セレスティアの若い竜騎士たち、少女ルルと愛犬ショコラが、壊れた機械人形の子を見つける数刻前 ――――



幾つもの島で連なるセレスティア公国の上空を、ガスパールを先頭にドラゴンハンターの一団が、彼らにとって大事な取引品を抱え

飛空連隊を成して飛んでいたのだった。





「ようやく手に入れましたよ……素晴らしい、金の成る木……」


ところどころ部品のはみ出た、機械人形のキュイを大事そうに抱えて、にんまりとガスパールは笑う。



「そのオンボロ人形、そんなに価値のある物なんスか?」


飛空連隊を編成するドラゴンハンターの1人が、興味津々でガスパールに問いかけた。


「夜のクラブで、綺麗なオネエチャンたちを何人も侍らせて、一番上等な葡萄酒を飲みながら

 札束を団扇に出来る位の価値でもあんのかよ?」


獰猛そうな騎鳥の手綱を握るハンターたちが、最初のハンターの問いかけに重ねるようにして、キュイの価値を尋ねた。


「ちまちまちまちま希少動物を狩るのも飽きたしよ。そんなんじゃ、苦労の割に小銭ぐらいしか稼げねぇ。

 時代は竜だ! ……と言いたいところだがよ。セレスティアの竜騎士の野郎どものガードが固くて、竜狩りもなかなか厄介だ。

 そいつを納めれば、ちったぁ稼げるんだろうな? なぁ、ガスパールさんよ?」


セレスティアの竜騎士による防衛に手を焼いていたドラゴンハンターは、忌々しげに彼らによる数々の商売への妨害を思い出す。

彼らの不平不満に対して、ガスパールはそれをも覆す勢いで、ステッキを揚々と掲げて答えた。


「勿論ですとも! ただ残念ながら、リトスの錬金区の職人はこの機械人形を詳しく解析できませんでした。

 設計図は一応書いてくれましたがね……どうしても起動する方法が分からない、と。

 そこで、機械と言えば、コリンドーネと肩を並べてその技術を競い合っているのが、カーディレット帝国。

 これをカーディレット帝国まで運んで、機械の仕組みに詳しい技術者に解析を依頼すれば、

 複製はおろか、量産さえ可能となります!! それはまさに夢の技術……!!

 自律して動く機械人形と聞いて手に入れたがる存在は、それこそごまんといるでしょう!!


 その特許の権利さえ、運んできたこの私が手に入れれば、金など泉のようにいくらでも湧いてきますとも。

 小金目当てに危険を冒す稚拙で愚かなハンターたちに比べ、貴方たちはリスクを回避する慎重さで知られる、プロの運び屋。

 黄金の山が欲しければ、私をこの機械人形と共に、カーディレットまで安全に、確実に運ぶのですよ!」


「へいへい……」


ガスパールの熱弁もそこそこにあしらい、ハンターたちは雲が通り過ぎる遥か上空1000メートルを飛んでいくのだった。

金のなる木はともかく、依頼者を目的地まで確実に運ぶには、まだまだ道のりは遠かった。

特にこのセレスティアでは、自分たちを目の敵にする忌々しい竜騎士たちが、常に監視の目を光らせている。

出来れば彼らに見つかる事無く、この海域をやり過ごしたいところだ。








突然、騎鳥たちのけたたましい鳴き声が、辺りに鋭く響く。

どうやら、そうも簡単にいかないようだ。



ドラゴンハンターたちは周囲を警戒する。

すると、水平線にいくつも浮かぶ白い大きな雲の影から、高速で滑空する竜とそれを操る騎士の姿が現れた。

雲の死角に潜み、編隊飛行の端にいるハンターから、確実に順に仕留めていく。


それは、シルバーピンクの短髪の涼やかな目元をした女性だ。

相棒の銀色の鱗の竜と共に、夜空を切り裂いて落ちる流星のように、流麗な無駄のない動きで、狙いを絞り槍を放つ。


「ギィィーッッ!!!」


槍は正確に、騎鳥の翼を射止める。


「くそっ、風切羽をやられた……!!」


騎鳥の動きが鈍り、ハンターが怯んだその瞬間、竜騎士の女性が振るった槍はハンターの頸部を切り裂く。

鮮血が迸り、ハンターは海へ落下していく。その様を、槍を構えた女性は冷たく黙って見下ろしていた。


「竜騎士め……!! 俺たちの仲間を……!!」


「その言葉、そっくり貴方たちに返させてもらうわよ。

 私たちの海を荒らし、仲間の命を奪っていった罪は、命を以て償いなさい。」


もう1人のハンターが竜騎士の女性を銃で狙うと、その後ろから獰猛そうな紅い竜と共に大きな影が現れ、

ハンターの銃を奪い、片手でひょいと軽々持ち上げる。


「なッっ……?!!」


「おーおー、随分こりゃまたひ弱そうなハンターだな。槍も十分に振るえねぇそうじゃねぇか。

 だから毒とか卑怯な手を使ってでしか、俺たちに立ち向かえないんだろ?」


屈強そうな男は、ハンターを持ち上げ、背中にしょっていた2つあるうちの1つの、大きな鋭い刃を首に突きつける。


「う、うるさい!! 勝てばいいんだ勝てば!!

