「全軍前進!! 突撃開始!!」


槍を振るい指示するイグナートの号令と共に、カーディレットとソルシエールによる、テワランへの進軍が始まった。

先鋒の騎竜が密林に向けて、数匹飛び立つ。

双方の側面から、剣を携えた騎兵隊の兵士と、電動機械や火炎放射器を持った機械部隊の兵士がサイドを固める。



「アタシの華麗な魔法を、一番乗りしてお見舞いしてやるわ!」

「不安定だから、あんまりワイバーンの上で立たないように注意してね」


意気揚々と杖を構え、魔法攻撃に備えるアンジェリカに、ゲオルグが注意する。

その隣では、ミーナとエンヴィーのペアのワイバーンが風のように滑空していた。


「そうね、もう少し鋭角に飛べる? 風の抵抗が強くて、敵が見つかりにくく、照準が定まりにくいわ」

「了解……23号、少し首を上げるぞ」



「ちょっと、私たちより先に出ないでくれる?!」

「おあいにくさま! こっちのワイバーンの方が飛行速度が上みたいね!

 それとも、誰かさんはダイエットに失敗してまた太ったのかしらね?!」

「なっ、ぬぁんですってー?!」



ワイバーンの上でもぎゃーすか言い争うアンジェリカとミーナ。

そんな2人に相棒たちは苦笑する。


「はは、どうやらライバルみたいだね、この2人……」

「くだらん……任務さえ確実に遂行すれば文句は言わん」


飛行ゴーグルを直しながら、2人はよく目を凝らして、テワランの暗い密林を捜索する。







密林の奥深く、テワラン天帝国の防衛ラインでは、カーディレット・ソルシエール両国の侵攻に備え

着実に準備をして構えていた。



「きた……! 来ましたよ、騎竜部隊のワイバーン、第一陣!!」


前哨に立つテワラン兵が叫ぶ。視力や聴力の良い彼らは、遠くからでも敵をいち早く発見することが可能なのだ。


「やはり密林を縫うように飛んでくる作戦だな。想定内だ。

 手筈通りに行くぞ!! 準備はいいかお前ら!?」


「いつでもいいよ!!」

「合点承知!! 来るなら来やがれ!!」


号令に、兵士たちは威勢よく合図し、密林の葉の影に身を隠した。






やがて、先鋒のワイバーンが数匹近づいてくる。


「テワラン兵、姿を見かけないわね……もっと奥に潜んでいるのかしら?」

「油断するな。この密林だ。木の影や、木の葉を被って潜んでいるとも分からんぞ」


ミーナとエンヴィーは警戒しながら辺りを見回すが、敵兵であるテワラン兵の姿を全く見かけない事に不審がる。



2人の乗るワイバーンが、とある木立の間を抜けた時だった。




突然、木立の間を電撃が走る。電撃は、2人の乗ったワイバーンを直撃した。



「!? うわぁぁぁ!!?」

「きゃあぁぁぁ!!」


強烈な電撃を喰らってワイバーンは翼が麻痺し、乗り手諸共地上に落下した。



「なに?! 一体何が起こったの!?」

「気をつけろ!! 何かが仕掛けられているみたいだ……!」


アンジェリカは振り返って、予期せぬ彼らの撃墜に驚く。

ゲオルグは、ミーナたちが落下した辺りを通過する直前に、急旋回で進路を変える。

彼らは間一髪電撃をかわすが、他のワイバーンたちは何匹か仕掛けられた電撃を受け、次々と地上に落下していった。



「痛ったい〜…… もう、泥だらけになっちゃったじゃないの!!

