焼けつくような太陽が、抜けるような青空の元、容赦なく照り付ける。

雲一つ見当たらない快晴は、本来ならば喜ばしいものだが、このような酷暑の中では問題外だ。

そんな中でも、ひまわりたちは元気にその顔を太陽に向かって伸ばしている。

辺りには、ひと夏で消えてしまう儚いセミたちが一斉に、その命を振り絞って鳴いていた。





「あっぢー!! 何でこんなに暑いんだよ!! ワダツミは寒いって有名だったじゃねーか!!」

「冬の間はな。冬の期間が長く、積もる雪の多さで有名だが、この国にはちゃんと夏もある。

 夏の間は気温が30度超えになるのもザラじゃない」


あまりの暑さに苛立った様子でマーキスは叫ぶ。既に上着は脱ぎ捨てられ、シャツ一丁になっていた。

その様子に、額にうっすら汗を浮かべながらも、あまり堪えていないと言った様子で敬介は淡々と説明した。

冬の寒さで有名なワダツミノ国では、夏には考えられないような猛暑になる。

これも、雲の流れと気圧配置と、海に囲まれた故の湿気の為だ。



「しかも、砂漠の暑さとは違って、じっとりと肌に張り付くような暑さだね〜。

 これは、全身を布なんか羽織っていたら簡単にへばっちゃうね、あはは……」


暑さに音を上げながらも、それでも笑みを絶やさないのは、砂漠で有名なサラーブ出身のサロードだ。

サラーブとワダツミの気候の違いに興味津々の様子である。


「なんでそんなに笑ってられるんだよ、オメー……」


恨めしそうにレオニードが眺める。

カーディレット帝国は緯度が高く、比較的一年の平均気温が一定して涼しく、大抵の場合長袖を来て過ごすことが多い。

そんな帝国出身の彼らに、このうだるような暑さは相当堪えているようだ。


「暑い……」

「おい、そんな所にノビてると、あっという間に干物になっちまうぞ……よっこらせっと」


シンも、いつもの好奇心旺盛な様子はなく、真夏の空の下ベンチにだらんと突っ伏していた。

隣に居たウォルターは、近くの木の下で少しでも涼もうと、暑さにやられて全く動けなくなっているシンを担いで連れて行った。



ぐってりしている少年たちの元に、白い帽子に白いサマードレスを着た、1人の女性がやってくる。

その後ろには、同じく白いサマードレスを着た、亜麻色の髪の少女がおずおずと付き添っている。

彼女らが手にしているお盆の上には、氷を浮かべた麦茶が乗っていた。

お盆の上でカラン、と氷が涼やかな音を立てる。


「皆さん、この暑さで脱水になるといけません。水分をしっかり摂ってくださいね」

「おぉ、女神様の降臨だ……!!」


そう言い、1人1人に麦茶のコップを手渡したのは、医療兵のクリスティーヌだ。 彼女の登場に、帝国兵たちはざわめく。

白い清楚なサマードレスにさらさらと揺れる色素の薄い髪は、とても涼やかで、彼女を眺める帝国兵たちの眼差しは羨望に溢れていた。

彼女が麦茶を配ると、少年たちは我先にと麦茶を受け取り、ごくごくと喉を鳴らして勢いよく麦茶を飲み干した。


「おいコラ、お前先に手伸ばすなよ!!」

「うっせ! 早い者勝ちだ!」


「急がなくても、まだまだお代わりはありますよ。 たくさん作って来たので、焦らないでくださいな」

そんな姿を、クリスティーヌはくすくすと微笑ましく笑って眺めていた。



その隣で、クリスティーヌの後ろに控えていた少女・シエラザードが、暑さにバテて寝込んでいた青年に麦茶を運んでいく。


「はい、どうぞ……」

「あぁ、サンキュな」


そう言って、寝ころんでいた黒髪の青年が、むっくり起き上がって麦茶を受け取る。

すると、青年の隣に座っていた少女がちょこんと隣にやってきて、ぺしぺしと肩をたたく。


「マトおにーちゃん、サラーブ出身だから暑さには強いんじゃないのー?」

「うるせぇ……こんなじとっとした暑さは初めてだ……

 それに暑さなら、火の力を授かっているお前の方が得意だろうがよ……」

「くすくす、マトおにーちゃんってば、弱いのね!」

「放っとけ……」


恨みがましい眼差しで、まだぺしぺし叩いてくる少女・ソニアを見上げ、マトヴェイはぼやいた。


「大丈夫ですか……?」

シエラザードは心配そうに尋ねるが、ソニアは笑って答える。


「だいじょーぶ、大丈夫! マトおにーちゃんはしぶといから、きっとお茶を与えたら、また元気になるよ!」

「お前、人の事をまるで雑草かなにかのように言うなっての……」


マトヴェイはむくっと起き上がり、ソニアの額をデコピンする。



「おいウォルター、氷魔法使ってなんとか涼しく出来ないのか。この暑さは堪える……」

「この暑さでグランディネもへばってる。んな簡単に言うな」

「肝心な時に役に立たねーな……」

「お前ら、好き勝手に言うんじゃねぇ……俺は便利屋じゃねぇぞ」

ぶーぶー文句を言うシンとマーキスに、ウォルターは溜息をつきつつもうちわで扇いで風を送る。



「そうか、雪を降らせればいいんだな」


何かに納得した様子で、スノウは氷魔法を発動する。

すると、地面から水晶のような氷柱がいくつも生えてくる。

急いで飛び起きて、生えてきた氷柱を避けたが、危うく間一髪のところで、

それまでマトヴェイが寝ていた丸太の長椅子に、氷柱が突き刺さる所だった。


「危っね!! どこが雪だどこが!! これじゃ氷じゃねーか!!

