テワラン天帝国と共同戦線を張る事となったコリンドーネ軍は、テワランに派遣する人員を決める所から始まった。


コリンドーネ共和国は、現在も国境線沿いにカーディレット帝国と戦火を交えている状況だ。

今は停戦中だが、いつカーディレット帝国軍がこちらに向けて侵攻してくるか分からない。

国土防衛の傍ら、侵略を推進している3ヶ国の戦線に、反乱防衛軍としてテワランに協力するため、

共和国軍から選抜部隊を考える必要があった。



その選抜に伴い、コリンドーネ共和国軍・銃兵隊と騎兵隊の合同ミーティングが行われた。

ミーティングに先立ち、銃兵隊の隊長であるイーグルは、兵士たちを前にして説明する。


「俺たちは今後、テワラン天帝国と友好条約を終結する。国として協力関係を築くんだ。

 その上で、今現在テワランで展開している、侵略国……すなわち、カーディレット帝国・ソルシエール王国と

 戦火を交えなくちゃいけねぇ。奴ら侵略国の魔の手から、テワランの民を護るんだ」


今まで国交が無かったテワラン天帝国と協力関係を築くという知らせに、兵士たちにざわめきが起こる。


「テワラン……って、あの、険しい山々の?」

「機械嫌いな連中が、よく俺たちと手を組んだな……」


自然と共に生きるテワランの民は機械技術を良く思っていない、という話は、兵士たちの間でも広く知られていたようだ。

そんな彼らが、自分たちコリンドーネと手を組むという決断を下したという事実は、兵士たちにとっては俄かに信じがたいようだった。


「帝国兵同様、俺たちも機械を扱う。そんな俺らは、アイツらにとって敵と映りかねないんじゃないか?

 本当に、協力関係なんて築けるのか?」


リックスが抱いたのと同様に、兵士たちから湧き出た疑問は、尤もなものだった。

そもそも、テワランの人々にとって自分たちがどのように映るのか、兵士たちには不安が残る。

作戦にだって、機械を用いる事も多々考えられる。その際にテワランの人々が何というか分からない。

作戦遂行そのものが果たして出来るのか、兵士たちの疑問は山積みであった。


また、こんな声も聞かれた。


「うちの国はカーディレット帝国からの侵攻を食い止めるだけで精一杯だ。

 他の国に兵を出している余裕なんて、今の俺たちにはないんじゃないか?

 同盟を組むメリットは、果たしてあるのか?」



国境線でのカーディレット帝国との戦闘は何年間も行われており、辛くも帝国軍を退けているが

どんどん技術を進歩させ、武器や兵士たちを強力にしている帝国軍から、国境線をいつまで護れるか保証はない。

そんな中、わざわざ外国に、しかも今まで国交が無かった国に兵士を送るのだ。兵士たちがそう思うのも無理はない話だ。


不安な言葉が挙がる度、リックスも不安な思いを隠せず、思わず俯いてしまう。

やはり、兵士たちもテワランとの同盟を難しいと感じてしまっているのだろうか……




兵士たちが次々と投げかける質問ひとつひとつにイーグルは頷き、彼らの思いを受け止める。

そしてこう話したのだった。


「この戦いは、ただ単純にテワランを護るというだけじゃなく、俺たちの誇りを護る戦いでもある。

 侵略国の奴らは、飲み込んだ国で相当えげつねぇ事を行っている。そりゃ、皆分かるよな?

 強制的に人々を従え、奴隷のように働かせ、意のままに操るような国の舵取りを行っているんだ。

 そんな国が揃いも揃って肩を組み、色んな国を飲み込もうとしてるんだ。

 その魔の手は、テワランだけじゃねぇ。いずれ俺たちにだって届いちまうかもしれねぇんだ。

 コリンドーネだけじゃなく、この世界全部をもな!!


 ……そんなの俺らの精神が許す筈がねぇ! 自由と平等をモットーとし、皆が笑って暮らせるような日常を、

 俺たちは勝ち取らなきゃいけねぇんだ!! 分かるか、皆!!」


拳を握りしめ、熱く語るイーグル。

その隣に控えていたアルバトロスも、イーグルより大分落ち着いた調子ではあるが、兵士たちに向かって語り掛ける。


「今回の同盟は、有り難くもテワラン天帝国の王太子殿が持ち掛けてくれたのだ。

 我々コリンドーネ共和国が、長きにわたってカーディレット帝国と相対し続けていられるその技術力を見込んでな。

 それだけではない。我々の、労働と平等と自由とこの大地を愛する精神に、非常に感銘を受けて頂けたのだ。

 実際にお忍びでこの国に足を運び、我らの働きぶり、その生活、国土を直に見て、その上で

 我々と協力関係を築きたいと申し出て頂けたのだ。これほど有難い話はあるまい。」


アルバトロスの話を聞くと、まさか……兵士たちは俄かにざわつく。

隣国のそのような高貴な身分の方が、わざわざ?

汗水流して泥まみれで働く自分たちの姿を見て、感銘を受けた?