 それにしても、電撃だなんて……ただの森じゃないのかしら?!」


電撃を受けてワイバーンから落下したものの、同じく雷使いである為か耐性が他の者より強いミーナは

いち早く態勢を立て直し、落下した周辺の木々を見渡す。


すると、木々の梢に、何かが複数括りつけられてあるのが見えた。何やら瞬いている。

小さな鉱石のようなものが嵌められた、金属製の丸いボールだ。

木の葉で隠されながら、まるで陣を敷くように各所に配置されていた。


どうやらこれが電撃結界を張り、何も知らずに飛んでいたワイバーンは結界に引っかかってしまったようだった。


「結界装置……?! そんなものが、テワランにある筈が……!!」


驚いて結界装置のボールを見上げるミーナ。


「小癪ね! こんなちゃちな雷属性の結界なんて! こんなの私の魔法で壊してしまうわ!!」


ミーナは叫び、結界装置が放ったものより何倍もの強力な電撃魔法を杖に宿らせ、結界装置に向かって放つ。

しかし、彼女が放った雷魔法の眩い光は、結界装置の鉱石の結晶に吸い込まれていった。



「うそ!? 吸収された……?!」



すると、枝葉の影から何人かテワラン兵が飛び降りてきた。

その中の1人が、不意を突いてミーナに向かって突進してくる。


「てやあぁぁーーーーっ!!」


煌びやかな銀色に光る手甲を嵌めた、紺色の髪を結い上げた少女が繰り出す一撃を、間一髪でミーナは避け

代わりにようやく立ち上がったエンヴィーが、調教鞭を振り上げ、彼女に反撃する。

素早く彼の攻撃を避けたテワラン兵の少女は、軽いフットワークで彼らと距離をとり、じりじりと詰め寄る。


他のテワラン兵も、身動きの取れないワイバーンと彼らを取り囲んだ。


「へへっ、どうだい! 観念しな、魔法使いのお嬢ちゃん!!」

「テワランは魔法に弱いって、私たちを甘く見た結果です!」






一方、電撃結界の直撃を免れたアンジェリカとゲオルグは、密林を縫うようにして飛んでいた。

トラップがある辺りを避け、なるべく木立の感覚が空いている場所を旋回する。


「テワランは、魔法攻撃に対して弱い筈よね!? こんなトラップが仕掛けられているとか、話が違うわ……!!」


すると、鋭い銃声が森中に響き渡る。

密林の影から、彼らが乗っていたワイバーンに向けて、狙撃を行ったのだ。

翼を銃弾が掠め、傷を負ったワイバーンは左右のバランスを崩して落下する。

ゲオルグは落下する間一髪で、アンジェリカを肩に乗せ叫ぶ。


「魔導師さん、俺を踏み台にしてそこの木に飛び移れ!」


「きゃ! あ、貴方は……?!」

「俺の事は気にしなくていい! それより、敵が傍に居る! 気をつけろ! テワラン兵じゃないぞ!!」


そう叫び、ゲオルグは相棒のワイバーンと共に木の下へと落下していった。


何とか太い木の枝にしがみついたアンジェリカは、足や腕をすりむきながら、木の上に上る。



すると、木立の間から、水色の制服を身に着け、銃を構えた兵士たちが顔をのぞかせた。


「コリンドーネ兵!!?」



予期せぬ協力者の出現に、カーディレットやソルシエールの兵士たちは驚く。




古くから大自然と共に住まい、素朴な暮らしをしてきたテワラン天帝国は、機械を恐ろしいものだとして敬遠してきた。

大型の機械を用いて自国に攻め入るカーディレット帝国はもちろん、同じくコリンドーネ共和国に対しても

テワラン天帝国の国民たちは、恐れを抱いてきた。

故に、中央大陸の国々の軍備の近代化に対して、防衛についてテワラン天帝国は、他国に大幅な後れを取ってきた。



しかし、この戦線上においては、テワラン天帝国の防衛ラインに、コリンドーネ共和国の姿が見られたのだった。




銃口から煙を吹かせて、1人の女性兵士が、同じくコリンドーネの騎兵と並んで立っている。


「駄目でしょ〜? ソルシエールの魔女さんに、カーディレットの怖〜いお兄さんたち、弱い者いじめしちゃ。

 そんなアナタたちは、ワタシたちがおしおきしてあげるわ!」


イエローオークルの髪をひとつに纏めたその女性兵士は、眼鏡の位置を直すと、アンジェリカに狙いを定める。

銃を放つと、その弾は炎を纏って燃え上がり、魔法のような効果を示した。

アンジェリカはすぐに目の前に氷の結界を張り、防御する。


「なるほど……あの電撃結界、コリンドーネ共和国の協力って訳ね……」

「ご名答! どう? 急ごしらえだけど、なかなか強力でしょ?」


ふふん、と笑って女性兵士はもう一発銃弾を放つ。

今度の銃弾は、雷の効果を付随して、氷の結界を突き破ろうとする。

するとアンジェリカは、今度は眩い陽の力を込めた結界を重ねて張り、雷の銃弾を弾く。


「あら? アナタなかなかの使い手ねぇ?」

「当然よ!! ソルシエールの映えある魔導師部隊の先鋒を任された身だもの!!