 お前、力を少しはコントロールしやがれ!!」


さっきまでのぐでぐでっぷりはどこへやら、マトヴェイは憤慨して叫ぶ。


「済まない、少しは力をセーブしたのだが。 まぁ、これくらい大きい方が涼しくていいんじゃないか?」

「あのな。開き直るな……」


僅かに反省の色を浮かべるものの、淡々と答えるスノウにマトヴェイは呆れて脱力する。



急に生えた氷の柱を見て、何かを思いついた様に、敬介が呟く。


「これくらいの大きさの氷があれば、かき氷が作れそうだな……」


「何だ、かき氷って?」


マーキスが尋ねると、敬介は自分が知っている限りの事を、詳しく分かりやすく説明する。


「雪深いワダツミには、夏でも残雪やら溶けきれない氷が山に残っているんだ。

 それを持ってきて、削り器で細かく削って雪のようにして、果物などのシロップをかけて食べる、夏の菓子だ。」

「おぉぉ!!」

敬介がそう説明すると、嬉々としてマーキスとレオニードが同時にどよめく。


「うまそうじゃねーか! 今の時期にぴったりだな!」

「お前ら、かき氷って知らないのか?」

「帝国じゃこんなに暑くならねぇ。せいぜい、牛乳と卵と砂糖と生クリームを混ぜて凍らせた、アイスクリームぐらいしかねぇよ。

 しかも冷凍保存技術がそこまで普及していないからな。アイスクリームを食べられるのは、移動販売で商人がやってきた時ぐらいだ。」

首を傾げる敬介に、ウォルターがカーディレット帝国における実情を説明した。


「氷とシロップか……なんだ、簡単に作れそうだな。 作れる奴はここにいるし」

「おい、お前それ誰の事を言ってるんだ。こき使う気満々じゃねぇかよ」

気軽に話すレオニードに、ウォルターはうんざりした表情を浮かべる。


「氷を削るのはどうするんだ?」

「まさか剣で削る訳にはいかねーよなあ……」


腰に刺さっていた剣を取り出すが、どう削ったらいいか分からずマーキスは首を傾げる。


「ワダツミではどうやってたんだ?」

「専用の機械がある。氷を固定して、ぎざぎざの突起が付いた回転する刃で少しずつ削りだしていくんだ」


回転する刃、と聞いたところで、マーキスの視線はシンに移る。


「コイツの武器、ちょうどいいぜ! 電動回転式カッター。刃をちょっと工夫すれば、削れんじゃねーか?!」


シンが取り出したカッターを、技師としての興味がそそられたのか、敬介はまじまじと丁寧に触れて眺める。


「……いけそうだな」


「だけど、この刃は水平方向にしかない。どうするんだ?」

「こっちの材料を作れる奴、いるだろ?」


マーキスがニヤッと笑うと、レオニードが何か思いついた様に言う。


「……あ。

 でも、アイツがただでやってくれるとは思えねぇなー。どーすんだ……?」

「簡単さ」










しばらくすると、白い半袖に筋肉が隆々と浮き上がった、角刈りのいかつい男性がやってくる。

その後ろには愛想のいい笑みを浮かべた青年が、リヤカーにシロップのコレクションをいくつも載せてついてきた。


「バニラアイスにも劣らん新しい菓子を腹いっぱい食せる、と聞いたから来てやったが……」

「はいはい、カールハインツ様。彼らが教えてくれるそうですよ?」

にこにこと付き従っている青年・オルフェオが、カールハインツを少年たちの元に案内する。



「アンタ、金属ならどんなものでも生み出せると聞いた。

 この円形カッターの刃が、ここにこう飛び出るようなものを作って欲しいんだが……」

かき氷削り器の刃の形を、敬介は詳細に図に描いて示し、カールハインツに見せる。


「ふふん。そのような事、俺には造作もない事よ」


そういうが早く、カールハインツが片腕を前に差し出すと、掌の先にあっという間に設計図と同じ回転刃が出来る。


「おぉ〜〜っ!!」


周囲がどよめく。


「……一応、金属の精霊使いというだけあるな」

「ただのバニラ馬鹿だけじゃなかったんだな……」

帝国一般兵らは、カールハインツに聞こえないようにしてそう口々に呟いた。



「んじゃ、シン、頼むぜ」

完成した回転刃をマーキスがシンに渡すと、シンはゆっくり頷いて、刃を機械に取り付ける。

そして、雷魔法を発動すると、髪の毛が逆立ち、回転刃は高速で回り始めた。


「腕を切り刻まれないよう、十分注意しながら行うんだぞ」

「おうよ」


敬介が注意すると、ウォルターは氷を持ち上げてしっかり抱え、回転する刃に当てた。

