「灯の明かりは、人の生きる希望だ」


それが、ランプ職人・コンドラートの信念だった。




太陽が昇っている時間が極端に少なく、1日の大半が夜の闇に覆われる国、ノアプテ王国。

緯度が高く寒冷な気候も相まって、作物は育ちにくく、病も起こりやすい。

生きていくには厳しい土地だった。

そんな中人々にとって灯の光は、暖をとる事、食物を調理する事、煮沸消毒など、生きる為に必要不可欠なものだった。


しかし、火を起こすのにも労力がかかり、それを維持するにも燃料となる薪が必要であったが

寒さのあまり薪の材料になる木々が育たず、寒さで凍え死ぬ人もこの国では少なくなかった。



そんな中、コンドラートのランプは不思議な力を宿していた。


一度火を灯すと、冬が終わるまで決して消える事がなかった。

彼の作ったランタンに入れている限りは、倒しても何かに燃え移るような事もなく、

どんなに隙間風が吹いても、その小さな灯をしっかりと保ち続けている。


貧しい暮らしを続ける人々には、コンドラートは無償でそのランプを提供し続けていた。



「ランプ屋のおじさん! うちのおっかぁからお使いに来たよ!

 この冬もとても寒くなりそうだから、またランプをお願いしたいって!」


「私の家もいいかしら…? 病気で伏せってるお父さんをね、あったかい灯で暖めてあげたいの」


「あぁ、いいとも。さぁ、持って行ってやりなさい」


堅気で近寄りがたい風貌でありつつも、子供たちにお願いされるとコンドラートは優しい笑顔を見せた。




色とりどりのステンドグラスがはめ込まれた美しいランプが、ノアプテの小さな家々を彩る。

農作が振るわない代わりに、工芸や細工物が発展してきたノアプテでは、職人たちが見事な腕前を持っていた。


そんな中、コンドラートのランプは見た目こそ秀でていた訳ではないが、灯る焔は暖かく、優しい光を宿していた。

それは、ノアプテの厳しい大地で生きる人々にとって、希望の灯であった。

無償でその明かりを分け与える事が多い為、決して暮らしは豊かではなかったが、

コンドラートは日々もくもくと仕事を続け、人々の暮らしに灯をもたらし続けた。





それでも、ノアプテの国の大地は容赦なく人々をその厳しい自然で翻弄する。

精いっぱい育てても、決して丈夫に育つ訳でもなく、病にかかり命を落とす子供が後を絶たなかった。

そのような子供たちを火葬するのも、焔を取り扱う、コンドラートの仕事だった。



冷たい大地の下、先日息を引き取った子供たちを納めた棺が並ぶ。

母親が、とめどなく流れる涙を抑えようと懸命に努めるが、溢れくる悲しみは、決して止められるものではなかった。


「うぅぅ……ごめんね、イヴァン……もっと、いい思いをさせてあげたかったよ……」



子供たちに最期の別れを告げ、厳かにコンドラートが棺に焔を灯す。

白樺で出来た美しい棺は、対照的な鮮やかな紅い炎で包まれ、パチパチと音を立てて燃えていく。

滅多に花が咲かないノアプテの地は、棺にいい木材を使うのがせめてもの死者への餞だった。


葬儀を行うのは、決まって夕暮れ時だった。

空の彼方へ消える太陽が、死者の魂を無事に彼方へ連れて行ってくれるよう願っての事だった。

コンドラートは、黙したまま薄暮の空を見上げる。

そして、子供を見送った母親たちに、静かに声をかけた。


「彼らの魂は、焔が空へ返してくれました。 彼らは風となり、雨となり、再び姿を変え

 貴方がたに会いに来るでしょう……生まれてきたことへの喜びを携えて。

 辛かったら、星の明かりを眺めなさい。彼らの魂はそこに在る。

 光は、生きる事への希望です」


その言葉を聞くと、母親たちは泣き崩れた。




短い夕暮れが終わり、夜の帳が空一面に降りると、コンドラートは燃え尽きた棺たちを眺める。

白い芥に変わり果てた子供たちは、風が吹くと空に溶けていく。


一筋の涙もコンドラートは流さなかったが、その心は自然への無慈悲さに無常感を携えていた。



「これが…… ノアプテの地に住まう者の定めなのか……

 だとしたら、我らは何故生まれたのだ……」



彼も、数年前に愛する妻を亡くしていた。

残された子供たちも、厳しい寒さにさらされて満足に育つことも出来ず、病で伏せりがちだった。

どんな事をしても、大事な子供には逞しく育ってほしい。

子供を亡くした母親たちの気持ちは、コンドラートには痛いほど分かっていた。




そんな折、コンドラートの元にノアプテ王国より徴兵の知らせが届く。

ただでさえ少ない国民は、健康であれば軍隊に入隊する義務を課せられている。

コンドラートは母親がいない代わりに子供たちを育てるために、入隊を免除させられていたが

子供たちも病弱ではあるが、ある程度の年齢を越した為、再び徴兵の連絡がきたのだった。


いずれ来ると予想していたが、コンドラートは子供たちを残して軍隊に入るのをためらった。

そんな彼を、2人の子供たちが説得する。


「お父さん、僕たちなら大丈夫だよ。お父さんのランプがあるもん。」

「私、それなりに料理も作れるようになったのよ。大丈夫よ、家の事なら任せて。

 それに、ルドルフがこの間作ったランプ、ちゃんと一晩消えないでもったのよ。ね!」

「そうだよ! 凄いでしょ! 僕、お父さんみたいなランプ、作れるようになるかな?」


「あぁ……私の息子だ。きっと作れるようになるさ。

 アリアナ、ルドルフ……すっかり頼もしくなったな。済まないが、行ってきても大丈夫か?」


「えへへ! お父さんが、暖かい土地を手に入れて戻ってくるの、待ってるよ!」


コンドラートが子供たちの頭を撫でると、2人の子供たちは、父親の足にしっかと抱きついて、嬉しそうに笑った。








ノアプテ軍に入隊すると、コンドラートは侵攻する国の情報を聞かされた。

その名は、フロレアール王国。

一年中花が咲き乱れ、温暖で平和な国という。


しかしそれは、教会がもたらす木と陽の光の魔法による、作り出されたものだという。

更にコンドラートが衝撃を受けたのは、フロレアールで行われている、異端審問だった。

氷と闇と火の属性を持つ者を異端者として迫害する事によって、冬を排除している事実を聞かされる。


ノアプテにとって火は、生きる為になくてはならないもの。


人の手であるべき姿だった自然を不自然に書きかえ、あまつさえいらないものとして迫害する、

教会の、フロレアール王国の傲慢さに、コンドラートは激しい怒りを覚えた。


富を貪り、一部の犠牲の上に成り立っている国、フロレアール王国。

そのような国は、一刻も早く滅ぼしてしまわなければならない。


オーロラが彩る冷たい夜空の下、コンドラートは、心に怒りを刻み付けたのだった。






フロレアールの異端属性迫害の話をしていたら、ノアプテ王国のキャラクターのイメージが
何故かするりと浮かんできました。何故だ。

フロレアールが火を迫害している一方、寒いノアプテでは火は生きる上でとても大事なものだと思うのです。
その価値観の違いを印象付ける意味合いもこめて、書いてみました。
ちょっとノアプテの文化に勝手に踏み入っちゃった部分もあるけれど、どうかしら…?

私が持つ火のイメージも少し含めて。
生と死に、深く関わってくるイメージが強くするんだよね。火って。