 そんな魔導弾なんかよりも、訓練で鍛えた、強力な複合魔法、お見舞いしてあげる!!」


そう言うと、アンジェリカは杖を構えて魔方陣を展開し、陽属性と氷属性が複雑に交差した複合魔法を放つ。

相対する属性で、爆発的な破壊力と推進力をもって、放たれた魔法はコリンドーネの兵士たちに近づく。




「そうよ! いくら不意打ちを受けたからといって、この強力な魔法から貴方たちは逃れられないわ!!」


ミーナも、雷と陽属性をかけ合わせ、強力なエネルギーを纏った複合魔法をテワラン兵士たちに放つ。



すると、テワランの女性兵士は銀色に輝く手甲でガードする。

驚いたことに、放たれた強力な魔法は、その金属に当たると軌道を逸らせ、森の一角に進路を変えられて誤爆する。

逆に爆風がミーナに跳ね返ってくる。


「きゃぁぁぁ!!」


爆風の衝撃が強すぎて、ミーナは風に煽られてバランスを崩し転倒した。




そしてアンジェリカの放った相反属性魔法は、コリンドーネの女性兵士に届く前に、もう1人の騎兵が前に出る。

騎兵は大きなハルバートを振りかぶり、魔法をなんと打ち返した。


「な!? 魔法を打ち返したですって……?!」


驚いたのも束の間、打ち返されてきた魔法が逆にアンジェリカに直撃してしまう。



「いやぁぁぁーーーーーッっ!!?」



ハルバートを担いだ、オレンジの短髪の女性騎兵は、吹き飛ばされたアンジェリカを見下ろした。


「魔法を跳ね返すコリンドーネ特産のリフレクトメタルよ。知らないの?」


爆風に晒され、アンジェリカの纏った優雅な魔導師の青いドレスや、見事な金の巻き毛は

今や落ち葉まみれになり、全身土埃だらけになってしまっていた。それは何とも無様であった。



「こんなの……ッ 聞いてないわ……!!」


ズタボロになって、杖にしがみ付くアンジェリカ。





混沌とした戦況の中、イグナートは各地の混乱を見返して、予想だにしないテワランとコリンドーネの兵士たちの反撃に戸惑っていた。


「一体これは、どういう事だ……?! 何故コリンドーネ軍が、テワランと結託している……?!」


騎竜部隊のワイバーンたちがほぼ撃墜されてしまっては、作戦の要が崩れてしまう。

態勢を立て直そうにも、どこもかしこも撤収はおろか、敵兵に囲まれて捕虜にされそうな勢いだ。

ワイバーンは図体がデカい分だけ、怪我をしたり、捕獲されて動けなくなると連れて逃げる訳にもいかない。


はじめからテワラン軍は、密かにコリンドーネ軍と手を結び協力を得て、森林に大規模な罠を仕掛けておいたのだ。

騎竜部隊の兵士はワイバーンを従える事に訓練の大半を費やすので、帝国軍において地上戦では戦闘能力はさほど高くない。

飛行能力のあるワイバーンさえ押さえてしまえば、接近戦では強力な拳を持つテワランの武官たちに分がある。


更に、打撃戦に功を奏するソルシエールの魔導師による魔法攻撃も、コリンドーネの防衛の要でもある

魔法を弾く効果のあるリフレクトメタルを用いて、防具や武器を準備したことによって、

テワランの武官たちは魔法攻撃に耐性をつけたのだった。




「これは……痛い所をつかれたねぇ……」


地上からフォローに回っていたローレンツも、思わぬテワランとコリンドーネのの作戦の巧妙さに舌を巻く。




敵の大将を見つけたコリンドーネの陣営では、1人の男がショットガンに弾丸を詰め、慎重に狙っていた。

その照準は、まっすぐにワイバーンに座するイグナートを捉えていた。


しかし、遠くからの鋭い殺気にいち早く気が付いたローレンツは、イグナートに合図する。


「イグナート将軍!! 狙われているぞ!!」


掛け声と共に、彼は背負っていた絡繰式銃剣を発動し、大地を蹴って跳んだ。

それとほぼ同時に、イグナートが長槍を構える前に、ショットガンの発砲音が響き渡った。


銃弾が彼に到達する前に、銃剣に仕組まれた装置のひとつ、強力な電気を帯びたプラズマシールドが展開し、イグナートを庇った。


「!! ……うむ、どこから?! 済まない……助かった……」

「巧妙に戦火に隠れ、敵の頭を狙っている作戦…… 以前もこれで、私の部隊はギュンター将軍を討たれましたので。

 貴方まで討たれたら、カーディレット帝国軍は総崩れとなります。お気を付けください」


礼を言うイグナートに、ローレンツはどこから発砲したのか敵を見定めようと見回す。

