の根をずたずたに引き裂くと、生えてこなくなるらしいよ?」
「お前……その話、主の前で絶対にするなよ……泣くから……」
「そしたら、初期刀に万死されちまう……」
雑草取りまでしてくれる高品質の田植え機は、予算の都合上泣く泣く諦めた。
結局のところ、雑草抜きという一番の重労働の予感をぼやく南泉一文字。
そこに、小竜景光があっけらかんとした様子で、雑草の根を根絶やしにする提案をしてみると
深刻な顔をした厚藤四郎と、震えあがっている後藤藤四郎に止められた。
やがて必ず直面するであろう、水田の雑草対策に皆が頭を抱えていたその時、
皆にある事を呼び掛けたのは、一期一振だった。
「では、無農薬で自然にも優しく、雑草を簡単に駆逐できる方法をお教えしましょう」
「んな美味しい話ある訳ねーだろうが……」
あまりにも虫の良すぎる話に、同田貫正国は盛大に不審がる。
「それがあるのですよ。
時代を遡れば、かつて秀吉公も推奨したと言われている、歴史にも裏打ちされた方法が。」
それが、合鴨農法です」
「合鴨農法?」
・
・
・
「わぁぁ、アイガモの子供、かっわいい〜〜〜!!」
「ふっわふわですね……!」
水田一面に放たれた、アイガモの雛の群れ。
あっちこっちへ縦横無尽に泳ぎ回るその愛らしい姿に、乱藤四郎と秋田藤四郎は思わず声を上げる。
「農薬が普及される前に、かつて取り入れられた農法のひとつでしてな。
田んぼに、アイガモを放って育てながら、雑草を食べて貰うのです」
「アイガモはイネ科の植物は食べないから、そこを利用して、田んぼに生えてくる雑草を食べて貰うんだよ。
同時に泳ぎ回る事で、土をかき混ぜ、結果土に酸素が行き渡り、稲がよく育つんだ。
彼らのフンは、稲を育てるのに必要な有機塩類を含んでいて、いい肥料にもなるんだよ」
一期一振の説明に、南海太郎朝尊が更に補足を加える。
「ただアイガモを放つだけで、雑草も食って貰えて、泳いで貰って土に空気も入り
草取りもしなければ、肥料も撒かなくていい。こりゃ一石三鳥じゃねーか。
元が立派な百姓じゃなきゃ、とても思いつかない斬新なアイデアだな!」
「うーん、これは果たして、褒めて貰っているのでしょうか…?」
「気にしない、気にしない。
あ、あの子泳ぐの上手だね〜」
主が農家だった和泉守兼定は、リスペクトも込めて褒めたようだったが、
褒められているのか、いじられているのか、微妙な気持ちになる一期一振。
その一方で、すいすいと水田を泳ぎまわり、雑草をついばむアイガモたちの様子を
髭切は笑ってのんびりと眺めていた。
「アイガモを飼うだけで、稲の管理が出来るだなんて、随分楽で有難い話だね。
こんな便利な農法だったら、もっと広まってもいいのにね」
アイガモの泳ぎ回る可愛らしい姿をじっと眺めながら、
合鴨農法が日本に何故広まっていないのか、不思議がる大和守安定。
そこに、微妙な表情を浮かべながら、一期一振が説明した。
「それがなかなか……
合鴨農法では、鴨は翌年には持ち越せない事が、デメリットのひとつと言われているのです」
「え、どうしてさ。卵生んで、雛生まれるでしょ」
一期一振の説明に、更に加州清光が問いかける。
「実は、育った稲穂と、もみ殻は、アイガモの大好物なのです。
稲穂が食い尽くされないよう、収穫前に、アイガモたちは皆、鴨鍋にされるのです」
「え、マジ……?」
「ちょっと、五虎退と秋田が泣きそうなんだけど」
返って来た返答の思いがけないショッキングな内容に、思わず絶句する2人。
さらに、話を聞いてしまった五虎退と秋田藤四郎が、後ろでぶるぶる震えてしまっていた。
「ねぇ……なんだか、さっきよりアイガモ、数減ってない……?」
アイガモを観察していた乱藤四郎が、ふと気付く。
隣に立っていた鳴狐も、きょろきょろと辺りを見回している。
そこへ、五虎退も不安そうにおずおずとやってきた。
「ん、どうした、鳴狐?」
「お付きの狐がいない……」
「と、虎くんも、姿が見えません……」
「ま、まさか……」
すると、小夜左文字がそっとやってきて、静かに告げた。
「あの……あっちに、羽根が散らばってるみたい」
「うちの本丸では、鴨鍋をこしらえる前に、彼らに喰いつくされそうだね……」
「惜しいね……鴨肉のロースト、作ってみたかったんだけどなぁ」
アイガモの哀れな末路を予想して、歌仙兼定は苦笑する。
隣に立っていた燭台切光忠は、少し残念そうにそう呟いた。
「……ん? アイガモたちがなにやら騒いでいるようだが」
アイガモの様子を、前田藤四郎と一緒に観察していた大典太光世が、
彼らの様子の変化に気付く。
先程まで、水田のあちこちで雑草をついばんでいたアイガモたちは
Uターンして、水門を開け田んぼの世話をしている御手杵に、次々と群がっていた。
「なになに……?」
「『エサが足りない。もっと寄越せ』だそうです」
「へ……? 雑草もう食い尽くしてるんですけど……」
「いだっ!いだだだだっ!!
わかった、わかったから、今持って来るって!!」
こんのすけの翻訳に、加州清光と大和守安定は絶句する。あまりの食欲だ。
アイガモたちの嘴につつかれまくった御手杵は、ボロボロになりながら
倉庫にある肥料用のもみがらを取りに走る。
「おにぎりなら食ってくれるだろうか」
「食すなら、生の米が良いそうです」
「随分と食道楽な鴨たちだな、ははは」
「あのなぁ、米を育てるのに米を食べるって、それどんだけ本末転倒なんだよ……」
その様子を、鶯丸と小狐丸と三日月宗近が、縁側に座り茶を飲みながら、のんびりと眺めていた。
そこに、獅子王が思い切り突っ込みを入れた。
「食べてくれる雑草だけでは量が足りず、結局雛の手配、餌代だけでばかにならず、
戦後の日本では、合鴨農法は結局廃れてしまったという話だよ。
有機農法が見直されている今、この農法で頑張っている農家さんもちゃんといるけどね」
「自然に優しい農法とは一体……」
「仕方なか。農業は商売でもあるけん」
「シビアな世の中だね……」
結局のところ、合鴨農法が広まりにくいという現状を、桑名江の解説と博多藤四郎の意見の元、
皆は納得せざるを得ないのだった。
ついったーで流れてきた、合鴨農法というものをみて、
本丸で合鴨農法をしたら、こんなオチになるかなと思って書いてみました(笑)
100振り近くの大所帯の本丸なら、養う田んぼもそりゃあ広くなるだろうから
農業機械が導入されてもおかしくないかなと(笑)
ク○タさんの企業公式ホームページ、参考にさせて頂きました(笑)