すると、当たった刃の先から、雪のようなふわふわとした氷が削られて出てきた。


「おぉ、すげー!! これがかき氷か!!」


マーキスやレオニード、シンは感動して出来たばかりのかき氷に見惚れている。


「氷の透明度が高ければ高いほど、ふわふわで口どけの滑らかなかき氷が出来る。

 だからワダツミでは、高い雪山から削りだされた、ゆっくり時間をかけて空気を含まないようにして出来た氷が

 かき氷に最適だとされている。」


そんな説明をする敬介を他所に、皆出来立てのかき氷に夢中になっていた。


「早く、お皿お皿!」

「おい、はみだしてるじゃねーかよ! こっちは少ないし! ちゃんと盛れよ!」

「仕方ねーだろ、支えているので手一杯なんだ。 そっちで調整しろよ!」




「何だかみんな、楽しそうだねぇ」

皆わぁわぁと騒ぎながら、次々にかき氷が出来るのを、面白そうにサロードは眺めている。


「というか、わざわざ削り出さなくても、雪のようにふわふわの氷を魔法で降らせりゃいい話なんじゃ……」

「それは言わないお約束よ、マトおにーちゃん」

思ったことをそのままぼそっと口走ってしまったマトヴェイを、ソニアが窘めた。







皆、思い思いの好きな味のシロップを掛け、たらふくかき氷を頂いた。


カールハインツはお気に入りのコンデンスミルクを掛け、バニラアイスにも劣らない旨さだ、と絶賛し、

オルフェオにコンデンスミルクを大量に買い占めるように命じていた。


信号の色のように並んだマーキス・シン・ウォルターは、互いの髪の色と全く同じ色のシロップ、

イチゴ・レモン・ブルーハワイのシロップをかけて互いにつつき合って食べ比べていた。


レオニードに至っては、かき氷の美味しさに感動し、何杯も食べてしまった故に頭痛に悩まされてしまい、

クリスティーヌとシエラザードの手厚い看病の元、毛布を被って伏せっていた。

そこにトレバーがあったかいお茶を持ってきて、傍に置く。


「はいどうぞ、あったかいお茶ですよ。 全く、美味しいからと言って食べ過ぎちゃいけませんよ」

「う、うるせぇ……かき氷、サクサクしててすっげぇ旨かったんだ…… うぅ、頭が痛い……」







そこに、皆の分の昼食を作った百合子が、大きな桶を抱えてやってきた。

その桶は一つだけでないようで、続いて春代、佳鶴、純一がそれぞれ1つずつ、腕に抱えるぐらいの大きな桶を持ってきた。


「みんな、お昼ごはんよ! ……って、どーしたの、コレ……」

「まぁ、たくさんのお皿。 皆さん何か召し上がられたのですか?」


目の前に積み重ねられた幾つものガラス皿を見て、百合子と佳鶴は傍にいたサロードに尋ねる。


「あ、コレ? 暑くてしょうがないから、冷たいものをってね。

 敬介君がかき氷っていう面白いお菓子を教えてくれたんだ。

 んで、みんなでかき氷を作ったら、美味しくて皆食べ過ぎちゃってダウンしたんだよ〜」


「わ、バカ! んな事言うなっての……」


「へー、かき氷作ってたんだ! 面白そうだな〜、俺も混ざりたかったな」

「そんな、皆、ずるいですぅ〜!!」

かき氷作りに参加出来なかったのがとても惜しそうに、純一と春代が残念がって叫ぶと

いつの間にやってきていたのか、ドロシーが残ったかき氷にあんこと抹茶を組み合わせ、宇治金時にして食べていた。


「や、申し訳ないです、春代ちゃん! ワダツミはまだまだ知らない美味しいものがいっぱいあるんですね!」

その表情はとても幸せそうだ。



すると、百合子は抱えていた桶をふるふると震わせる。 その中にはたっぷりの素麺が茹で上がっていた。

早速シンが箸を持って駆けつけ、1,2本ずるずると味見をするのを他所に、怒りを爆発させる。



「全く……人が一生懸命素麺を茹でてあげてるってのに……アンタらーーー!!!」


「に、逃げろー!!」



堪忍袋の緒が切れた百合子が叫ぶと、少年たちはかき氷のまだ残った皿を抱えて、急いで逃げ出したのだった。








本編とは関係なしに、色んな子たちを交流させたくて、夏っぽいお話を書きました。
暑い中蝉の鳴き声を聴いていたら、自然に思い浮かんできたよ(笑)

久しぶりに登場させた子、初めて出てきた子もいるけど、こんなんで良かったかしら?

かき氷は敬介君アイデアで、技師らしい一面を見せるのが楽しかった(笑)
敵味方ごっちゃでわちゃわちゃするのも楽しいね(笑)