しかし、すぐに狙撃した者は兵士たちに紛れ、姿を隠す。次の狙撃が、いつどこからやってくるのか分からない。

防衛が比較的手薄な今の状況では、総崩れになる危険があった。


「このままでは、我らも危うい。一度引いて、動ける兵を編成し直し、態勢を立て直した方が良さそうです。」


白銀の剣を手に、護衛を務めていたヤロスラフが、2人に進言する。


「うむ……テワランは体術だけで、広範囲な騎竜と魔法攻撃に簡単に崩れると思っていたが、

 機械技術や魔法に対抗する手段を持ち合わせるコリンドーネを味方につけたとなると、対応策が必要だ。

 ワイバーンも何匹か撃墜され、捕獲されたり使用不可能になるリスクも含んでいる。


 仕方ない……全軍撤退!! 一旦最初のラインまで退け!!」



イグナートの号令で、カーディレットとソルシエールの連合軍は、一旦撤退するのだった。







「……む、残念。仕留める前に、撤退を始めたな……」


密林の葉の影から砲身だけ出して、望遠レンズで様子を伺っていた、コリンドーネ銃兵隊の副隊長・アルバトロスは

残念そうに、彼らを見送った。

その隣で、歴戦の風格を漂わせる兵士が銃を構えながら相棒に話しかける。


「奴ら、このあいだのヤローみたいな、猪突猛進の馬鹿じゃなかったってことだな。

 少しはカンのいい、頭を使う奴がいるって事じゃねぇか。そうじゃなきゃ、手応えがねぇってもんよ」


「はは、あまり手応えがあり過ぎても困るがな」


自信たっぷりにそう言った兵士は、コリンドーネ銃兵隊の隊長・イーグルだ。

そんな血の気盛んな彼に、アルバトロスは少し苦笑する。






全軍撤退の指示が出ると、敵兵に囲まれたミーナは悔しそうに呟いた。


「何てことかしら……初陣を勝利で飾りたかったのに……!!」

「とりあえず、立派な手柄を求める前に、まず捕まらずにここから逃げる事が先決だな」


相棒のワイバーン・23号を気遣いながら、エンヴィーは冷たく言い放った。


「分かってるわよ……!!」


ミーナは渋々、杖の宝玉から光を照らし出して転移魔法の陣を展開し、陣に描かれた術式を唱えて完成させる。

複雑な陣形が光線となって現れ、ワイバーンを含む彼らは一瞬にして消え去る。


「覚えてらっしゃい! テワランの野蛮人たち!! 次は貴方たちが火だるまになる番よ!!」


捨て台詞を吐いて、ミーナとエンヴィーと23号はその場を離脱した。







アンジェリカたちは、かろうじて翼を動かしたゲオルグの相棒のワイバーンに捕まって飛び立ち、その場を脱する事が出来た。


「さっきは踏んじゃって悪かったわね……」

「俺なら大丈夫さ。君も敵に囲まれて、怪我はないかい?」

「わわわ、私は大丈夫よ! あんな攻撃、なんともないわ!」


心配そうに尋ねてくるゲオルグに、慌ててそっぽを向くアンジェリカ。

しかしそう言いつつも、アンジェリカの手足は落ちかけた時に木の皮ですりむいた傷がいくつかあった。


後ろを向く彼女に、ゲオルグは懐から傷薬を取り出す。

「はい。ワイバーンを相手にしてると、いつも生傷が絶えないから……良かったら使って」

「あ! ありがと…………」

消え入りそうな声で、少し紅くなりながら、アンジェリカは礼を言い、傷薬を受け取る。


ワイバーンの背中の上で、敗走の最中ではあるが、2人はそんな少し微笑ましいやりとりをしていたのだった。






…という訳で、テワランへのカーディレット・ソルシエールの共同戦線、続きでございます!

実際の戦闘描写は、具体的に書くのが難しいけれど、楽しいですね燃えますね!!

魔法攻撃とワイバーンによる空中戦で、侵略推進国側が優勢かと思いきや、
地の利を生かした、テワランとコリンドーネのタッグに結構苦戦しますよ!!
万全の態勢で臨んだ防衛国側が、まずは勝利を収めます!

エナジウムを仕込んだ結界とか、魔法を反射するリフレクトメタルを防具に利用したりすると、
いい感じに対応できるかなと!
他にもチープだけど、ワイバーンが森の中を飛んでいたら漁に使うような網をかけて妨害するとか(笑)
密林の戦いは、色々と工夫しがいがあるね!

騎竜に乗るコンビも、とりあえず出ている面子で固めたらなんとなくこの2ペアに(笑)
なんか先鋒で手柄を争ってそうな印象があるわ、特に魔導女子2人ね(笑)