澱んだ灰色の雲が重く立ち込める、カーディレット帝国の空。
今にも嵐がやって来そうな、そんな空模様だというのに、
要塞の東の端に位置する見張りの塔から、1人と1匹が、その姿を現した。
黒く滑らかな、漆黒の翼。爬虫類にも近い、まるで蜥蜴のような骨ばった四肢と長いしっぽ。
見開かれた瞳孔は細い切れ込みが入った金の色。その視線はサーチライトのように、周囲を厳しく見つめる。
それは帝国に住まう、獰猛な竜の亜族、ワイバーンだった。
「空の機嫌はどうだ、23号。」
そう声をかけたのは、寡黙そうな細身の青年だ。
カーディレット帝国軍のトレードマークである軍帽の代わりに、紅の飛行帽を目深に被り
もともと鋭い目つきが、更に陰に隠れてより鋭さを増している。
しかし、相棒である23号と呼ばれたワイバーンに話しかけた彼の口調は、
その見た目の厳しさよりも、やや穏やかさを含んでいた。
様子を気にかけてきた青年に、ワイバーンは甲高い声を上げるが、鼻先を主に向けて静かに傅く。
まるで、己の主を敬うかのように。
「その23号って呼び方、俺はあんまり好きじゃないなぁ。家畜みたいな感じがしてさ」
後ろから2人に声をかけてきた青年は、帝国兵にしては穏やかな風貌で、人の良さそうな声で話しかける。
「お前のように名前を付けるのもどうかと思うがな。情が移るだろう。ゲオルグ、無駄な事はしない方が身のためだ」
「なんて言って、毎朝ちゃんと23号の様子を見に来る君も、結構情が移ってるんじゃないかな、エンヴィー?
俺は君のそんな所、嫌いじゃないよ」
「……変な奴だ」
ゲオルグと呼ばれた青年が朗らかに笑いながら、エンヴィーと呼ばれた青年に話しかける。
ワイバーンに手綱をかけながら彼の言葉をあしらうエンヴィーの口調はそっけないままだ。
「おはよう、23号」
穏やかに話しかけ、ゲオルグは23号に朝の挨拶をした。
己の主人以外にはめったに懐かない23号であるが、ゲオルグには喉をゴロゴロと鳴らし、目を細めて嬉しそうにする。
「23号に触るどころか、話しかける奴こそいないのに、お前は物好きだな」
「素直で律儀な、いい子だよ?」
「お前以外でそう言う奴は見た事ないがな」
彼らの様子を眺め、そうエンヴィーが不思議そうに溢す。
やがて、雲間からうっすらと、朝の光が差し込む。
悪天候の多いカーディレットにおいて、日光が見られるのは稀な事だ。
日の出を確認すると、エンヴィーは23号の背に乗り、しっかりと手綱を握り、一打ち綱を打って合図をする。
すると、夜の空よりも黒々とした漆黒の翼を空一杯に広げ、1人と1匹はふわりと離陸する。
「……先に行くぞ」
そう言い残すと、エンヴィーと23号は、朝とは呼べなさそうな重々しい灰色の空へ飛び立っていった。
騎竜部隊を少し動かしてみよう! という事で軽く書いたお話。
そっけないエンヴィー君と、お人好しのゲオルグ君の対比がミソです(笑)