「……確かに、あちらの国民が、機械に対して根強い不信感を持っている事は否定しない。

 分かち合うまでに、時間を要することもあるだろう……」


ちらりとリックスを見やり、アルバトロスは兵士たちの不安な思いも受け止める。


「だが、決して分かり合えない、という事もないと、私は思っている。

 この国の国民たちは皆隣人を愛し、困っていたら誰彼関係なく手を差し伸べる博愛精神を持ち合わせている。

 彼らの疑心を、親愛の情に反転させられる力を、私たちの仲間は持っていると、私は信じたい。」


不信感をも広い懐で暖かく包み込むような、そんなアルバトロスの演説に、それまで不安を抱えていた兵士たちは

テワランの民たちと分かり合えるかもしれないという希望を、少しずつではあるが、持ち始めたのだった。



「大丈夫よ! 皆、信じて。きっと分かり合える。

 だって、自然を愛し、大地を愛する心は、テワランもコリンドーネも一緒だもの。

 王太子様も、お会いしたテワランの方々も、皆とても良い方だったわ。きっと、仲良くなれるわ。」


騎兵隊長のメイナードも、そう兵士たちを励ます。

幾多の戦場で多くの兵士たちを鼓舞し、励まし、支えてきた彼女の言に、兵士たちは強く頷く。

そして、どこからともなく声があがったのだった。



「隣の奴が苦しんでいるのに、見捨てるのはコリンドーネの精神が許さねぇ!!」

「あぁ!! 助けにいかなきゃな!!」

「機械が怖ぇんなら、俺たちで教えてあげりゃいい! なに、ひとつひとつネジ回しゃいいんだよ。簡単だ!!」

「お前の教え方じゃざっくばらんすぎらぁ。オイラが手取り足取り腰取り教えてやるぜ!!」

「あのなぁ、腰取りは余計だろ……オメー、さてはテワランの美人さん思い浮かべて鼻の下伸ばしてんなァ?」

「うっせ!余計なお世話だ!」


次々に、威勢の良いコリンドーネ兵士たちの声があがる。

皆、困っているテワランの人々を助けたい、自分たちの世界の自由を守りたいという思いで、一致団結し始めたのだ。



兵士たちが活気づく様子を見て、リックスは自分の胸が熱くなるのを感じた。……皆、本当に良いヒトたち!!

冗談めいた声に笑って涙を流しながら、コリンドーネの人々の善意を彼女らは受け取ったのだ。



「皆、感謝する……ありがとな!! それでこそ、コリンドーネの気概ある兵士ってもんだ!!」


兵士たちの活気づく声に、イーグルは感謝を述べ、威勢の良い檄を飛ばした。










その後コリンドーネ共和国軍は、国内に待機する一団と、テワランに向かう一団の選抜を行った。

選抜は自由挙手制とし、気概のあるメンバーを選び抜き、共に向かう事とした。



国境線の防衛を任務とする騎兵隊の隊長・メイナードは、騎兵隊の大多数と共にコリンドーネに残り、国の防衛を担当する事となる。


銃兵隊は、隊長のイーグル、副隊長のアルバトロス共にテワランに向かう方を選んだ。

残る銃兵隊の統括は、王女の護衛を担当するメルクリウスと、情報戦を得意とするアグネスに任せる方針だ。


他の兵士たちはというと、熟練した騎兵隊員と機動力の高い銃兵隊員のうち数十名が、テワラン遠征に志願した。



リックスも、もちろんテワラン遠征部隊に名乗りを上げたのだった。




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「すごい森、そして山々ね……テッペンが雲に隠れて見えないわ……」


天高く聳えるテワランの霊峰を臨み、その偉大なる大地を一望して驚きの声を上げる、コリンドーネの一団。

遠くには、森を焦がす煙が幾筋も立ち上り、伐採されたと思われる森林もあった。


「あれはきっと、帝国の進軍で被害を受けている場所だろうな……」

「この一帯を帝国が手に入れたら、一体どうするんだろうね」

「これだけデカい森だ。木材資源を伐採するだけ伐採し、奪いつくしちまうだろうさ」

「もったいねぇなぁ……こんだけの森が育つのに、何百年かかると思ってるんだ……」


広大な森が少しずつ帝国軍によって削られる事に対し、憂いの声を上げるコリンドーネ兵たち。

彼らは機械を取り扱うが、それと同じくらい自然を愛している。


資源を根こそぎ取り付くし、燃やし尽くす帝国軍とは決定的に違う、この精神こそ、テワランと分かり合える鍵なのかもしれない。


「そう簡単に帝国に奪われちゃなんねぇ。この森には、竜を始めとする希少な生き物たちだっているんだ。

 奪うだけしか知らねぇ帝国や魔導の連中に、目にもの見せてやるぞ! いいか、お前ら!!」

「おうよ!!」


イーグルの号令に声を揃えるコリンドーネの兵士たち。

テワランを護る戦いは今、始まったばかりである。