 でかい剣なんか振り回すのなんか、今や馬鹿正直な野郎だけだ。んなの、時代遅れなんだよ!!」


往生際悪く、喚き散らすハンターをしばらく見つめていたが、やがてその男は、興味なさそうにその手を海めがけてパッと放した。


「……やめた。お前みたいな奴は、サメに食われちまうのがお似合いだ。

 まぁ、サメだって嫌がって離れていくだろうがな」


海にハンターが落ちる水音が、辺り一面に大きく響く。





次々とハンターが撃破されていく様子を見て、ガスパールは慌てふためき、ステッキの中からスタンガンを取り出して振り回す。


「えぇい、私に近寄るな!! 早く!!私を連れて早く逃げるのです!! 護衛にいくら払ったと思っているのです?!」


すると、太陽の中心から1つの影が、豪速でガスパールを乗せているハンターをめがけて急降下していく。

白いランスを構えて竜に乗っていたのは、他の竜騎士たちよりも、ひと回りもふた回りも体格の良い男だ。


急降下に気付いたドラゴンハンターたちのリーダーに応戦する暇さえ与えず、まるで稲妻が走るように、

その竜騎士は一気に上空から海面までを駆け抜けた。




瞬間、大きくバランスを崩し、ガスパールが大事に抱えていたキュイは、その手を離れて、雲が浮かぶ海へとまっさかさまに落ちていった。


「し、しまった……!! 早く、早くあれを追いかけるのです!!」


ガスパールは間一髪で攻撃を避けたハンターに指示するが、ハンターは今襲ってきた相手を見て、蒼白になる。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ……あいつは、竜騎士どもの頭だ……飛天突きの守護壁、ここは逃げの一手だ!!」



「何を言ってるのです!? あの機械人形は金の卵ですよ!! あれをなくしたら元も子もありません!!」

「元も子もねぇのは自分の命よ!! 命あっての金だろ!! だから俺らは安全なやり口しかしねぇんだよ、クソッ!!」



ハンターの首を引っ掴み喚き立てるガスパールの襟をわしづかみにし、自分の後ろに座らせると、

ドラゴンハンターたちに指示して、ハンターのリーダーは彼らから一目散に逃げていった。




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なんとか命からがら逃げたガスパールは、手元に残った設計書だけを、カーディレット帝国の軍部に持っていった。

それに技術研究部の研究者が応対する。


「設計書だけか? 現物が無いと話にならないぞ」

「こっちも事情があって、なんとかこれだけ手に入れたのですよ!」

「それでは、最初の約束とは異なるな。報酬もカットさせて貰う」

「な…!? 現物は大幅に壊れてしまっていたのです。そう考えれば設計書の方が貴重でしょうに!」

「実際に造ってみたものが想像通りに動くとは限らないから、実際に動いていた現物と比較するのは当然だろう。

 技術職を舐めないで頂きたい」

「ぬぅ……!!」


当初予定していた物と若干異なる持参品に対して、技術研究部の研究者の聴取に

ガスパールはぐうの音も言えず押し黙ってしまう。


結局ガスパールは、約束していた額に比べてわずかな額しか、帝国兵から手渡されなかった。



オートクチュールのスーツはあちこち綻んだり擦り切れて埃にまみれ、自慢の口髭は艶を失いぼさぼさだ。

海を越えて奔走し、その結果今地べたに伏すその姿は、とてもみずぼらしいものだった。


悔しさのあまり、歯をぎりぎり軋ませてガスパールは呟く。


「見ていなさい…… もう一度彼を探し当て、帝国の技術者たちに差し出し、目にもの言わせてやりますよ……!」












一方、帝国兵2人が設計書を手に、牢獄のような薄暗い建物の中へ入っていくと、1人の年老いた研究者が

部屋の真ん中の机に、枷を嵌められた状態で、静かに佇んでいた。



「仕事だ」



来訪者に気が付くと、随分白髪の増えたその頭を、ゆっくりと持ち上げる。


兵士は、今しがた受け取った設計書を、埃だらけの机に広げた。

その机はもう随分使われていないのだろう。



しかし、部屋の隅には色々な数式や回路が書きなぐられた書きかけのノート、

削られただけ削った鉛筆や、インクで持ち手の汚れたペンがいくつも散らばっていた。




「この設計書に載っているものと同じものを作るんだ」



研究者は、机に広げられた設計書に目を向ける。



その複雑な回路を目で覆っているうちに、心の奥深くに閉ざしていた気持ちが、ふつふつと再び湧き上がるのを感じる。


この回路は、どういう役割を果たしているものなのだろうか。

ここのコアは? 材質は何を使えば良いのか?


誰も読んだことのない書物を紐解くような、好奇心に満ちた眼差しで、老いたその研究者は設計書を隅から隅までくまなく眺める。



「……これは、まだ誰も作る事が出来ないと言われているものだ。

 お前に、作れるか?」



挑戦するような兵士の問いかけに、その研究者は静かに、しかし自信に満ちた声で答えた。



「誰に向かって物を言っておる。このワシに。いいじゃろう。作ってみせよう」